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奴隷解放編

212 お嬢様、これは酷すぎます

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「セラフィ。この私をよく利用しようと企んでくれたわね。その罪は償ってもらうわよ、セラフィを捕らえなさい」

 腕を掴まれると、抵抗の意志を見せていた。
 バナンの手を振りほどき、ホールの中心へと進んでいた。

「リンド様!」

 彼女がリンドの名前を呼ぶ。だけど、相手はあのリンドだ。
 私のことをそれなりに知っているだろうけど……冒険部隊の強さは嫌というほど知っている。
 たとえ三人が揃っていたとしても、外にも冒険部隊がいるからまともにやり合うのは不利な状況。

「おとなしくしていれば、危害は加えないけど……抵抗するつもりなら、容赦はしないわよ。もちろんリンドもね」

 その言葉を聞いたセラフィは私に詰め寄ろうとするが、チロによって止められる。軽く関節に衝撃が加えられ膝を床につけていた。
 睨みつけられるが、こうなることは全く予想すらしていなかったみたいね。リンドはどう思っていたのかわからないけど。

「これはどういうことですか!?」

「静かにさせて」

 布を口に巻かれて、手足も縄で縛られる。何度も声を出そうとするもそれは声にならない。
 まだ姿を見せないということは、彼女を救い出す機会でも狙っているのかしらね。
 だとすれば、夜に襲撃でもするつもりなの?

 それとも、二人はそういう間柄ではなかったということかもしれないわね。

「お嬢様、兵士の鎮圧が終わりました」

 屋敷の外へ向かい、現状を確認する。屋敷に居た兵士以外にも外からの増援もあったようだが、全て気絶している。

『あのクレアですら敵わない力を、イクミちゃんが保有しているのが一番危険かもしれないわね』

 その光景を見て、メルが言っていた意味が、本当の意味として理解してしまう。
 ここにいる誰もが武器を持ち、刃向かってきた兵士を容赦なく殺すとした場合。ここに倒れている兵士は全てただの屍になっていた。
 あの時の言葉は私が思っていたことだが、私は奴隷たちの力を使ってこの場所を制圧した。

「そう。なら……手筈通りに頼んだわよ」

 この街には多くの兵士がいる。
 東にある宿舎へと彼らを運び込み、全ての武器を回収する。
 兵士がいても、武器を持たない彼らはどこまで抗えるか、それを見てクロセイル公爵がどの様な顔をするのか見ものね。

「お嬢、使用人たちはどうするんだ?」

「このまま屋敷に残らせても邪魔になるから、お金を少し渡して屋敷から追い出して」

「了解だ。それにしても、公爵が不在というだけでこうもあっさりと攻められるものなのか?」

 ここまでは想定内だけど、皆の強さは異常すぎるわね。
 盾ごと兵士を吹き飛ばした時は、現実逃避しそうになったわよ。
 バナンが言いたいことも分からなくはないけど……自分たちの強さというものを一番理解していないのかしらね。

 ホールに戻ると、クロたちは剣を抜き取り構えていた。

「んー! んー!」

「お嬢様、今回の件どの様な段取りなのでしょうか?」

 てっきりスキを狙って、セラフィを助けに来ると思っていたのだけど……でも、一人だけみたいね。
 だとすると、他の二人はリンドに反対をしているのか、リンドが囮になっているかということね。

「今の貴方に教えるつもりはないわ。大人しくしてくれるのかしら?」

 リンドはバナンたちにも取り囲まれ、持っていた剣を投げ捨て手を後ろに回していた。
 物分りが良くて助かる……それで済む話ではないのよ。

「バナン、リンドを気絶させなさい」

 バナンの拳によりリンドは吹き飛ばされると壁に激突していた。ドゥルグと二人で掴み上げ、意識がないことを確認する。
 もうちょっとは手加減してあげてもいいのに、気絶している相手の頬を何度も打っていたら目を覚めるかもしれないでしょ?
 この二人は重要人物であり、私を利用しようとした。

 その罰は受けてもらうわよ。

「イクミ様、なんだかすっごく悪い顔をしてますね」

「お姉ちゃん、それは言わないほうがいいです」

「お嬢様のことですから、碌でもない事は間違いないです」

 両手で頬をグリグリと回して、その悪い顔とやらを無くすが、三人は私の顔を見てため息を漏らす。
 え……なに? 直っていないの?

 リンドとセラフィを縛り、部屋に閉じ込めた。私はクロセイルの執務室を陣取り皆に指示をする。

「それじゃ、屋敷の中をひっくり返すわよ。どんな些細なものでもいいから、この屋敷を隅から隅まで調べなさい」

 戻ってきた部隊たちにも協力してもらい、屋敷中をくまなく調べ上げる。
 怪しい壁を破壊し、隠し扉がないか本棚を無理やり動かしたりと、クロセイル公爵家が画策している情報は多いことに越したことはない。
 それ以外の何かがあったとしてもおかしくはないのだから。


   * * *


「う、ここは……」

「気が付かれましたか?」

「セラ?」

「み、見ないでください」

 リンドとセラフィールは、縄で縛られているのだが……イクミの考案により二人が繋がれるように縛られる。
 リンドがセラフィールを後ろから覆いかぶさる形になっていて、二人共下着姿に変えられている。
 手は動かせるものの、肘に巻かれていた縄は二人を縛っている縄に繋がれ、解こうとすれば必然的にその大きなセラフィールの柔肌を触ることになる。

「なんでこんな事に!? まさか、お嬢様が?」

「ど、どこを触っているのですか!?」

「ち、ちがう。俺は縄を解こうとして」

「でしたらそこは違います!」

 気絶させられたリンドを見て、涙を流し縄で縛られていたにもかかわらず側に向かおうとしたセラフィール。
 それを見て、セラフィールの思いを確信する。
 イクミの提案に誰もが白い目を向け、それを聞いていたセラフィールは顔を真赤にして固まっていた。

 まさに鬼畜外道の所業である。
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