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奴隷解放編
210 お嬢様の居ない屋敷
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イクミが王都を立ってから数日。グセナーレの屋敷では、主であるイクミが居ないことで屋敷の中は静まり返っていた。
それは穏やかと言うよりも、メイドたちは見るからに元気がなかった。
執務室に置かれた机では、独り言をぶつくさ言っていた声はない。
しかし、静かな日常だったのは、わずか一日だけ。
メルティアはいつものように、執務室で魔法石に関する資料に目を通して、現代社会にあったさまざまなものを作り出すために日々努力を重ねる。
集中できる環境はつかの間であり、イクミであれば独り言は聞いているだけで面白いものが多かった。
ここの居る人物はメルティアの集中力を無くさせていた。
「クレア……いい加減にしてよね。鬱陶しいから、ここから出ていってくれない?」
イクミが居ないことで、初日は剣を振り回していたが、翌日になってからというもの何時でもどこでもため息を漏らしていた。
彼女と対等に戦える相手は残っていない。少ない護衛の中、彼らを疲弊させないためにクレアとの模擬戦はイクミによって禁止されている。
以前のようにただ剣を振り回しているだけでは、クレアは満足できなくなっていた。
「お姉さま! お姉さままで私を見捨てるのですか?」
何故そうなると、メルティアにもため息が移る。
寂しがり屋な彼女の相手をするにも、メルティアに出来ることは少ない。出かけるにも、聖女の祝典を明日に控え、夜には王宮に行くことになっている……
「そんな訳無いでしょ、私はもうやめるから。ほら、二人で王宮に行く準備をしましょう」
ベルを鳴らして、メイドがやってくると執務室から出ていく。
クロセイル公爵家で何かが合ったとしても、イクミの護衛からして身の安全は保証されている。
そんな事よりも、クレアにとってこれから待ち受けている出来事を心配してほしいと思い、二人は同時にため息を漏らしていた。
「クレアローズ様? 気分があまりよろしくないようですが……」
「イクミ様が、居ないことが少し寂しいのです」
「なるほど、お嬢様ですか。そうですね、お仕えできないことは寂しいですね」
主ではなく、その友人に仕えている。そんな彼女たちも、現状に思う所があるのだろう。
メルティアは二人の姿を見て、なにか二人が喜びそうなことを考えていた。
「王宮には数日過ごすらしいけど、あー、うん。私も居るから安心しなさいって」
クレアからの視線が突き刺さり、その言葉を聞いたクレアは少しだけ笑顔を見せていた。
現段階では一応クレアが姉になっているのだが……そういう所を一度も見せないのもまた、クレアらしいと、メルティアもつられて笑っていた。
「イクミ様がいらしてくれたのなら……」
「そうね。イクミちゃんがいれば、ドレスを嫌がっている姿が想像できるわね。渋々か、ルビーさんに怒られて不貞腐れているけど、それがまたかわいいの本人は気がついていないのよね」
嫌々しながらもその様子が可愛いこともあって、メイドたちはその姿が見たくてしょうがない。
ドバンと部屋の中に大きな音が鳴り響く。
メルティアはその音に耳をふさぐが、隣りにいたメイドは頭を抑えて蹲っていた。
その音を出していた犯人は、嬉しそうに手を叩いていた。
「お母様に言いつけるわよ」
「あ、はい。ごめんなさい」
クレアは何かを思いつき、加減を忘れて手を叩く……そこから発せられる音の大きさというものを考えていなかった。
注意されたことで、再び小さく手を叩く。
「イクミ様も参加されるのであれば、それは当然着飾ってくれますよね?」
「普段の服で行くような場ではないからね。また着せかえ人形でもさせるつもりなの?」
回数は減ったものの、メイドたちがイクミに使える日というのはまだ残っている。
当然それにクレアも参加して、イクミの嫌がりそうにドレスばかりを選ぶ。
一度だけ、純白のドレスに身を包んだ今にも死にそうになっていたイクミの顔が、メルティアの脳裏に浮かぶ。
「程々にね……」
そんな事をされても、イクミはクレアを嫌うことはなかった。
何度もおもちゃにされようとも、最後には笑って許していた。そんな彼女を思い出したのか、メルティアはクレアの明るい表情を見て微笑んでいた。
「イクミちゃんは、結構面倒な相手に好かれたわね」
その頃、イクミたちは明日に向けて準備を進めていた。
「おおおぉぉぉ」
「どうされましたか?」
「ああ、いやなんだろう、今すごい悪寒と言うか、なんとも言えない恐怖感と言うか……」
イクミは全身に鳥肌が立ち、腕を組んでさすり続けている。
辺りを見渡し、それを発生させる人物を探していた。
当然居るはずがないのに……頭の中では、ここに居てもおかしくはないと考えてしまう。
「寒いのですか?」
「そういうわけじゃないのだけど……トパーズはここには居ないわよね?」
