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聖女編

169 お嬢様、お久しぶりです

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 私がソルティアーノ公爵家で軟禁状態にされて一ヵ月の時間が過ぎていた。
 目覚めたばかりだと言うのに、私はルビーに手を引かれ寝間着のまま別の部屋へと移動している。

 寝起きということもあって、ダラダラと歩いていると何度も欠伸をし、ゆっくりとした足取りに合わせてくれている。
 目的の場所に辿り着くと、私は後ろから抱きかかえられ、ルキアが代わりにドアを開く。

「ちょっと、これは一体どうしたと言うのよ」

「暴れないでください、お嬢様」

 さっきまで手をつないで歩いていたというのに、いきなり抱えられると暴れたくもなる。
 なぜ抱えられたのかは、私の足を浮かせるため、逃げ出さないためのものだ。

 ルビーはスタスタと中へと入り、既に待っていたクレアと目が合う。
 クレアは王都に戻っている。それがどうしてここにいるのか理解した。
 私は再びクレアが用意していたドレスの前に立たされていたから。

 肩にずっしりとした重みが加えられ、ルビーからの無言の重圧も加わる。ルビーがこんな事をするにはいつも理由がある。

「お嬢様、お着替えです」

 クレア、ルビー……この二人は私にドレスを着せるのを、かなり強要してくる。
 屋敷でも色んな物を何度も着せられたものの、未だに好き好んできたいという気にならない。

「さあ、イクミ様」

 クレアは嬉しそうに手をパンパンと叩くと、続き部屋の奥からはぞろぞろとメイドたちがやってくる。
 これから何が待ち受けているのかは容易に想像できる話だが……なんでまた私がドレスを着せられるのかという意味が理解できない。

「ちょっと、なんでよ」

 メイド達は整列をしているのにも関わらず、メイドの中に一人だけはぁはぁと息の荒くして、私へと近寄ってきている。眼鏡をかけたメイドに全身に鳥肌が立つのを感じていた。
 一歩一歩、ゆっくりと近づくメイドに、クレアも笑顔が消え、並んでいるメイド達は同様に私の方を見ようとはしない。

 ちょっと、ルビー、離しなさい!
 暴れようとする私を静止させ、これから始まろうとする出来事に、誰もが見ようともしない。

「さぁ、お嬢様。はぁはぁ。お着替えをしましょうね。はぁはぁ、その表情、ゾクゾクします」

「ま……まさか」

 近付ていくるメイドから逃げ出そうとする私に、ルビーによって再び抱えれる。ルキアに視線を送るもののそっぽを向いている。
 クレアもまた、私に背を向けて私よりもドレスを見ている。

 皆は、私を生贄にするつもりなの!?

 手が届くところまでやって来た彼女は、何の迷いもなくスカートの中へと手を入れてくる。
 何度か経験をしたことがあるものの、こういうものに慣れるはずがない。

「や、やめなさい。貴方何をしようと、ひっ」

 足をバタつかせるが、このメイドにそんな抵抗は虚しく、するすると一枚の布が剥ぎ取られていく。
 だ、だけど、スカートの中に頭を入れてこないだけまだマシなのかもしれないわね。こんなバカなことを考えるのは……私の知る中で一人しか居ないわね。

「トパーズ。どういうつもりなの?」

 このド変態が、誰かというのがわかり私は暴れるのを止めた。

「あら? バレちゃいましたか? それは良いとして、色々とお嬢様にお話したいことがあったのですが。まずはお着替えを済ませましょうね」

 私の下着をポケットに仕舞い込み、別の下着を履かせてくるが……ルビーとは違い、なんで後も嫌な感じがするのよ。
 これが変態ならではの悪寒というものなのだろうか?

 下着を変えたことでトパーズは満足したのか、他のことは全てメイドたちへと変わる。

 ルビーがこんな事をよく許したわね。クレアもクレアよね……がっくりと項垂れる私に、困った顔を浮かべ頬を掻いている。
 私の着替えを手伝うこともなく、目を見開いて凝視するトパーズは相変わらずといったところね。

 どっと疲れたこともあって、私はメイドたちにされるがままドレス姿へと変えられる。
 それにしても、クレアといいトパーズといい、なんでここに居るのかしらね。
 あの時台無しになったドレスを再び着ることになるなんて、このためだけに戻って来たわけじゃないよね?

「イクミ様、素敵です」

「はいはい、それはどうも。前回のドレスを修復でもしたの?」

「いえ、一から作り直しました。それにここの所は前回と少しデザインも変えているのですよ? 少しは喜んでもらえると思っておりましたのに」

 それに気がつくほど、私の覚えてもいないわよ。前回ですら喜んでいないのを分かっていなかったの? 私としてはこんな派手なドレスを着たいと思ってはいないのだけどね。

 誰もその事を受け入れてくれないのね。
 そもそも、なんでわざわざドレスなんかを?

「お嬢様。そのように引っ張るものではございません」

「ドレスを着せられている意味がわからないのよ」

「特に意味はありません」

 クレアがそう言い切るので、私は髪留めに手をかけるが、ルビーが必死になって私の腕を掴み行動を止めていた。
 ならば右手をと伸ばしたが、ルキアに掴まれる。首を振られるが、離そうとしてくれないのでため息を漏らし、諦めて力を抜くのだが手を離そうとはしてくれなかった。
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