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奴隷解放編
213 お嬢様が持つ力の一部
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イクミがクロセイル公爵家のある街を制圧して四日が過ぎた。
街を囲む壁の周りには多くの兵士が集結していた。
その数、三千。
クロセイル公爵が街に戻り、自分の屋敷に辿り着くとたった一人の小娘によって街が落とされていた事実を知る。
『貴方様に、命をかけた決闘を申し込みます。勝敗は、私か貴方様の首です』
イクミからの申し出に憤怒するも、多くの冒険部隊に取り囲まれた状況で剣を抜けば自分がどうなるかを理解しその提案を受け街から出ていく。
街に残っていた兵士は誰もが、戦意喪失で戦えることすらままならない。
クロセイル公爵は馬を走らせ近くにある別の町に滞在している兵士をかき集めていた。
「忌々しい忌み子風情が! あの日の屈辱を晴らせてもらうぞ」
* * *
「どうなされるおつもりなのですか?」
私達は、集められた兵士を眺めていた。
こっちにいる数の何倍。どう考えても向こうが有利なのだけど……なんでこうも不安というものを感じられないのかしらね。
「他の街から集めてきたようだけど、思っていたより多いわね。さすが、小競り合いな戦争をしているだけのことはあるわね」
「あれでも、まだ半分だろうな」
この戦いでどれだけ犠牲になってしまうのか……それは考えることじゃないわね。
比べるまでもないほどの戦力差でありながらも、冒険部隊の誰もが目の前に広がるその数に圧倒される様子はなかった。
私を中心に、取り囲むように陣形を取る。
バナンとドゥルグは一番先頭に立っていた。
「お嬢には絶対かすり傷も負わせるなよ」
「おうよ」
「お嬢様のために、勝利を!」
私の言葉がいらないほど、皆はこれから起ころうとしている戦いを前に、士気が高い。
「この戦いに勝利し、私の前に転がる邪魔な小石に躓くほど私達の弱くはない!」
クロセイル公爵の幕を下ろす必要がある。
残されていた資料の中に、ケイロガンドにある幾つかの侯爵家と手を結び侵略によって領土を拡大した後、新たな国の建国なんて誰が認めるものか!
そんな事になれば一体どれだけの犠牲が生まれるのか全く理解していない。
「狙うは、マルディンゼノ・クロセイル!」
私は丘の上にいるクロセイル公爵を指差す。
「お嬢様、マディンゼノでございます」
ルビーが訂正されると私の回りから大きな笑い声が広がる。
こんな時ぐらい大目に見てくれてもいいでしょ!
「と、とにかく、皆は私を守りながらに前に進みなさい」
私達が進んだことで、集められた兵士は剣を抜き、槍を構え、後方の弓は上空へと向けられている。
「兵士たちよ開戦だ。族共をひとり残らず始末しろ」
自分だけ馬に乗って高みの見物をするようだけど、そう簡単に行くと思っているのかしらね。
「報告します。あの忌み子を取り囲むものは奴隷です。奴隷紋を確認したとのことです」
「奴隷?」
「弓矢部隊準備が整いました」
「弓部隊だけで終わりそうだが……構わん放て、弓が終わり次第残ったものを蹴散らせ」
それにしても、この二人はやっぱり馬鹿で狂人なのかしら?
