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聖女編
163 お嬢様とソルティアーノの女神
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目の前に広がる惨状にも関わらず、不思議と冷静に見ていることが出来ていた。
自分がいる立ち位置が優位だから?
それとも、人を私の言葉だけで殺しているから?
右腕を無くし、戦意を無くしただ恐怖に怯える彼を見ても、罠にかかり死を間近に控えた羽虫を見ているような気分ね。
助けたいとも、手を貸そうとも何一つとして感情が動かない。しかし、彼はまだ生きている。
「たすけて……ひっ」
助けを求める声に、私ではなくフェルが反応をしてしまい、牙をむき出しにして更に威圧をしていた。
今はまだ殺してはいけない。罪を償えとは言わないし、メルの大切な日にこんな事を何のために考えたのは吐かせる必要がある。
だけど、このまま放置すれば血は留まることもなく流れているからどのみち数分もすれば彼は死に絶える。
転がっているナイフを取り、ドレスのスカートを切り刻み彼の腕の止血をしていく。
フェルに怯えてくれているので、私の邪魔をする余裕もなさそうね。
気休め程度なものだが、流し続けるよりかまだマシだと思う。
治療はするべきね。誰もしたくはないだろうけど……今の様子だとまともな会話は無理そうね。
「フェル。彼を傷つけること無く、咥えて運んで貰えるかしら?」
「儂にコヤツを運べというのか?」
「ごめんね、お願いよ」
フェルだってこんな奴を運ぶのに抵抗はある。それは分かるがこのまま放置して死んでしまえば、証拠が全てなくなってしまう。
そうなればこの惨状に対して私の言い訳が成り立たない。
「イクミ様! ご無事ですか!?」
「クレア、なぜ貴方が?」
「そんな……イクミ様、どうして」
私を見てクレアは、何かにひどく怯えていた。これだけの死体を前に、まともな人だったらパニックになって当然ね。
しかし、クレアは立ち止まることもなく近づき、血が汚れている私を優しく抱きしめてくれた。
震える手でゆっくりと頭を撫でられる。
今はまだパーティーの最中だと言うのに、どうしてここにクレアがいるのかしらね。
私がいないので、探していたのかしら? できればこんな物をクレアには見せたくなかったわね。
「クレア。私なら大丈夫よ。肩を痛めているから、そんなに強く抱きしめられたら痛いよ」
慌てて私から離れると、苦痛に声を上げる彼の方へと蔑む視線が送られていた。
クレアもこの人が誰なのかを知っている。これだけの人数を集め、私をどうするつもりだったのか……復讐をするつもり?
クレアが来てくれたことで、緊張の糸が切れたのか、体の力が抜けていくのを感じる。
「イクミ様!?」
「だい……丈夫よ」
* * *
イクミはそのまま意識をなくし、クレアの腕の中でしっかりと受け止められていた。
ただ意識を失っていることが分かると安堵したものの、クレアは目をギュッと閉じ、次に開いた目は怒りに満ち溢れていた。
今日は大事なメルティアの婚約パーティー。それに利用され、自分の屋敷でこんな事になっていることにも気が付かず、なによりイクミがこれほどまでに傷ついているという事実。
「この者は?」
「小娘を殺そうとしていたようだ」
「そうですか。フェル、貴方は彼を私はイクミ様を運びますので」
「まあ、仕方あるまい」
口を大きく開けられたことで絶叫する。
クレアはゆっくりと、イクミを床に置き倒れている亡骸から、腰についている剣の鞘を掴む。
「暴れると、噛み殺すぞ」
この期に及んで、まだ逃げようとする男に対し、クレアは鞘で打ちのめすことで気絶させる。
大人しくなったことを確認すると、イクミの頬に手を触れていた。。
少し前までなら可愛らしくしていたあの姿は何処にもなく、ドレスは無残にも切り刻まれている。イクミがしたことを、男の腕に巻かれたいた布を見たことでクレアは理解をしていた。
クレアが自分自身で選びぬき、思いを込めて育てていたバラの花はどれもが潰されていた。
唯一原型をとどめているのは、髪留めの一輪だけ。
この男が最初からいなければ、最初からこんな事になっていない。その怒りをぶつけるように、持っていた剣の鞘を投げつけると壁に突き刺さる。
イクミを慎重に抱き寄せ、腕の中へと収めていく。
「フェル、背中を貸してください」
「好きにするが良い」
そう言って、フェルは廊下へと歩き出し伏せをしてクレアを待っていた。
「ありがとうございます」
廊下へと出ると、クレアはフェルの背中へと乗りそのまま別館の外へと向かう。
馬車の周りに居た御者からは、遠くいるにも関わらず悲鳴が聞こえてくる。その騒ぎを聞きつけ会場からは多くの人が我先にと流れるように外へと飛び出してきた。
クレアはそんな事に構うこともなく、しかしフェルはその波の前に立ち止まる。
「皆様どうか、道をお譲りください。フェル、傷つけてはだめですよ」
「それぐらい分かっておる」
各地から集まった貴族たちの目の前で、クレアが魔獣と対話をし、その強大で恐ろしい魔獣に誰もが息を呑み、道を遮るものは慌ててその場から離れる。
しかしその中、一人の男性が大きな声をあげていた。
「ルーカス! これは一体どういうことですか!? クレアローズ・ソルティアーノ嬢」
「貴方様が、コレの父親なのですか?」
自分がいる立ち位置が優位だから?
