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奴隷解放編

221 お嬢様、どうして・・・

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 夏季休暇が始まり、私達はとある場所に訪れていた。
 ここで起こる結果は、多くの人が望まないことに繋がるだろう。
 しかし……その繋がりがあるからこそ、私はここを許すことが出来ない。

「お嬢、準備が整いました」

「そう……なら行きましょうか」

 私の後ろには多くの冒険部隊が並んでいた。
 皆は私の我儘に付き合わされ、これから起こることに手を貸してくれる。
 驚くこともなかったし、皆は疑うこともなくただ忠実に課せられた命令を遂行するだけ。
 
 ルキアとクロは私の隣りにいてくれるが……これからやろうとしていることに対して、今の私をどう見えているのかしらね。
 二人とは最近ではあまり話をすることがない。
 よく思っていないのは間違いない。

 ティアとチロが屋敷に残っている二人を護衛している。そのままずっと彼女たちを守ってくれることを願うしかないわね。
 用意された台の上に上がると、皆の顔がよく見える。
 その不安そうな顔からも、私がやろうとしていることの意味が見いだせないのだと思う。

「お嬢様。迷われることは何もございません」

「ええ、分かっているわ」

 私は振り返り目標を見ていた。一度だけあの場所に行ったことはある。
 冒険部隊の皆もあの場所へと行き……何人もの仲間を引き連れて屋敷に戻ってきた。
 私が手を上げると、後ろからは武器を手にしたのか金属音が聞こえる。

「あの場所を壊滅させる。攻撃開始!」

 前方にある場所へ向けて手を振り下ろす。
 冒険部隊の皆が一斉のその場所をめがけて走り出す。
 見張りをしているであろう雇われていた傭兵たちは、次々と殺されていく。
 中からも続々と人が出てくるが、冒険部隊の相手にはならない。

 私は二人に守られながら後を追うように進んでいく。
 襲われたことで別の出入り口から逃げようとするが、土魔法のよって作られた壁に阻まれ、火や氷と言った魔法によって殺される。

 虐殺でしか無い。

 ゆっくりと歩く私がその場に辿り着く頃には何もかもが終わっていた。
 死体は建物の中に入れられ、建物ごと燃やすために薪も用意されていた。広場に集められた人達は足を拘束され……逃げ出すことも許されない。
 そんな彼らの回りに剣が突きつけられ、逃げ場はどこにもなかった。

「貴方達が生き残れるかもしれないという方法は二つ。私に協力するか、ここにいる人たちを殺してでも逃げるかの二つです」

 奴隷商人たちは、この状況を前に考えることを諦め平伏していた。
 ガタガタと震え、いつ死んでもおかしくはないことで恐怖を感じている。
 自分の命がそれだけ惜しいのね。私も同類か……

「ここにいる人たちをどのような経緯で連れてきていたのか、明日の朝までに全て答えなさい。逃げようとすればその場で殺します」

 奴隷商人たちの後ろに冒険部隊が見張りに付き、奴隷市場に居た傭兵たちは全て殺されていた。
 夜になる頃には、建物と一緒に燃やされる。

 奴隷商人の見張りが二人になったということで、自分たちの拠点に戻り転がっていた剣を掴み襲いかかるものも何人か居たが……容赦なく殺す。
 私がそう命じていたから、そこに躊躇は存在しない。

「なるほどね……道理でいろいろとおかしいと思っていたのよね」

 おかしいと以前から思っていたのが、以前の屋敷に奴隷として売られていた価格表。
 その多くが冒険者で、違約金を建て替えたはずだと言うのに、あまりにも安すぎる設定。
 奴隷商人はどのようにして冒険者たちを奴隷にしていたのか……陥れようとする人達からお金を貰っていたから、二束三文の価格でも十分儲かっているということだ。

 私のように孤児が拾われて、奴隷商人に買われるということも少なくはない。
 そういう子供はこの場所にも何人も居た。
 奴隷になれば……奴隷のままその一生が終わる。

「それはもう用済みね」

「お、お待ち下さい。今後は、このようなことから足を洗い、真っ当な仕事をします」

「ええ、そうね。来世では真っ当に生きることを願うわ」

 何が真っ当な仕事をするよ。端っから考えてもいないことを良くもぬけぬけと……

「お嬢様。そろそろご休憩になさいますか?」

「そうね、まだ時間はかかるだろうしね。テントに戻るわ」

 奴隷市場を後にして、私達は用意されていたテントに戻る。
 メイドたちは私の姿を見てぎこちない笑顔に変わる。

 用意されたお菓子と紅茶。
 それらに手を付けることなく、持ってきた書類に目を通していく。
 気に入らないと言うだけで、相手を陥れ……奴隷にする。なんとも酷いことを考えていたのね。

 これらは十分過ぎる証拠になる。
 貴族たちが関与していたことを、国王陛下は知っていたのかしらね。
 クロセイルでも奴隷たちはひどい有様だった。

 この奴隷市場でも……色違いは居た。
 だけど、それは居たと言うだけの記録だけで、すでに処分されている。
 そんな話はこの場所だけで済むようなものではない。

 この他にも数多くの奴隷市場は存在しているし、街には当然のように奴隷商館がある。
 私に聖女と同程度の力があるというのなら、これが全て終わった後、私はきっと……

「お嬢様。紅茶が冷めましたので入れ替えます」

「そのままでいいよ。今頂くから」

 カップに手を伸ばしたが、メイドに取られてしまう。
 私のせいで彼女たちも暗い顔をしていた。用意された温かい紅茶を飲むと、メイドたちは安堵にも取れるようなため息を漏らしていた。

「そろそろ……始めても良いのかもしれないわね」

「どうかしましたか?」

「こっちに来てくれるかしら……セリア」

 名札を確認し彼女の名前を呼ぶ。
 そうでもしないと私は皆の名前すら呼ぶことはない。

「は、はい」

 名前を呼ばれたことで緊張したのか、大きな声で返事をしていた。
 私は彼女の左手を掴む。

 奴隷紋。こんな物があるから……

「奴隷紋開放」

 彼女に刻まれていた、奴隷紋が浮き上がり文様は砕け散り消えていく。
 膝をついて、奴隷紋の無くなった左手の甲を何度も擦っている。
 私が奴隷紋を開放できるのは一日せいぜい一人が限度。
 二人を開放できるが魔力を失い、倒れるかもしれない。

 こんな所でそんな事はできるはずがない。

「どうして……私の紋様が……」

「これはもう必要ないわね」

 彼女の左胸に付けられていた名札に触れ、無理やり引っ張る。
 セリアは私の腕を掴み、何度も首を振っていた。

「お嬢様、お止めください……私はお嬢様のお役に立てないということなのですか?」

 そんな事を一度も思ったことはない。
 誰でもそんなふうに思うなんてできるはずがないのよ。
 私は皆にどれだけ助けられていたか……だけどね、皆が思うほど私は立派な人間ではないのよ。

「私の奴隷でない貴方には不要なのよ。屋敷に戻ればちゃんと支度金を渡すから、貴方が思うようにこれからを生きて」

「お嬢様、何故この様な真似を……お体は大丈夫ですか?」

「一人だけなら問題はないわね。魔力が戻り次第、皆を開放していくわ」

 他のメイドたちも同様に名札を握りしめ奴隷紋を見ていた。
 誰もが涙を流しながら……ようやく開放される喜びに震えていた。
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