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聖女編
165 お嬢様とグセナーレ
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何やら騒がしい声の中、私は少しだけ目を開ける。
見慣れない部屋だけど何処なのかは何となく分かっていた。だけど、さっきまで見ていた夢を思い出そうとまた目を閉じる。
見ていたはずなのに、全てが朧げで何か不思議な感覚。
それなのに思い出さないといけないような気がして暗闇にへと沈み込んでいく。
私とは別に、誰か……そう多分、女の子だった気がする。あの子は……誰だったのだろう?
姿は全然思い出せないのに、不安そうな顔をしているのだけは分かった。その子を見ているだけで心配になる。
曖昧でその子が誰だったかという肝心な事は何も思い出されることはなく、その欠片も次第にどんどんと頭の中から消えていくようだった。
ただの夢のようで、夢じゃなかった。
ふーっと大きく息を吐くと、私の左頬に衝撃が走る。
とてつもない衝撃によって、首から変な音が聞こえたような気がした。
「クレア、止めなさい!」
私をそう呼ぶのは一人だけしかいない。なんで私は叩かれ……でも、その声は今までとは違い必死な思いのような感じを受けた。
ヒリヒリとした生易しいものではなく、ズキズキとした激痛に変わっていた。
痛みで顰めたまま目を開ける。
「イクミ様! 戻ってきてください!」
クレアは涙を流し、辛そうな顔を映るのだが……私の視界はすぐに暗転する。右頬に比べようのないほどの強い衝撃が追撃され、その衝撃に強さに、一瞬意識が飛びそうになる。
私は激痛に悶え苦しみ、ベッドの周りではクレアを取り押さえようとする、怒鳴り声が響き渡っていた。
私が何故打たれたのかを考えるよりも、痛みで声すらも出ない。
「お前は少しは加減しろ! このバカ娘が」
「ちゃんと加減をしております。三割程度でなんでそこまで言われるのですか?」
「クレアの三割は、常人の本気以上だということをまず認識しなさい」
まったくもってメルの言う通りだよ。
今のクレアは確実に、常識から離れたところに行っているわね。帰ってこいとは言わないけど……ライオ、ちゃんと見張っててね。
私はメルに頭を撫でられたことで、少しは気が紛れまだ痛みはあるものの、のそのそと体を起こす。
用意されていたポーションを飲まされ、少しだけ痛みがなくなっていく。
始めて服用して分かるけど、美味しいものじゃないよね。
良薬口に苦しとは言うけど、できれば二度と飲みたいものではないよね。
「今度はこっちね」
口直しのためが、少し甘い紅茶が広がる。
ポーションを使ったとしても、すぐに完全に治るほどではない。まだ残る体の痛みで、体勢が崩れるところをクレアが私に抱きつき支えるわけでもなく泣きついてきた。
さっきのこともあったので、私は何度もクレアの頭をべしべしと叩いていた。
ほ、本当に加減してよね……
クレアが私に抱きつくまでは何とも思わなかったけど、ギリギリと締め上げていくクレアをなんとか引き剥がされることで、私はようやく落ち着ける。
それだけ心配していたのは分かるけど、私の体が持たないわよ。
メルに叱られ、クレアは床に正座をして反省をしているようだ。
「あのさ、私の息の根を止めたかったのかしら?」
「か、加減はちゃんとしましたよ。イクミ様までそのようなこと……」
「すごく痛かったわよ。というか、今もすごく痛いのですけど」
それにしても……何をしているのよ。
でも、私が目を覚ましたことで、クレア達はほっと安心をしている。喜ぶ二人とは裏腹に私から目を背け部屋の隅に佇んでいた。
私に何が起こったのかを考えると、ルビーが私の側に居ないのもなんとなく分かった。
「心配掛けたみたいね。私を起こすのは、ルビーが居てくれるのだからそんな過激なことはもうやめてよね」
「イクミちゃん、体は大丈夫?」
「少し痛いけど、追撃されたのと締め上げられたのが一番ひどいわね」
そう言って、右頬を擦る。痛めていた肩は動かすと鈍い痛みを感じるが、それほど酷い怪我でもないみたい。
クレアは公爵様にゲンコツを落とされ、少し頬を膨らませている。
ところで、彼は一体どうなったのだろう?
「ルビー」
私の問いかけに、ルビーはそこから動こうとはしなかった。
私が怪我をしたことで、責任を感じているのだろうか? 私と離れたことで、今回の事件が起こり、最悪の場合を考えるとルビーの責任も出てくるのかもしれない。
それでも、私が責めることは出来ない。自分の浅はかな考えからこの事件を発展させたのだから。
「ルビー。こっち来てよ……なんでそんな所にいるのよ」
「お嬢様、この度の出来事は誠に申し訳ございません」
スカートを握りしめ、深く頭を下げていた。
侍女として私と離れていたことがきっと許せないのね。
「私が悪いだけよ。ルビーもルキア。メイドや公爵家に居た人たち、誰が悪いというわけでもないわよ。あの時ついて行った私が悪かった。それだけのことよ」
そんな言葉が欲しいわけじゃないのだろうけど。
なら、誰が一番悪いのか、それはこんな事をしでかした者が悪い。でも怪しいと思いつつも、すぐに逃げようとしなかった私もまた悪い。
事の発端は何だったのかはわからない。色違いだからという嫌がらせ程度だと思い、私の命が狙われるということを想像すらしていなかった。守られすぎていたのはただの過保護であり、私のそういう可能性を、私自身が認めていなかった結果でもある。
グセナーレ。
この名前が何なのか、どれだけの重要な家かも私にはまだわからない。
貴族としての爵位もなく、だけど……その家名に誰もが敬称をつける。
その意味を深く考えていない私だからこそ、自分の存在に対して深く考えていなかったのも原因の一つかもしれない。
見慣れない部屋だけど何処なのかは何となく分かっていた。だけど、さっきまで見ていた夢を思い出そうとまた目を閉じる。
見ていたはずなのに、全てが朧げで何か不思議な感覚。
それなのに思い出さないといけないような気がして暗闇にへと沈み込んでいく。
私とは別に、誰か……そう多分、女の子だった気がする。あの子は……誰だったのだろう?
