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聖女編
177 お嬢様、お客様ですよ
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私はベッドの上でダラダラと、本を読んでいた。
残り少ない休みが終わるまで、何をしてもいいと許しを貰い気楽な格好のまま過ごしていた。
「お嬢様!」
「びっくりした。どうしたのよ、そんなに慌てて」
「申し訳ございません。お嬢様にお客様がお見えになりました」
面倒くさいな、会いたくないといえば帰ってくれるのなら、ルビーがこんなにも慌てたりはしないわね。
となると……私はため息を漏らして、ルビーの所へと向かう。
クローゼットから服を取り出し、テキパキと身支度を済ませていく。
折角の休日に一体誰が来たというのかしらね。
できることなら早々に切り上げてくれると良いのだけどね。
私は執務室かと思っていたのだけど、普段から全く使用していない三階にある応接室。
この場所を使うということは、かなりの人が来ているということなのね。
「本当にここに通したというのかしら?」
「はい。お嬢様、くれぐれも粗相の無いようお願いします」
ルビーから念を押される……それだけ目上の人ということみたいね。
扉をノックすると、トワロが中から開けていた。
「イクミお嬢様。お待ちしておりました、お客様がお待ちになられております」
案内をされるがまま中へと入り、私は頭を下げスカートを摘み広げた。
「大変お待たせを致しました。イクミ・グセナーレと申します」
「わたくしのほうこそ、突然の訪問を許していただき感謝申し上げます」
少し聞き覚えのあるような声に、頭を上げると私はそのまま膝をついて床に手をついていた。
「はぁー、緊張して損したよ。クレアでしょ」
「お嬢様!?」
「イクミお嬢様。この御方は、レイネシア・ソルティアーノ公爵夫人。クレアローズ様の母君にございます」
クレアの母親?
だって……あれ? 肖像画で見たあの人は……?
すでに亡くなっている?
「私はそんなにもあの子と似ていたのかしら?」
似ているも何も、どう見てもクレアにしか見えないのですけど……でも、なんだかすごく冷たく突き刺さってくるのはなんでかしらね。
クレアの母親だとしても、ルビーのあの言葉は一体何だったのよ。公爵様相手でもあそこまで言われたことはないのに。
「ソルティアーノ公爵家では肖像画を拝見しましたが、クレアにとても良く似ております」
「そう……それは、嬉しいと言うべきなのかしら?」
公爵夫人は笑っているようだけど、向けられる視線が冷たく感じる。
この人は、クレアのことをどう思っているのだろうか?
そういえば、クレアローズは悪役令嬢としてゲームの中ではかなり良くないと言っていた。
つまり……この人の血を引いているから?
「申し訳ございませんが、本日はどういったご用件でこちらに?」
「ああ、そうでしたわね」
公爵夫人は立ち上がり、私に対して深く頭を下げていた。
あの事件の事か……すでに何もかも終わっている話。とはいえ、公爵家の者として私に頭を下げざるを得ないということね。
「どうか、頭を上げてください。その件については解決しております。公爵夫人がお心を傷まれるようなことはありません」
「はい?」
頭を上げた公爵夫人は、キョトンとした顔で私を見ていた。
座り直して、顎に人差し指を当てて何かを思い出しているようだった。
「ああ、思い出しましたわ。そう言えば、襲撃されたのでした。わたくしとしたことがうっかりしておりました」
嘘でしょ?
どう考えてもそれしか無いわよね?
私はトワロの方を見るものの、首を横に振るだけじゃ何もわからないから!
だったら、さっき頭を下げたのは一体どういう意味なのかしらね。
この人がどういう人なのかが分からなさすぎる困るわね。
「では、改めまして、イクミ・グセナーレ様。公爵家で起こった出来事は大変申し訳ございませんでした」
「ですから、その事は本当にもう済んだ話です。ご用件をお聞かせ願えますか?」
「ええ、もちろんですわ」
嬉しそうに笑顔に変わっているけど、続きはなかなか出てこない。
紅茶を飲んでからというのも分からなくはないけど……
「あら、おいしい」
なんだろう、さっきと違って少しポワポワと言うか、話が進まない人のようね。
淑女よろしくかのごとく、お菓子一つ食べるにしても遅い!
その程度のお菓子なら、私だって一口で食べられるわよ!
「あの、公爵夫人。そろそろよろしいですか?」
「ごめんなさい。このようなもの始めて食べたものですから。とても美味しかったですわ」
「それでしたら、ソルティアーノ家に戻られても食べられますよ。考案したのはメルですから」
ここにある殆どのお菓子は、メルがここに居た時にレシピを置いて行ってくれたものばかり。
私からすれば食べ慣れてはいないものの、見慣れていたものではある。
「メルとは……メルティアのことですか?」
「ええ、ご子息のジェドルト様の婚約者でもあるあのメルティアです。それで、ご用件は?」
本当に面倒くさい人ですよ!
一体何だって言うのよ!
なんでハンカチで目頭を押さえているのよ!
いい加減本題!
早く!
「お嬢様」
呼ばれたのでルビーの方を見ると、自分の眉間を指差していた。
私は手の甲で眉間を揉み少しだけ表情を整えて、公爵夫人の言葉を待つことにした。
「イクミ・グセナーレ様。メルティアとルルーミアに出会えることに、深く感謝申し上げます」
「それはどういうことでしょうか?」
「ジェドルトに婚約者が出来たのも、私に新たな娘ができたことも、全てはイクミ・グセナーレ様によるもの。本当に、ありがとうございます」
いや……だから、どういうことなの?
