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転生した異世界の生活

07 執事たちの企み 2

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 俺はセドラに抱きかかえられ、食堂へと足を運ぶ……これが当たり前になりつつあって慣れって怖いわ
 廊下で母上が俺に気が付き、こちらへ小走りに向かってきた。
 それなのに、俺の耳元では「チッ」とセドラは見るからに嫌そうな顔をしていた。

「母上」

「アレス、こっちにいらっしゃい」

「ソフィ。アレス様はお腹が空いておられます。というわけで、後にしろ」

「そう、では。私と一緒に行きましょうか?」

 母上がそう言って両手を広げ俺が来るのを待っているのだが、セドラがそれに従うはずもない。
 それにしても、セドラ。声のトーンがおかしくない? 舌打ちをした所から顔を見てはないけど……雰囲気だけで怖い。

「ソフィ、持ち場から離れ。有ろう事かアレス様を出しにする所業。許されると思うなよ?」

「うっ、分かったわよ。戻ります、アレスそれではまた後でね」

 一体この二人には何があったんだろう……聞きたいけど、聞くのが少し怖い。
 食堂の椅子に降ろされる。
 体が小さいので俺用に作られた椅子……気分は大人がお子様ランチを食べているレベル。
 わかる、分かってはいるんだ。俺が小さくてこのテーブルが大きいってことは……

「アレス様にセドラ様」

「ニック、アレス様に夕食をお願いできますか?」

 料理人のニック。
 ガッシリとした体格に、料理人に必要なのかと聞きたい程の太い腕と胸板。
 しかし、彼から作り出される料理はどれも絶品。
 文句を言う方がどうかしているんじゃないのかと思うほどだ。

「そう言えば、アレス様は昼食をお取りになってませんでしたね。直ちに取り掛からせてもらいます。どのようなものがよろしいですか?」

 この世界の料理は何が何だか分からない。かと言って、和食が欲しいと言ったところで当然通じそうにもない。
 しかし、俺は貴族のお坊ちゃん。
 使用人に対しての心構えもバッチリ習得済みだ。だからこそ、こういうときに対処ぐらいは知っている。

「ニックのご飯は美味しいから、お任せするよ」

「有難うございます、これから取り掛かるため申し訳ございませんがしばしお待ち下さい」

 ドアが閉まると、何かがぶつかる音が聞こえ、歓喜の声が聞こえたけど気のせいだと思いたい。
 そう、気の所為……俺はまだ寝ぼけているのかもしれない、ニックが入っていった部屋から「うらっ!」という声と同時にドゴッと鈍い音なんて、全く聞こえてこなかった。

 何が出来上がるのだろうかと、心配しながら彼が作る料理を待っていた。
 この世界の使用人というものは……他の屋敷に仕えている使用人も皆こういうものなのか?
 それとも、ここにいる使用人がおかしいのかもしれない。

「ねぇセドラ……」

「はい、何でございましょうか?」

「母上……」

 あれ、空気が……顔の変化は全くないのに、セドラからは苛立っているのを感じ取れた。
 だいたい今のことだけで何が気に入らないというのだろうか?

「母上は今日は何をされていたのかな……」

 ふぅーと長く息を吐き、俺の前へと屈んでいたのをやめて胸に仕舞っていた時計を取り出して、はあっと息を吹きかけ磨いていた。
 バレてるから、溜息ついたの思っきりバレてるから。

「さぁ、私めはアレス様の専用執事ですから。ソフィ程度のことなど存じ上げません」

 ソフィ程度……なんで、そういうことを平然と言えるんだ?
 一応は主人の奥さんなんだぞ? それに、セドラは俺の専用執事だ。
 その母親なのに……この二人の間に何があったのだろうか?

「おや、セドラ」

「失礼だろう、ダンケ」

「これはこれは、申し訳ございません。アレス様」

 俺の方へと深く頭を下げている。
 声を掛ける順番のようなものだろうか?
 もう一人執事ダンケ。
 セドラとは違いダンケはこの屋敷の使用人全てを管理しているらしい。

「しかし、ちょうどいい所に来た。ダンケ、こちらに来てくれ」

 一体何の話だ? というか、目の前で堂々と内緒話っていうのはいいものなのか?

「誠ですか!?」

「声が大きい。では手配をよろしく頼むぞ」

「ははっ」

 だから……なに?

「セドラ」

「はっ、何でございましょうか」

 俺が呼ぶと、二人して悪い企みをしていたというのに、俺が呼んだだけでニコニコとして顔に変貌していた。
 その変わり身の速さもすごいな。

「あれ……えっと、なんだっけ?」

「ぶふっ」

 ごまかすためにキョトン顔をしたつもりだったのだけど……まさかウケるとは思ってなかった、これからは自重しよう。

「ど、どうしたの? 大丈夫、セドラ」

「も、申し訳ございません。思い出されましたら何なりと」

 ダンケと何を話ししていたのかが聞きたい所だったけど、多分聞かないほうがいいような気がした。
 様子からして、まともじゃないのは確かだった……
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