「お嬢を頼んだぞ!」
「嬢ちゃん、突破口は俺たちに任せろ」
バナンとドゥルグが二人だけが兵士に向かって駆け出す。
兵士たちが武器を構えたことで、このバカ二人はどう考えてもおかしいことは口にする。
なんで二人だけで、正面突破するっていうのよ。何度言っても聞いてくれないから好きにしていいと言ったのだけど……言いたくなるのも無理はないわね。
放たれた矢に怯むこともなく、持っていた剣によって弾き飛ばされる。
長い槍であれば、剣が届かない距離から攻撃ができるが……バナンの剣によってその槍が斬られる。ただの棒となっては意味がない。
しかし、二人にとってはその落ちた槍の先端ですら武器になる。
ドゥルグがそれを拾うと同時に投げつけ、防具のない顔面に突き刺さる。
バナンの剣によって何人もの兵士が倒れる。
「おいおい、なんなんだこれは?」
「これだけの数ってだけで……一人、一人が弱すぎる」
二人の周りを兵士が取り囲むが……死体の山が増えていく。
ドゥルグは倒れている兵士を投げ飛ばし、倒れ込んだ兵士たちを足場に変える。
「もう一度矢を放て」
バナン達に気を取られていたのか、後方にいる弓の部隊は全て、クロとチロによって瞬く間に殺されていた。
並の人間では彼女たちのスピードについて行ける、いや……まともに見えるものは少ない。
一度放つことで、クロセイル公爵の注意は後方に向けられることはなく。後方部隊も矢を放ったあと、これで終わったとばかりに気が緩んでいたのだろう。
弓なんてものは場合によっては自軍に被害をもたらしかねない代物。ここに居るのはただの兵士であり、魔法を使う魔道士の姿はなかった。
それがいるのなら真っ先に倒すつもりだった。そのために二人には奇襲を任せていたのだけど、まさか後方部隊の全滅って。
これで本当に戦争をしていたと言うの?
「これは訓練ではないの。撤退するのなら、殺しはしない。私達の目的はクロセイル公爵の首だけよ」
私の声が聞こえた多くの兵士は、この異常な光景に目を疑っただろう。
見た目からしてただの小娘に命をかけて守り、こんな小娘が前に出てくるなんてありえない、と。
バナンたちの戦いに加わったのは、わずか十名。
それなのに、一方的に殺されていく仲間を見て彼らは恐れていたのだ。
私の持つ力を……皆の左手に刻まれた奴隷紋。奴隷であるはずの彼らが強いはずないと、何度も言い聞かせるが、その奴隷たちによって殺されていく。
「馬鹿なっ!? 相手は奴隷なんだぞ、何故こんな事に……忌み子風情に!」
クロセイル公爵の言葉に、戦っていたバナンたちは私の前に戻ってくる。
私達はあまりにも近くに来すぎている。
私の声がクロセイル公爵に届くほど、近くに来ていた。
「これで最後です。撤退をするのなら殺しません」
私は手を空に向け、大きく音が出るように手を叩く。
思っていたよりも小さな音だったが……クロ達によって駆けつけてくれた、冒険部隊がクロセイル公爵の後ろから現れる。
その数は、五十人ほど。
クロセイル公爵家を落としたその日に、何人かを各地に向かわせ冒険者をしていた部隊をここに呼び寄せていた。
ここにいる精鋭と、ほぼ同等の力を持つ。
今ですら相手にならないのに、私の戦力が増えたことで中には、武器を手放すものも現れる。
まだ優勢である人数にもかかわらず、死にたくないと走り出すもの。何人もの兵士が武器を手放し、他の者を押しのけてでも逃げ出そうとしていた。
「こんな事があるはずがない……」
クロセイル公爵の言葉に私も同感だ。
この私が近くにいるというのに、駆けつけてくれた彼らの頭上には巨大な炎の玉が作られていた。
魔法による攻撃は戦争でも使われるが、決まって初手に使われることが多い。
弓矢と同じく、自軍に被害を出してしまえば意味はないから。
「あいつら、ふざけやがって。ここにいお嬢様がいるのよ」
「まって、何をしているのよ!」
魔法を警戒してその魔法から守るために、私の回りには魔法が使える人を配置していたけど、どうして貴方達もその魔法を使っているというのよ!