「当たり前ではありませんか。一体どうされたというのですか」
「ああ、いや……大丈夫だよ」
トパーズが何かをしていると思っていたイクミだったが……それは大きな間違いだと気がつくはずもなかった。
それは穏やかと言うよりも、メイドたちは見るからに元気がなかった。
執務室に置かれた机では、独り言をぶつくさ言っていた声はない。
しかし、静かな日常だったのは、わずか一日だけ。
メルティアはいつものように、執務室で魔法石に関する資料に目を通して、現代社会にあったさまざまなものを作り出すために日々努力を重ねる。
集中できる環境はつかの間であり、イクミであれば独り言は聞いているだけで面白いものが多かった。
ここの居る人物はメルティアの集中力を無くさせていた。
「クレア……いい加減にしてよね。鬱陶しいから、ここから出ていってくれない?」
イクミが居ないことで、初日は剣を振り回していたが、翌日になってからというもの何時でもどこでもため息を漏らしていた。
彼女と対等に戦える相手は残っていない。少ない護衛の中、彼らを疲弊させないためにクレアとの模擬戦はイクミによって禁止されている。
以前のようにただ剣を振り回しているだけでは、クレアは満足できなくなっていた。
「お姉さま! お姉さままで私を見捨てるのですか?」
何故そうなると、メルティアにもため息が移る。
寂しがり屋な彼女の相手をするにも、メルティアに出来ることは少ない。出かけるにも、聖女の祝典を明日に控え、夜には王宮に行くことになっている……
「そんな訳無いでしょ、私はもうやめるから。ほら、二人で王宮に行く準備をしましょう」
ベルを鳴らして、メイドがやってくると執務室から出ていく。
クロセイル公爵家で何かが合ったとしても、イクミの護衛からして身の安全は保証されている。
そんな事よりも、クレアにとってこれから待ち受けている出来事を心配してほしいと思い、二人は同時にため息を漏らしていた。
「クレアローズ様? 気分があまりよろしくないようですが……」
「イクミ様が、居ないことが少し寂しいのです」
「なるほど、お嬢様ですか。そうですね、お仕えできないことは寂しいですね」
主ではなく、その友人に仕えている。そんな彼女たちも、現状に思う所があるのだろう。
メルティアは二人の姿を見て、なにか二人が喜びそうなことを考えていた。
「王宮には数日過ごすらしいけど、あー、うん。私も居るから安心しなさいって」
クレアからの視線が突き刺さり、その言葉を聞いたクレアは少しだけ笑顔を見せていた。
現段階では一応クレアが姉になっているのだが……そういう所を一度も見せないのもまた、クレアらしいと、メルティアもつられて笑っていた。
「イクミ様がいらしてくれたのなら……」
「そうね。イクミちゃんがいれば、ドレスを嫌がっている姿が想像できるわね。渋々か、ルビーさんに怒られて不貞腐れているけど、それがまたかわいいの本人は気がついていないのよね」
嫌々しながらもその様子が可愛いこともあって、メイドたちはその姿が見たくてしょうがない。
ドバンと部屋の中に大きな音が鳴り響く。
メルティアはその音に耳をふさぐが、隣りにいたメイドは頭を抑えて蹲っていた。
その音を出していた犯人は、嬉しそうに手を叩いていた。
「お母様に言いつけるわよ」
「あ、はい。ごめんなさい」
クレアは何かを思いつき、加減を忘れて手を叩く……そこから発せられる音の大きさというものを考えていなかった。
注意されたことで、再び小さく手を叩く。
「イクミ様も参加されるのであれば、それは当然着飾ってくれますよね?」
「普段の服で行くような場ではないからね。また着せかえ人形でもさせるつもりなの?」
回数は減ったものの、メイドたちがイクミに使える日というのはまだ残っている。
当然それにクレアも参加して、イクミの嫌がりそうにドレスばかりを選ぶ。
一度だけ、純白のドレスに身を包んだ今にも死にそうになっていたイクミの顔が、メルティアの脳裏に浮かぶ。
「程々にね……」
そんな事をされても、イクミはクレアを嫌うことはなかった。
何度もおもちゃにされようとも、最後には笑って許していた。そんな彼女を思い出したのか、メルティアはクレアの明るい表情を見て微笑んでいた。
「イクミちゃんは、結構面倒な相手に好かれたわね」
その頃、イクミたちは明日に向けて準備を進めていた。
「おおおぉぉぉ」
「どうされましたか?」
「ああ、いやなんだろう、今すごい悪寒と言うか、なんとも言えない恐怖感と言うか……」
イクミは全身に鳥肌が立ち、腕を組んでさすり続けている。
辺りを見渡し、それを発生させる人物を探していた。
当然居るはずがないのに……頭の中では、ここに居てもおかしくはないと考えてしまう。
「寒いのですか?」
「そういうわけじゃないのだけど……トパーズはここには居ないわよね?」
「当たり前ではありませんか。一体どうされたというのですか」
「ああ、いや……大丈夫だよ」
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