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聖女編

194 お嬢様と書類の山

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 クレアを始め、お茶会に関する情報は全て遮断されてしまい、私の知らない所で準備は着々と進んでいく。
 干渉することも出来ないまま、明日には何かを企んでいるであろうそのお茶会というものが始まろうとしている。

 ルビーはともかくとして、他のメイドたちやソルティアーノから来ている侍女にも、まるで箝口令如く詳しい話を聞くことはできない。
 誰もが同じことを言うので、何かを隠しているのは分かるのだけど。
 そんなに知られるとまずいもの?
 
 クレアがお茶会をすると言っていたのだから、やたらと隠す通そうとする意図が見えない。

「お嬢様。明日はクレアローズ様のお茶会ですので、そろそろお休みになられてはどうですか?」

「そうしたいところなんだけど……」

 今日に限って、私の机には報告書が山のように積まれている。
 ルビーもその書類の山を見ていた。
 トパーズがサボっていたツケが回ってきたのか、あるいは本気を出したのかわからないのだけど……これだけの量を一度に持ってこられても正直困る。

 その高さは、私が椅子に座ると、私の姿が隠れるほど積み重なっている。
 そんな高さのものが二つ。
 ここ数日はやたらと少ない様子からして、トパーズがサボっていたに違いない。
 私はため息を付いて、一枚の報告書を手に取った。

「明日のことはちゃんと分かっているから、区切りは付けるよ。でも、これをこのままにしておけないの。それと、何か飲み物をお願いできない?」

「クレアローズ様のことを考えれば、直ぐにでもお休みして頂きたいところですが」

 机の上に積まれた書類に目をやり、小さくため息を付いている。
 ルビーの言い分も分かっている。だけど、この量をこのまま放置することが出来ない。

「かしこまりました」

「ありがとうね」

 区切りをつけると言ったのはいいのだけど……なんでこうも厄介なものを残していたのよ。
 適当に数枚を取り、軽く目を通していく、大体の内容を把握してからテーブルの上に仕分けをしていく。
 後回しにできそうなものはそのままにして、対処が必要なものから進めていく。

「それにしてもよくここまで溜めたものよね。だいたいこんな物まで……私の承諾なんて必要がないとは思わなかったの?」

 中には私が目を通す必要があるのかと疑うようなものまで……こんなことは初めてよね。
 だとするのなら、トパーズは私に全て丸投げをしているとでも言うの?
 こんなふうに夜遅くまで仕事をしていると、以前の記憶が少しだけ思い返される。

 ここでは私が必要とされ、裁量の一つでも間違えれば皆に被害が及び可能性が出てくる。
 思いつくことはできるだけやったつもりだ。それが正しいのかと言われると、返答を直ぐにできるものでもない。

 私に残されたのは、あの屋敷と奴隷たち。
 備蓄は私だけであれば、三ヶ月は食べていける程度のお金。だけど、奴隷たちを見殺しにすることはできなかった。

 最初から奴隷商人として拾われたのだから、せめて奴隷たちがもう少しはいい生活をと思っていた。
 残されたお金を使い、屋敷の中にある使える物は全て使った。

 あれだけの人数を食べさせるには、毎日消費されるお金も多い。
 そして、奴隷たちに狩りをお願いして少しだけど活気が生まれる。それからというもの、冒険者ギルドでは一目置かれる存在へとなったものの、すぐに依頼の底が見える。

「あの頃もこんな書類に囲まれて、ルビーによく怒られるしていたわね」

 今でこそ貯まった資金にはかなりの余裕があるため、ある程度のことならその資金で何とかできることも多くなった。
 ラズ兄さんからはオークの討伐以来、定期的に送られてくる支援金もあるので助かっている。

 それは今でも継続されているのだけど……最初からあのお金があればとは思うのよね。
 カツカツだった資金も、冒険部隊が成功してくれたおかげで、皆の暮らしは維持されるようになった。開拓は難航していたけど場所を変わってもある程度の収穫が出来ている。

「それにしても、一体どれだけ広げるつもりなのかしらね」

 郊外では農業や畜産が広大に広がっている。特に何もない草原が広がっているだけだったため、歯止めが効かなくなってしまっているのかもしれないわね。このまま放っておくと、森のところまで広げてしまうかもしれないわね。
 植林も考えないといけないわね。

「これは、視察が必要になりそうね……公爵様からは大丈夫だと言われているけど、何処まで許容された話なのかがわからないから、そろそろ釘を差したほうが良いかもしれないわね」

 そこまで無理をして働かせているつもりはないのだけど、安めと言って休むような人たちじゃないのが困りものよね。
 収穫量は増えているし、そこで取れたものは女将さんの所へと卸され、その仕事はティアが匿っていた孤児院からの子供も手伝ってくれる。

 別に悪い話ではないのだろうけど、最近では女将さんのお店では作物をそのまま売りに出すほどの生産量になっているらしい。

「かなりの破格な値段で販売しているらしいから、余計なところからトラブルを招いてしまいそうね」

 王都周辺には、畑がないものだから全ては商人が運んできている物で賄われている。
 襲撃も予想はしていたけど、あの場所にも護衛の冒険部隊がいるので、そんなことは数回しかない。

「孤児たちに剣術の指南役が必要と……冒険者の皆は我流? それであれだけ強いとしても、教えるとなれば話が変わるものなのかもしれないわね」

 ある程度であれば、剣術の指南をしているのだけど……師範というものもなく、成長する見込みが難しいと記されていた。
 孤児の中には、騎士を目指している子供がいる。そのため、冒険者のような荒々しいものではなく、クレアのような……いや、学園の教師のように洗練された動きも必要になってくるのだろう。
 だからと言って私に甘い学園長に相談したところで、受け入れてくれるものではないと思う。
 ライオに相談しても結果は同じかもしれないわね。

「それだけではなく、家庭教師は引き続きベルドルトで良いと思うけど。彼のような優秀な人がなんで奴隷になったのかしらね。機会があれば、その話を聞いてみるのも良いかもしれないわね」

 時計を確認し、睡眠時間を指折して計算していく。
 これ以上はあまり良くはないのだろうけど……そう考えるものの後一枚、後一枚と時計から目をそらしていた。

「お嬢様?」
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