「これならどうかしら! あっははは、身の程を知りなさい!」
まるでお前たちよりも私達のほうが強いのだと、言わんばかりにさっき見たものよりも大きな炎の玉が私の頭上に作られていた。
彼女ってこんなキャラだったっけ? 名前は……ラーシャ。彼女は、私があの奴隷たちのお風呂の時に初めて会話をした。
それがどうして……こうなるっていうのよ。
それからは悲惨だった。
ラーシャが作り出した炎を前に兵士たちの戦意を失い、誰もが諦め、心が折れていた。
ルビーが手を叩いたことで、我に返ったのか魔法がかき消される。
馬から落ち、ガタガタと震えるクロセイル公爵を私達が取り囲む。
「後は貴方だけです、クロセイル公爵様」
街を囲む壁の周りには多くの兵士が集結していた。
その数、三千。
クロセイル公爵が街に戻り、自分の屋敷に辿り着くとたった一人の小娘によって街が落とされていた事実を知る。
『貴方様に、命をかけた決闘を申し込みます。勝敗は、私か貴方様の首です』
イクミからの申し出に憤怒するも、多くの冒険部隊に取り囲まれた状況で剣を抜けば自分がどうなるかを理解しその提案を受け街から出ていく。
街に残っていた兵士は誰もが、戦意喪失で戦えることすらままならない。
クロセイル公爵は馬を走らせ近くにある別の町に滞在している兵士をかき集めていた。
「忌々しい忌み子風情が! あの日の屈辱を晴らせてもらうぞ」
* * *
「どうなされるおつもりなのですか?」
私達は、集められた兵士を眺めていた。
こっちにいる数の何倍。どう考えても向こうが有利なのだけど……なんでこうも不安というものを感じられないのかしらね。
「他の街から集めてきたようだけど、思っていたより多いわね。さすが、小競り合いな戦争をしているだけのことはあるわね」
「あれでも、まだ半分だろうな」
この戦いでどれだけ犠牲になってしまうのか……それは考えることじゃないわね。
比べるまでもないほどの戦力差でありながらも、冒険部隊の誰もが目の前に広がるその数に圧倒される様子はなかった。
私を中心に、取り囲むように陣形を取る。
バナンとドゥルグは一番先頭に立っていた。
「お嬢には絶対かすり傷も負わせるなよ」
「おうよ」
「お嬢様のために、勝利を!」
私の言葉がいらないほど、皆はこれから起ころうとしている戦いを前に、士気が高い。
「この戦いに勝利し、私の前に転がる邪魔な小石に躓くほど私達の弱くはない!」
クロセイル公爵の幕を下ろす必要がある。
残されていた資料の中に、ケイロガンドにある幾つかの侯爵家と手を結び侵略によって領土を拡大した後、新たな国の建国なんて誰が認めるものか!
そんな事になれば一体どれだけの犠牲が生まれるのか全く理解していない。
「狙うは、マルディンゼノ・クロセイル!」
私は丘の上にいるクロセイル公爵を指差す。
「お嬢様、マディンゼノでございます」
ルビーが訂正されると私の回りから大きな笑い声が広がる。
こんな時ぐらい大目に見てくれてもいいでしょ!
「と、とにかく、皆は私を守りながらに前に進みなさい」
私達が進んだことで、集められた兵士は剣を抜き、槍を構え、後方の弓は上空へと向けられている。
「兵士たちよ開戦だ。族共をひとり残らず始末しろ」
自分だけ馬に乗って高みの見物をするようだけど、そう簡単に行くと思っているのかしらね。
「報告します。あの忌み子を取り囲むものは奴隷です。奴隷紋を確認したとのことです」
「奴隷?」
「弓矢部隊準備が整いました」
「弓部隊だけで終わりそうだが……構わん放て、弓が終わり次第残ったものを蹴散らせ」
それにしても、この二人はやっぱり馬鹿で狂人なのかしら?
