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聖女編
196 お嬢様は誘拐されやすい
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「本当に慕われているな……しかし、お前が望んだことは、本当にこれでいいのか?」
トパーズは、イクミの髪を撫でていた。
自分のことを何一つ疑うこともなく、その上理解すらしない。
何より自分よりも他人を優先し、危険であるにも関わらず飛び込んでいく。
「お前には、私の声が届いているのか?」
自分が傷つくことで、どれだけ周りに重荷を背負わせているのか……そんな事も気にすることもなく、これからもあの時と同じことが繰り返されるのではないのかと、トパーズは心配をしていた。
「この子に、お前は何を期待していたというのだ?」
寝ているイクミに対してそんな事を言ったところで返ってくる言葉はない。
トパーズは、今もなお自分の膝の上で眠るイクミの頬を手を当てる。
あれだけのことをしてきたにも関わらず、怒った素振りはあるものの何も変わらず信頼を寄せるイクミが不思議でたまらなかった。
「寝顔は可愛いが……これが、お前だったら、どうだったのだろうな」
最初はいたずらだったあの行動の数々も、今では心から楽しんでいる。
そんな自分が何より不思議でしかなかった。
奇行を重ね、恥ずかしがる姿や怒った顔を思い返すだけで口元が緩んでいる。
「本当に不思議な子ね」
「ん……あれ? トパーズ?」
「今はお休みください、お嬢様」
トパーズがイクミの額に手を置き、開かれた目は閉じられ再び寝息へと変わる。
小さな手を握り、あどけない顔を眺めていた。
イクミが寝返りをうち、毛布がはだける。熱が逃げないようにと掛け直していた。
ソルティアーノの屋敷に到着し扉が開かれるが、ルビーが抱きかかえるよりも先にトパーズが既に抱きかかえていた。
「私が運んでもいいわね」
「わかりました。では、お願いします」
ソルティアーノ公爵の屋敷の前には、すでに待機をしていた使用人に案内をされ、ベッドにゆっくり置く。二人は、少しだけ様子を見てから退室していた。
隣の部屋には、荷物が運び込まれ慌ただしく荷解きをしていく。ここでも、音を立てなてように慎重に進められていた。
「おはようございます。ルビーさん、トパーズさんも」
「クレアローズ様。この度は朝早くに押しかけてしまい申し訳ございません」
「いえいえ、イクミ様のことですから。私も今から楽しみなのです」
「そう言っていただけると幸いにございます。私は屋敷に戻りますので。ルビー、後の事はお願いよ」
違和感を感じたルビーはトパーズを引き止めようと手をのばすが、軽く振り払われ脱兎の如く逃げ出していた。
大きな声を上げることもできず、後を追うことも諦めていた。
「また……お嬢様に何と言えばよいのか」
「トパーズさんはどうされたのですか?」
「クレアローズ様はお気になさらないでください」
* * *
「ん……んー」
なんだか変な夢を見ていたような?
トパーズが居たような気がして……トパーズの声だけど、いつもとは違う感じがした。あれは何だったのかしら?
「あ、あれ?」
何かを思い出そうとしていたものの、目の前に映る光景に夢のことなんて頭の中から抜け落ち、何度も目をこすり辺りを見渡す。
模様替えをしたのかと思うぐらい私の知る部屋ではなかった。慌てて窓へ駆け寄るが、テラスが無くなっている?
いや、私の部屋は床下と同じ高さのガラス扉だ。
「ここは一体? 部屋から出るにも、大丈夫なのかしら?」
執務室にあるような机はないし、ソファーの前には低めのテーブル。
ベッドも私が使っていたものではない。
考えられるとするのなら誘拐?
「いや、しかし……あの包囲網をくぐり抜け、私が起きることもなく連れ出すなんて可能なの? そもそも、シェルターみたいな部屋にいたというのにどうやって? まさか……私が夜ふかしをしていたから、これは処罰の一環だと言うの?」
ルビーがそんなことを……する可能性は大いにあるわね。
だけど、クレアとの約束を知っているのだから、私を連れ出そうとする意味がわからない。
「お嬢様」
ノックの音が聞こえてくると、扉の向こうからは聞き慣れた声が聞こえてくる。
私は返事をする前に、扉を開けるとルビーの姿が見えた。
「おはようございます、お嬢様」
「ルビー。ここは一体?」
「ソルティアーノ公爵のお屋敷です」
公爵様のお屋敷?
