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聖女編

183 お嬢様の活躍

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 冒険部隊はダンジョンの探索も終わっているから、警護のために一部隊を戻しているから、そのままここに居させても大丈夫かしらね。
 しかし、どうせ戻すというのなら適任はバナン達よね……絶対に納得はしないだろうけど。

「お嬢様。何をお考えなのですか?」

「メルが聖女だった時のことよ。それで、この屋敷に住まわせれるのなら安全かなと思っただけ」

「そうですね。それは一理あります。であれば、部隊をこのままに?」

「そのつもりだけど……適任はバナンと思っているのだけどね」

 戻すのは一部隊でいい。バナンをとなると、ドゥルグも一緒になる可能性がある。それでは数が多すぎる。この辺りには隣接する家もあるから、数が多いと見張りの数も増やせるだろうし問題もない。

 しかし、ただでさえ要塞とまで言われているこの屋敷に、それだけの人数が並んでいるとしたら近所迷惑だよね。
 いや、寄り付かないことは良いことなんだろうけど……私は精神的に辛いわよ。

「本当に聖女であれば、グセナーレ家として総力を上げることに何ら問題はないかと思われます」

「言いたいことは分かっているわよ。ここの部隊は私に対しての扱いがね」

「ああ、お察しします」

 バナンとドゥルグを筆頭に、私に対しての崇拝度が群を抜いているのよね。隊長自ら、私のためにと遠征してまで進んで魔物の討伐へと向かい、私の安全のためだけに何でも尽くしてくれる。

 昔に比べて、部隊の中で最強と言っても過言ではない。
 また、上級冒険者ですらバナンの率いる私の奴隷たちに恐れをなしてしまっている。バナンとドゥルグの二部隊は合わせて四十人近くはいる。

 その奴隷たちでさえ、上級冒険者が苦戦する魔物を難なく倒してしまうものだから。
 奴隷に助けられた冒険者たちは、肩身の狭い思いをさせてしまったという話もあるぐらいだ。

 そんな化け物じみた皆だけど、私を崇拝しているものだから……何をしてもヨイショしてくるのよね。
 聖女のことを考えたら、私の我儘を言ってもしょうがないわよね。

 あの本に書かれている内容が正しいのなら、聖女の力というものは、聖女の願いそのものなのかもしれない。
 傷を治したことも、国を一つ滅ばしたのも、彼女たちの意思で決まっているのかもしれないわね。メルが何を思うかによって、どんな聖女になるのか……そして、私に守れるのだろうか?

「そもそも……聖女をここに招き入れていいものだろうか?」

 聖女となったメルは……いや、メルティアは何を願っていたのだろう?
 クレア達の話からだと、そういった描写は誰かを助けるために使われている。しかし、全ていい話というわけでもないのかもしれない。ゲームだとしても、ゲームだからこそ、バッドエンドも用意されているはずだ。

 ゲームのタイトルは『エンドレスワルツ』だったかしら?
 果てしない……ワルツはダンスのワルツでいいの?

「い、いや……これはあくまでもゲームのタイトルなのよね?」

 なら私に一体何が出来るのだろうか?
 本当に守れるというの?
 私は急激な不安にかられてしまった。そんな事を考えていたとしたら、その製作者の異常者でしか無いわよ?


   * * *


「お姉さま。こうしてイクミ様のお屋敷で一緒に過ごすのも、なんだか懐かしく感じますね」

 二人が始めて泊まった日から、この部屋は二人のために用意されている。
 何度もこの屋敷に泊まるものの、最近では並べられた二つのベッドに一人で眠る。
 隣にメルティアが居ることで、クレアは自然と笑みが溢れる。

「そうね……クレアは不安じゃないの?」

「聖女のことですか? 私は何も、不安に思っていません。だって、聖女はお姉さまですから」

 クレアの言葉に、メルティアは困った顔をしていた。
 ゲームを何度もプレイし、聖女として認定されたことで始まる物語の中心に、メルティア・レイネフォンがいる。
 ヒロインが選ぶ選択肢により、物語は変化を繰り返していく。

 しかし、その物語は全て用意されたものであって、今のような自由なものではない。
 バッドエンドは、誰とも結ばれることがなく、一人国のための聖女となり過ごしていく。
 クレアの様子を見ていたメルティアは、あの話を見ていないのだろうかと悩んでいた。最悪のバッドエンド……破滅の聖女の話を。

 しかし、メルティアはゲームとは全く関係のないジェドルトとの婚約者となり、今はあのクレアローズとともに夜を過ごしている。
 この世界で用意されていたゲームのイベントの数々。設定ですら、今となっては少しだけしか残されていない。そんな状況へと変わってしまったは、その設定をことの如くイクミが崩壊へと導いている。

 ダンジョンから魔物たちの大量出現。
 黒の狼による聖女暗殺。
 攻略者であるマガーレン伯爵領の没落。
 各地に広がる魔物の襲撃によって領地の疲弊。
 魔石の大量売却、魔法石や遊具による経済の活性。

 イクミ・グセナーレ。
 登場しないキャラでありながらも、彼女の持つその力は聖女ですら足元にも及ばないほど強大なものになっている。
 何より前国王の養子となって、現国王も承知している。事実上、王妹殿下であるイクミにはその事実を知らされてはいない。

 何故そんな事になっているのか、メルティアは疑問に思っていた。
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