残り少ない休みが終わるまで、何をしてもいいと許しを貰い気楽な格好のまま過ごしていた。
「お嬢様!」
「びっくりした。どうしたのよ、そんなに慌てて」
「申し訳ございません。お嬢様にお客様がお見えになりました」
面倒くさいな、会いたくないといえば帰ってくれるのなら、ルビーがこんなにも慌てたりはしないわね。
となると……私はため息を漏らして、ルビーの所へと向かう。
クローゼットから服を取り出し、テキパキと身支度を済ませていく。
折角の休日に一体誰が来たというのかしらね。
できることなら早々に切り上げてくれると良いのだけどね。
私は執務室かと思っていたのだけど、普段から全く使用していない三階にある応接室。
この場所を使うということは、かなりの人が来ているということなのね。
「本当にここに通したというのかしら?」
「はい。お嬢様、くれぐれも粗相の無いようお願いします」
ルビーから念を押される……それだけ目上の人ということみたいね。
扉をノックすると、トワロが中から開けていた。
「イクミお嬢様。お待ちしておりました、お客様がお待ちになられております」
案内をされるがまま中へと入り、私は頭を下げスカートを摘み広げた。
「大変お待たせを致しました。イクミ・グセナーレと申します」
「わたくしのほうこそ、突然の訪問を許していただき感謝申し上げます」
少し聞き覚えのあるような声に、頭を上げると私はそのまま膝をついて床に手をついていた。
「はぁー、緊張して損したよ。クレアでしょ」
「お嬢様!?」
「イクミお嬢様。この御方は、レイネシア・ソルティアーノ公爵夫人。クレアローズ様の母君にございます」
クレアの母親?
だって……あれ? 肖像画で見たあの人は……?
すでに亡くなっている?
「私はそんなにもあの子と似ていたのかしら?」
似ているも何も、どう見てもクレアにしか見えないのですけど……でも、なんだかすごく冷たく突き刺さってくるのはなんでかしらね。
クレアの母親だとしても、ルビーのあの言葉は一体何だったのよ。公爵様相手でもあそこまで言われたことはないのに。
「ソルティアーノ公爵家では肖像画を拝見しましたが、クレアにとても良く似ております」
「そう……それは、嬉しいと言うべきなのかしら?」
公爵夫人は笑っているようだけど、向けられる視線が冷たく感じる。
この人は、クレアのことをどう思っているのだろうか?
そういえば、クレアローズは悪役令嬢としてゲームの中ではかなり良くないと言っていた。
つまり……この人の血を引いているから?
「申し訳ございませんが、本日はどういったご用件でこちらに?」
「ああ、そうでしたわね」
公爵夫人は立ち上がり、私に対して深く頭を下げていた。
あの事件の事か……すでに何もかも終わっている話。とはいえ、公爵家の者として私に頭を下げざるを得ないということね。
「どうか、頭を上げてください。その件については解決しております。公爵夫人がお心を傷まれるようなことはありません」
「はい?」
頭を上げた公爵夫人は、キョトンとした顔で私を見ていた。
座り直して、顎に人差し指を当てて何かを思い出しているようだった。
「ああ、思い出しましたわ。そう言えば、襲撃されたのでした。わたくしとしたことがうっかりしておりました」
嘘でしょ?
どう考えてもそれしか無いわよね?
私はトワロの方を見るものの、首を横に振るだけじゃ何もわからないから!
だったら、さっき頭を下げたのは一体どういう意味なのかしらね。
この人がどういう人なのかが分からなさすぎる困るわね。
「では、改めまして、イクミ・グセナーレ様。公爵家で起こった出来事は大変申し訳ございませんでした」
「ですから、その事は本当にもう済んだ話です。ご用件をお聞かせ願えますか?」
「ええ、もちろんですわ」
嬉しそうに笑顔に変わっているけど、続きはなかなか出てこない。
紅茶を飲んでからというのも分からなくはないけど……
「あら、おいしい」
なんだろう、さっきと違って少しポワポワと言うか、話が進まない人のようね。
淑女よろしくかのごとく、お菓子一つ食べるにしても遅い!
その程度のお菓子なら、私だって一口で食べられるわよ!
「あの、公爵夫人。そろそろよろしいですか?」
「ごめんなさい。このようなもの始めて食べたものですから。とても美味しかったですわ」
「それでしたら、ソルティアーノ家に戻られても食べられますよ。考案したのはメルですから」
ここにある殆どのお菓子は、メルがここに居た時にレシピを置いて行ってくれたものばかり。
私からすれば食べ慣れてはいないものの、見慣れていたものではある。
「メルとは……メルティアのことですか?」
「ええ、ご子息のジェドルト様の婚約者でもあるあのメルティアです。それで、ご用件は?」
本当に面倒くさい人ですよ!
一体何だって言うのよ!
なんでハンカチで目頭を押さえているのよ!
いい加減本題!
早く!
「お嬢様」
呼ばれたのでルビーの方を見ると、自分の眉間を指差していた。
私は手の甲で眉間を揉み少しだけ表情を整えて、公爵夫人の言葉を待つことにした。
「イクミ・グセナーレ様。メルティアとルルーミアに出会えることに、深く感謝申し上げます」
「それはどういうことでしょうか?」
「ジェドルトに婚約者が出来たのも、私に新たな娘ができたことも、全てはイクミ・グセナーレ様によるもの。本当に、ありがとうございます」
いや……だから、どういうことなの?
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