何を言っているの?
ソルティアーノ公爵領って、どれだけ離れているのか分かっているの?
「王都にあるソルティアーノ家のお屋敷です。お目覚めですので、早速準備に取り掛かりましょう」
ルビーが手を叩くと、見慣れたメイドたちが私を取り囲んでいる。
準備、クレアの屋敷……私は寝間着のままでメイドたちの戦闘態勢。
「ちょっとまって、皆落ち着いて。話し合うよ、今ならまだ間に合うから」
ここがソルティアーノの屋敷なら……私の足は自然と後ろへ下る。
クレアが屋敷でお茶会をすると……メイドたちも詰め寄ってくる。
これから私の身に何が起こるのか容易に想像がつく。こんな姿では当然人前に出ることは許されない。
普段のように落ち着いたものならともかく、この様子からして絶対に私の意にそぐわない物が用意されている。
「お嬢様、何処へ逃げようとしているのですか?」
「楽しい楽しい、お着替えですよ」
「早く私達に妖精のようなお可愛い姿を、お見せになってください」
私に抵抗できることは何一つとしてない。
十人のもメイド達による壁を、突破できるはずがないのだから。
「そ、その前にトイレ。トイレに行かせて」
私の言葉で、にじり寄っていたメイド達はピタリと止まる。
だからと言ってこの状況を突破することが出来るわけはないが……生理的衝動を抑えて大惨事になるよりかはいい。
「ちゃんと着るから、だからお願い」
私は取り囲まれたまま、トイレへと案内され……用を済ませる。
「ルビー、少し聞きたいのだけど?」
「何でしょうか?」
「下着がなかったのだけど……私に何をしたの?」
私の問いに答えてくれることもなく、何食わぬ顔で準備が進められていく。
なんでこんな事になっていたのか……原因はアイツしかいない。
トパーズは、イクミの髪を撫でていた。
自分のことを何一つ疑うこともなく、その上理解すらしない。
何より自分よりも他人を優先し、危険であるにも関わらず飛び込んでいく。
「お前には、私の声が届いているのか?」
自分が傷つくことで、どれだけ周りに重荷を背負わせているのか……そんな事も気にすることもなく、これからもあの時と同じことが繰り返されるのではないのかと、トパーズは心配をしていた。
「この子に、お前は何を期待していたというのだ?」
寝ているイクミに対してそんな事を言ったところで返ってくる言葉はない。
トパーズは、今もなお自分の膝の上で眠るイクミの頬を手を当てる。
あれだけのことをしてきたにも関わらず、怒った素振りはあるものの何も変わらず信頼を寄せるイクミが不思議でたまらなかった。
「寝顔は可愛いが……これが、お前だったら、どうだったのだろうな」
最初はいたずらだったあの行動の数々も、今では心から楽しんでいる。
そんな自分が何より不思議でしかなかった。
奇行を重ね、恥ずかしがる姿や怒った顔を思い返すだけで口元が緩んでいる。
「本当に不思議な子ね」
「ん……あれ? トパーズ?」
「今はお休みください、お嬢様」
トパーズがイクミの額に手を置き、開かれた目は閉じられ再び寝息へと変わる。
小さな手を握り、あどけない顔を眺めていた。
イクミが寝返りをうち、毛布がはだける。熱が逃げないようにと掛け直していた。
ソルティアーノの屋敷に到着し扉が開かれるが、ルビーが抱きかかえるよりも先にトパーズが既に抱きかかえていた。
「私が運んでもいいわね」
「わかりました。では、お願いします」
ソルティアーノ公爵の屋敷の前には、すでに待機をしていた使用人に案内をされ、ベッドにゆっくり置く。二人は、少しだけ様子を見てから退室していた。
隣の部屋には、荷物が運び込まれ慌ただしく荷解きをしていく。ここでも、音を立てなてように慎重に進められていた。
「おはようございます。ルビーさん、トパーズさんも」
「クレアローズ様。この度は朝早くに押しかけてしまい申し訳ございません」
「いえいえ、イクミ様のことですから。私も今から楽しみなのです」
「そう言っていただけると幸いにございます。私は屋敷に戻りますので。ルビー、後の事はお願いよ」
違和感を感じたルビーはトパーズを引き止めようと手をのばすが、軽く振り払われ脱兎の如く逃げ出していた。
大きな声を上げることもできず、後を追うことも諦めていた。
「また……お嬢様に何と言えばよいのか」
「トパーズさんはどうされたのですか?」
「クレアローズ様はお気になさらないでください」
* * *
「ん……んー」
なんだか変な夢を見ていたような?
