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奴隷解放編

219 お嬢様という存在

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「分かった、許可しよう。お前が思うようにしてもいいが、街道を塞ぐようなことはするなよ」

「ありがとうございます。他の方々に迷惑にならない範囲で開拓を進めることにします。では、お話は済んだようですので……私はこれで」

 私としては、できるだけ早くこの場所から退きたい。
 何も言われていないとは言え、何時まででも王妃様の膝の上にいるわけにもいかないのだけど……

「あ、あの、王妃様? なにゆえ私の肩を掴まれておられるのですか?」

「どこへ行こうとなされるのですか?」

「あ、いや、かえ……」

「イクミよ、夕食をともにと考えているのだが、良いだろう?」

 私が起こされて、朝食もまだなのに……今はどう考えても昼なんですけど? 昼食ならまだしも、なんで夕食?
 王妃のご機嫌伺いのために私を利用するつもりなの?

 ここで断ろうものなら、王妃様からの仕打ちのようなものを気にしているみたいね。
 ライオは頼むように頭を下げている。
 二人を見ているだけで、ここの家族の立場がよく分かるわね。

「王妃様。それでは、お昼をご一緒してもいいですか?」

「ええ、もちろんです。夕食も朝食もね」

 なんか増えてる……
 王妃ことライオのお母さんはきれいな人だけど、明日までの朝食を私に付き合えというのかしらね。
 当然ここに泊まっていけって話なのだろうけど……どこかのタイミングを見計らって逃げ出そうにも、ここは内部を全く知らない王宮。
 迷子になって、見張りの騎士に見つかって、国王陛下に怒られる。

 開放されるまで、おとなしく従ってたほうが良いわね。

「も、もちろんです」

「それでは向かいま……」

 ああ、小さい私だけど長い間乗せていたから足が痺れているのね。
 ソファの横にずらされたことで、これは好奇?

「イクミ?」

「はい、分かってます」

 距離を取ろうとしたことで、国王陛下から名前を呼ばれた意味を理解した。
 最近理不尽なことに巻き込まれすぎる。
 今までの出来事を思い返しても、理不尽じゃなかったことがどれだけ少なかったかとも言えるわね。

「王妃様、大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です。少しだけ待ってくださいね」

 私は王妃の隣に座り、回復するのを待った。
 テーブルに置かれていたお菓子が、私の口元へと運ばれる。
 王妃から差し出されたものだから、気にすることなくそれを口にした。
 小さなクッキーのようなものだったが……

 かなりの甘さに、何か飲み物が欲しくなる。しかし、王妃様は二個目を用意していた。
 これは断っても良いのか?
 いいよね?

 二人は揃って、私の視線から顔を背けたまま見てくれなかった。
 私はこの甘さに耐えるので精一杯。
 そんなに優しそうな顔を見られても困る。

「もう一ついかがですか?」

「あ、はい……この後お食事もありますのでこれだけで」

 そう言って、またしても甘いお菓子を頬張る。
 嬉しそうにしているが、これはかなり強烈よね。

 二個目のお菓子に無事完食すると、王妃の痺れは治まり紅茶を飲む機会も失われたまま昼食が始まった。

 ライオからは特に話しかけられることはなかったが、二人からはこれまでのことを細かく聞かれた。
 前世の記憶を持っている事は伏せて、屋敷のことだったり、奴隷たちのことだったりといろいろ話した。
 王妃様と一緒に庭を散歩したり、王宮内を見て回る。

 たとえ王宮だろうとも、私を見る目は所々から集まる。
 それだけ私という存在が異質に思えた。
 その理由は忌み子である私だからだろう。この世界において髪の色と目の色は同一であって、私のような色違いは、出来損ない、まがい物として扱われていた。

 しかし、数年前に王命が下される。

 忌み子の象徴とも言える色違いは、何も変わることのない人間だということ。
 能力の差はなく、差別されるべきではないと……それが本当に浸透していれば、忌み子というものは存在していない。

 だけど、そうはならないのが人間という生き物なのよ。

 エルフたち同様に、何かが違うものは忌避される。
 それは、地球の今も昔もそう変わりはしない。見た目で判断され、個人の持つ内面の能力を見つけることはなく、欠点を探す。

 それなのに……私は何故ここまで特別な扱いを受ける?

 私という存在に、何かが期待されている。
 それは国王陛下? ライオ?
 見だよく知りもしない貴族たち?

 一番怪しいのは……お父様。

 そろそろ、覚悟を決めるべきよね。
 明日になればここから開放されると思う。クレアやメルのような特別な存在でない私は……ここにいるべきではない。

 だけどその前に、私にはやらないといけないことが残っている。
 これだけ多くの奴隷を抱える私なら……きっと上手くやれる。

 皆を使うのはこれで最後。


   * * *


「どうだった? 初めてイクミに会った感想は」

 今回のことは、セラフィールの件があったからではない。
 イクミ・グセナーレ。それがどういう人物であり、その危険性を確かめるためのものだった。

「可愛らしい女の子。とてももろくいとも簡単に崩れそうで、それを守る力はとても大きい。正直ずっとここに引き止めるべきなのかとも思いました」

 見た目は幼さの残る少女。
 王妃の第一印象はそれだった。

「そうだな。それは、この国……」

「ええ、私達の破滅を意味しているのと同じです。あの子を守るというだけで、わずか数十人で三千兵に立ち向かえるはずはない」

「たが、それを一人欠けることもなく成し遂げた。あの報告を聞かされたときは、イクミに対してどう接するべきかを悩んだ。当の本人は自身の持つ力をまるで理解していない」

「それはどうなのでしょうか……理解していて、あのように振る舞われていることは?」

「一度兄上に相談するしかあるまい」

「お義父様には?」

 国王は腕を組み考え込んでいた。
 イクミの父親である前国王の娘だ。この下位の出来事は伝わっているというのに、一向に姿を表さない。
 手紙の返答もなく、国王としてイクミに対してどう扱えばいいのか悩んでいた。

「報告はしているが、音沙汰はない。まだ様子を見るということなのか、あるいは父上ですら見えていない出来事だったのかもな」
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