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聖女編

202 お嬢様とクロセイル公爵家のご令嬢

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 ダラダラとした食事会のようなものは、ご令嬢達にとってただの話の花を咲かせるための場になっている。
 私はその場をトワロに任せ、クレアたちの指示に従うように伝えた。
 席を立ち、それを見ていたクロセイルのご令嬢も私の後ろへと続いて来る。

 さてと……どんな話をされるのか、正直に言って興味が湧いてくるわね。

「こちらが私の執務室になります。ルビー、何か飲み物を用意してくれる?」

「かしこまりました」

「どうぞお掛けになってお待ち下さい」

「ええ、お時間を頂きありがとうございます」

 私はいつものように机の椅子に腰を掛け、ご令嬢はあたりをキョロキョロと見渡している。
 何を企んでいるのやら……テラスではルキアとクロが待機している。
 もし何かがあったとしても、私に危害を加えるのは難しい。

「グセナーレ様は、聞き及んでいた通りお仕事に熱心なお方なのですね」

 一番上に置かれていた怪文書を手に取り、すぐにゴミ箱に捨てる。書き置きに、グヘヘって普通書くものかしらね。

 トパーズが用意してくれた、クロセイルに関する資料に目を通していただけだが……そんなふうに見えてしまうものなのか。
 この世界に来てからというもの、これが私にとってはの当たり前だった。けれど、ご令嬢たちからすれば、私のように雑務をしている人のほうが珍しいでしょうね。

 もう一人私のような人もいるか。
 この執務室にはもう一人分の机が用意されている。
 私がここに居たというのに、今日の計画をそこで考えていたということはないよね?

「私にできることと言ったらこの程度ですので、誰から聞いたのかはなんとなく想像できますが、それほど熱心というわけでもないですよ」

 徹夜すれば怒られるしね。
 王都に来てからというもの、トパーズが大半を処理してくれるから私ができることは本当に少なくなっている。
 それだと言うのに、私は見事なまでに上手くハマったわね。

「しかしながら、クロセイル様から、そのように褒められると少しばかり照れますね」

「私のことはどうぞ、セラフィと呼んでください。私も貴方様のことをイクミ様とお呼びしたいのですが」

「私のことはそれで構いせんよ。セラフィ様」

 私がそう呼ぶと、セラフィ様は首を横に振り、小さくため息を漏らしている。

「様は不要に願います、イクミ様」

「そ、そうですか……セラフィ、私のことも呼び捨ててください」

「そのようなこと恐れ多くて、出来ません」

 何でだよ!
 これってクレアと同じパターンということ? いや、クレアの場合誰に対しても敬称をつけているわね。
 だとするのならこれはどういう事なのかしら?

「と、ところで、私と話がしたいということでしたが、どのような内容になられますか?」

 セラフィは立ち上がり、私に対して深く頭を下げている。
 何でそんな事をしているのか私には全くの見当がつかない。
 公爵家の令嬢が何の理由もなしに頭を下げることはまずありえない。謝罪をするにも、先にその言葉を言うべきだ。

「セラフィ様? 一体何を……」

「イクミ・グセナーレ様。私を助けて頂き深く感謝申し上げます」

 助けた?
 トパーズが用意した資料には、クロセイルで私の奴隷たちが魔物を倒したという報告だけ。
 特に問題となるようなこともなく、ましてや彼女を助けたという意味がわからない。

「どうか顔を上げてください。私には仰っている言葉の意味が理解できません」

「イクミ様の家臣に、リンド様をご存知かと思われます」

「リンド……」

 その名前はあのリンドのことを言っているのだろうか?
 トパーズから渡される報告書にはリンドたちの報告は上がってこない。あの三人は単独で行動をしている為、前の屋敷を出てからというもの一度たりとも戻ってきたことはない。
 彼らがいてくれたおかげで、ティアとも出会えた。

 私が知っているのはその程度であって、彼らがクロセイルで何をしたかまではわからない。
 セラフィ様……いや、クロセイルにおいて彼女を助けたというのなら、彼らであって私がということにはならない。

「リンドの他にランドとロイドの兄弟のことはご存知ですか?」

「はい、存じております。彼らがイクミ様の命により各地にいる魔物を倒したり、私のようなものを助けたりしていることも」

 前者は分かる話だけど、後者において全く知らないのだけどね。
 もしかして、ティアが暮らしていたあの孤児院。ああ言う人達を助けたりしていたと言うの?
 そうだとしても、リンドと私を結ぶ接点は、彼らが教えないと分からないことよね?
 私との繋がりを言いふらすとは思えないのだけど。

「リンドたちが貴方を救ったというのは、今初めて知りました。どういう経緯があったのかわかりませんが、ご迷惑をおかけしたりしていないでしょうか?」

「いえ、彼らは私を屋敷に運んで……そのまま行方知れずなのです。イクミ様であれば、何かご存知ではと思い」

「ごめんなさい、私も彼らの居場所は知らないの」

 私が知らないと言ったことで、酷く落ち込んでいるわね。
 貴族、それも公爵家のご令嬢。
 助けて貰って、屋敷まで運んでもらう。

「もしかしてだけど、拉致されていた所を助けられた?」

「お恥ずかしい話です。ケイロガンドの手の物と推測しておりますが、私を捉えたものは全て殺されましたので」

 そりゃ……あの三人なら、一人残らずやるわね。
 セラフィとしては、ちゃんと彼らに礼をしたいと思っているのね。
 ご令嬢を助けるために、私との関係を話したのか……公爵家に対して借りを作らせるために言ったのかもしれないわね。
 後者であれば、かなり面倒なことになりかねないわよ。全く余計なことを……

「少し話が変わりますが、私のことをずっと睨んでいたというのも、リンドたちのことを聞きたいと思ってのことかしら?」

 睨むことで私から彼女に何かしらの行動をさせようと、その程度であれば大抵の人は誠意ある謝罪をするだけで事なきを得るわね。
 全く無茶なことを考えるわね。

「そ、それは……お聞きしていた方とは、かなり印象が違っておりましたので」

「それは一体どういう……?」

 何を言ったんだ?
 リンドたちのことだから、余計なことを言ったに違いないわね。
 どうせ私はちんちくりんですよ。

「こ、こんなにも、愛らしく可愛いお方でしたので、疑ってしまい睨むような真似をして申し訳ございません」

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