「お嬢を頼んだぞ!」
「嬢ちゃん、突破口は俺たちに任せろ」
バナンとドゥルグが二人だけが兵士に向かって駆け出す。
兵士たちが武器を構えたことで、このバカ二人はどう考えてもおかしいことは口にする。
なんで二人だけで、正面突破するっていうのよ。何度言っても聞いてくれないから好きにしていいと言ったのだけど……言いたくなるのも無理はないわね。
放たれた矢に怯むこともなく、持っていた剣によって弾き飛ばされる。
長い槍であれば、剣が届かない距離から攻撃ができるが……バナンの剣によってその槍が斬られる。ただの棒となっては意味がない。
しかし、二人にとってはその落ちた槍の先端ですら武器になる。
ドゥルグがそれを拾うと同時に投げつけ、防具のない顔面に突き刺さる。
バナンの剣によって何人もの兵士が倒れる。
「おいおい、なんなんだこれは?」
「これだけの数ってだけで……一人、一人が弱すぎる」
二人の周りを兵士が取り囲むが……死体の山が増えていく。
ドゥルグは倒れている兵士を投げ飛ばし、倒れ込んだ兵士たちを足場に変える。
「もう一度矢を放て」
バナン達に気を取られていたのか、後方にいる弓の部隊は全て、クロとチロによって瞬く間に殺されていた。
並の人間では彼女たちのスピードについて行ける、いや……まともに見えるものは少ない。
一度放つことで、クロセイル公爵の注意は後方に向けられることはなく。後方部隊も矢を放ったあと、これで終わったとばかりに気が緩んでいたのだろう。
弓なんてものは場合によっては自軍に被害をもたらしかねない代物。ここに居るのはただの兵士であり、魔法を使う魔道士の姿はなかった。
それがいるのなら真っ先に倒すつもりだった。そのために二人には奇襲を任せていたのだけど、まさか後方部隊の全滅って。
これで本当に戦争をしていたと言うの?
「これは訓練ではないの。撤退するのなら、殺しはしない。私達の目的はクロセイル公爵の首だけよ」
私の声が聞こえた多くの兵士は、この異常な光景に目を疑っただろう。
見た目からしてただの小娘に命をかけて守り、こんな小娘が前に出てくるなんてありえない、と。
バナンたちの戦いに加わったのは、わずか十名。
それなのに、一方的に殺されていく仲間を見て彼らは恐れていたのだ。
私の持つ力を……皆の左手に刻まれた奴隷紋。奴隷であるはずの彼らが強いはずないと、何度も言い聞かせるが、その奴隷たちによって殺されていく。
「馬鹿なっ!? 相手は奴隷なんだぞ、何故こんな事に……忌み子風情に!」
クロセイル公爵の言葉に、戦っていたバナンたちは私の前に戻ってくる。
私達はあまりにも近くに来すぎている。
私の声がクロセイル公爵に届くほど、近くに来ていた。
「これで最後です。撤退をするのなら殺しません」
私は手を空に向け、大きく音が出るように手を叩く。
思っていたよりも小さな音だったが……クロ達によって駆けつけてくれた、冒険部隊がクロセイル公爵の後ろから現れる。
その数は、五十人ほど。
クロセイル公爵家を落としたその日に、何人かを各地に向かわせ冒険者をしていた部隊をここに呼び寄せていた。
ここにいる精鋭と、ほぼ同等の力を持つ。
今ですら相手にならないのに、私の戦力が増えたことで中には、武器を手放すものも現れる。
まだ優勢である人数にもかかわらず、死にたくないと走り出すもの。何人もの兵士が武器を手放し、他の者を押しのけてでも逃げ出そうとしていた。
「こんな事があるはずがない……」
クロセイル公爵の言葉に私も同感だ。
この私が近くにいるというのに、駆けつけてくれた彼らの頭上には巨大な炎の玉が作られていた。
魔法による攻撃は戦争でも使われるが、決まって初手に使われることが多い。
弓矢と同じく、自軍に被害を出してしまえば意味はないから。
「あいつら、ふざけやがって。ここにいお嬢様がいるのよ」
「まって、何をしているのよ!」
魔法を警戒してその魔法から守るために、私の回りには魔法が使える人を配置していたけど、どうして貴方達もその魔法を使っているというのよ!
「これならどうかしら! あっははは、身の程を知りなさい!」
まるでお前たちよりも私達のほうが強いのだと、言わんばかりにさっき見たものよりも大きな炎の玉が私の頭上に作られていた。
彼女ってこんなキャラだったっけ? 名前は……ラーシャ。彼女は、私があの奴隷たちのお風呂の時に初めて会話をした。
それがどうして……こうなるっていうのよ。
それからは悲惨だった。
ラーシャが作り出した炎を前に兵士たちの戦意を失い、誰もが諦め、心が折れていた。
ルビーが手を叩いたことで、我に返ったのか魔法がかき消される。
馬から落ち、ガタガタと震えるクロセイル公爵を私達が取り囲む。
「後は貴方だけです、クロセイル公爵様」
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