姿は全然思い出せないのに、不安そうな顔をしているのだけは分かった。その子を見ているだけで心配になる。
曖昧でその子が誰だったかという肝心な事は何も思い出されることはなく、その欠片も次第にどんどんと頭の中から消えていくようだった。
ただの夢のようで、夢じゃなかった。
ふーっと大きく息を吐くと、私の左頬に衝撃が走る。
とてつもない衝撃によって、首から変な音が聞こえたような気がした。
「クレア、止めなさい!」
私をそう呼ぶのは一人だけしかいない。なんで私は叩かれ……でも、その声は今までとは違い必死な思いのような感じを受けた。
ヒリヒリとした生易しいものではなく、ズキズキとした激痛に変わっていた。
痛みで顰めたまま目を開ける。
「イクミ様! 戻ってきてください!」
クレアは涙を流し、辛そうな顔を映るのだが……私の視界はすぐに暗転する。右頬に比べようのないほどの強い衝撃が追撃され、その衝撃に強さに、一瞬意識が飛びそうになる。
私は激痛に悶え苦しみ、ベッドの周りではクレアを取り押さえようとする、怒鳴り声が響き渡っていた。
私が何故打たれたのかを考えるよりも、痛みで声すらも出ない。
「お前は少しは加減しろ! このバカ娘が」
「ちゃんと加減をしております。三割程度でなんでそこまで言われるのですか?」
「クレアの三割は、常人の本気以上だということをまず認識しなさい」
まったくもってメルの言う通りだよ。
今のクレアは確実に、常識から離れたところに行っているわね。帰ってこいとは言わないけど……ライオ、ちゃんと見張っててね。
私はメルに頭を撫でられたことで、少しは気が紛れまだ痛みはあるものの、のそのそと体を起こす。
用意されていたポーションを飲まされ、少しだけ痛みがなくなっていく。
始めて服用して分かるけど、美味しいものじゃないよね。
良薬口に苦しとは言うけど、できれば二度と飲みたいものではないよね。
「今度はこっちね」
口直しのためが、少し甘い紅茶が広がる。
ポーションを使ったとしても、すぐに完全に治るほどではない。まだ残る体の痛みで、体勢が崩れるところをクレアが私に抱きつき支えるわけでもなく泣きついてきた。
さっきのこともあったので、私は何度もクレアの頭をべしべしと叩いていた。
ほ、本当に加減してよね……
クレアが私に抱きつくまでは何とも思わなかったけど、ギリギリと締め上げていくクレアをなんとか引き剥がされることで、私はようやく落ち着ける。
それだけ心配していたのは分かるけど、私の体が持たないわよ。
メルに叱られ、クレアは床に正座をして反省をしているようだ。
「あのさ、私の息の根を止めたかったのかしら?」
「か、加減はちゃんとしましたよ。イクミ様までそのようなこと……」
「すごく痛かったわよ。というか、今もすごく痛いのですけど」
それにしても……何をしているのよ。
でも、私が目を覚ましたことで、クレア達はほっと安心をしている。喜ぶ二人とは裏腹に私から目を背け部屋の隅に佇んでいた。
私に何が起こったのかを考えると、ルビーが私の側に居ないのもなんとなく分かった。
「心配掛けたみたいね。私を起こすのは、ルビーが居てくれるのだからそんな過激なことはもうやめてよね」
「イクミちゃん、体は大丈夫?」
「少し痛いけど、追撃されたのと締め上げられたのが一番ひどいわね」
そう言って、右頬を擦る。痛めていた肩は動かすと鈍い痛みを感じるが、それほど酷い怪我でもないみたい。
クレアは公爵様にゲンコツを落とされ、少し頬を膨らませている。
ところで、彼は一体どうなったのだろう?
「ルビー」
私の問いかけに、ルビーはそこから動こうとはしなかった。
私が怪我をしたことで、責任を感じているのだろうか? 私と離れたことで、今回の事件が起こり、最悪の場合を考えるとルビーの責任も出てくるのかもしれない。
それでも、私が責めることは出来ない。自分の浅はかな考えからこの事件を発展させたのだから。
「ルビー。こっち来てよ……なんでそんな所にいるのよ」
「お嬢様、この度の出来事は誠に申し訳ございません」
スカートを握りしめ、深く頭を下げていた。
侍女として私と離れていたことがきっと許せないのね。
「私が悪いだけよ。ルビーもルキア。メイドや公爵家に居た人たち、誰が悪いというわけでもないわよ。あの時ついて行った私が悪かった。それだけのことよ」
そんな言葉が欲しいわけじゃないのだろうけど。
なら、誰が一番悪いのか、それはこんな事をしでかした者が悪い。でも怪しいと思いつつも、すぐに逃げようとしなかった私もまた悪い。
事の発端は何だったのかはわからない。色違いだからという嫌がらせ程度だと思い、私の命が狙われるということを想像すらしていなかった。守られすぎていたのはただの過保護であり、私のそういう可能性を、私自身が認めていなかった結果でもある。
グセナーレ。
この名前が何なのか、どれだけの重要な家かも私にはまだわからない。
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