トパーズが居たような気がして……トパーズの声だけど、いつもとは違う感じがした。あれは何だったのかしら?
「あ、あれ?」
何かを思い出そうとしていたものの、目の前に映る光景に夢のことなんて頭の中から抜け落ち、何度も目をこすり辺りを見渡す。
模様替えをしたのかと思うぐらい私の知る部屋ではなかった。慌てて窓へ駆け寄るが、テラスが無くなっている?
いや、私の部屋は床下と同じ高さのガラス扉だ。
「ここは一体? 部屋から出るにも、大丈夫なのかしら?」
執務室にあるような机はないし、ソファーの前には低めのテーブル。
ベッドも私が使っていたものではない。
考えられるとするのなら誘拐?
「いや、しかし……あの包囲網をくぐり抜け、私が起きることもなく連れ出すなんて可能なの? そもそも、シェルターみたいな部屋にいたというのにどうやって? まさか……私が夜ふかしをしていたから、これは処罰の一環だと言うの?」
ルビーがそんなことを……する可能性は大いにあるわね。
だけど、クレアとの約束を知っているのだから、私を連れ出そうとする意味がわからない。
「お嬢様」
ノックの音が聞こえてくると、扉の向こうからは聞き慣れた声が聞こえてくる。
私は返事をする前に、扉を開けるとルビーの姿が見えた。
「おはようございます、お嬢様」
「ルビー。ここは一体?」
「ソルティアーノ公爵のお屋敷です」
公爵様のお屋敷?
何を言っているの?
ソルティアーノ公爵領って、どれだけ離れているのか分かっているの?
「王都にあるソルティアーノ家のお屋敷です。お目覚めですので、早速準備に取り掛かりましょう」
ルビーが手を叩くと、見慣れたメイドたちが私を取り囲んでいる。
準備、クレアの屋敷……私は寝間着のままでメイドたちの戦闘態勢。
「ちょっとまって、皆落ち着いて。話し合うよ、今ならまだ間に合うから」
ここがソルティアーノの屋敷なら……私の足は自然と後ろへ下る。
クレアが屋敷でお茶会をすると……メイドたちも詰め寄ってくる。
これから私の身に何が起こるのか容易に想像がつく。こんな姿では当然人前に出ることは許されない。
普段のように落ち着いたものならともかく、この様子からして絶対に私の意にそぐわない物が用意されている。
「お嬢様、何処へ逃げようとしているのですか?」
「楽しい楽しい、お着替えですよ」
「早く私達に妖精のようなお可愛い姿を、お見せになってください」
私に抵抗できることは何一つとしてない。
十人のもメイド達による壁を、突破できるはずがないのだから。
「そ、その前にトイレ。トイレに行かせて」
私の言葉で、にじり寄っていたメイド達はピタリと止まる。
だからと言ってこの状況を突破することが出来るわけはないが……生理的衝動を抑えて大惨事になるよりかはいい。
「ちゃんと着るから、だからお願い」
私は取り囲まれたまま、トイレへと案内され……用を済ませる。
「ルビー、少し聞きたいのだけど?」
「何でしょうか?」
「下着がなかったのだけど……私に何をしたの?」
私の問いに答えてくれることもなく、何食わぬ顔で準備が進められていく。
なんでこんな事になっていたのか……原因はアイツしかいない。
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