それとも、人を私の言葉だけで殺しているから?
右腕を無くし、戦意を無くしただ恐怖に怯える彼を見ても、罠にかかり死を間近に控えた羽虫を見ているような気分ね。
助けたいとも、手を貸そうとも何一つとして感情が動かない。しかし、彼はまだ生きている。
「たすけて……ひっ」
助けを求める声に、私ではなくフェルが反応をしてしまい、牙をむき出しにして更に威圧をしていた。
今はまだ殺してはいけない。罪を償えとは言わないし、メルの大切な日にこんな事を何のために考えたのは吐かせる必要がある。
だけど、このまま放置すれば血は留まることもなく流れているからどのみち数分もすれば彼は死に絶える。
転がっているナイフを取り、ドレスのスカートを切り刻み彼の腕の止血をしていく。
フェルに怯えてくれているので、私の邪魔をする余裕もなさそうね。
気休め程度なものだが、流し続けるよりかまだマシだと思う。
治療はするべきね。誰もしたくはないだろうけど……今の様子だとまともな会話は無理そうね。
「フェル。彼を傷つけること無く、咥えて運んで貰えるかしら?」
「儂にコヤツを運べというのか?」
「ごめんね、お願いよ」
フェルだってこんな奴を運ぶのに抵抗はある。それは分かるがこのまま放置して死んでしまえば、証拠が全てなくなってしまう。
そうなればこの惨状に対して私の言い訳が成り立たない。
「イクミ様! ご無事ですか!?」
「クレア、なぜ貴方が?」
「そんな……イクミ様、どうして」
私を見てクレアは、何かにひどく怯えていた。これだけの死体を前に、まともな人だったらパニックになって当然ね。
しかし、クレアは立ち止まることもなく近づき、血が汚れている私を優しく抱きしめてくれた。
震える手でゆっくりと頭を撫でられる。
今はまだパーティーの最中だと言うのに、どうしてここにクレアがいるのかしらね。
私がいないので、探していたのかしら? できればこんな物をクレアには見せたくなかったわね。
「クレア。私なら大丈夫よ。肩を痛めているから、そんなに強く抱きしめられたら痛いよ」
慌てて私から離れると、苦痛に声を上げる彼の方へと蔑む視線が送られていた。
クレアもこの人が誰なのかを知っている。これだけの人数を集め、私をどうするつもりだったのか……復讐をするつもり?
クレアが来てくれたことで、緊張の糸が切れたのか、体の力が抜けていくのを感じる。
「イクミ様!?」
「だい……丈夫よ」
* * *
イクミはそのまま意識をなくし、クレアの腕の中でしっかりと受け止められていた。
ただ意識を失っていることが分かると安堵したものの、クレアは目をギュッと閉じ、次に開いた目は怒りに満ち溢れていた。
今日は大事なメルティアの婚約パーティー。それに利用され、自分の屋敷でこんな事になっていることにも気が付かず、なによりイクミがこれほどまでに傷ついているという事実。
「この者は?」
「小娘を殺そうとしていたようだ」
「そうですか。フェル、貴方は彼を私はイクミ様を運びますので」
「まあ、仕方あるまい」
口を大きく開けられたことで絶叫する。
クレアはゆっくりと、イクミを床に置き倒れている亡骸から、腰についている剣の鞘を掴む。
「暴れると、噛み殺すぞ」
この期に及んで、まだ逃げようとする男に対し、クレアは鞘で打ちのめすことで気絶させる。
大人しくなったことを確認すると、イクミの頬に手を触れていた。。
少し前までなら可愛らしくしていたあの姿は何処にもなく、ドレスは無残にも切り刻まれている。イクミがしたことを、男の腕に巻かれたいた布を見たことでクレアは理解をしていた。
クレアが自分自身で選びぬき、思いを込めて育てていたバラの花はどれもが潰されていた。
唯一原型をとどめているのは、髪留めの一輪だけ。
この男が最初からいなければ、最初からこんな事になっていない。その怒りをぶつけるように、持っていた剣の鞘を投げつけると壁に突き刺さる。
イクミを慎重に抱き寄せ、腕の中へと収めていく。
「フェル、背中を貸してください」
「好きにするが良い」
そう言って、フェルは廊下へと歩き出し伏せをしてクレアを待っていた。
「ありがとうございます」
廊下へと出ると、クレアはフェルの背中へと乗りそのまま別館の外へと向かう。
馬車の周りに居た御者からは、遠くいるにも関わらず悲鳴が聞こえてくる。その騒ぎを聞きつけ会場からは多くの人が我先にと流れるように外へと飛び出してきた。
クレアはそんな事に構うこともなく、しかしフェルはその波の前に立ち止まる。
「皆様どうか、道をお譲りください。フェル、傷つけてはだめですよ」
「それぐらい分かっておる」
各地から集まった貴族たちの目の前で、クレアが魔獣と対話をし、その強大で恐ろしい魔獣に誰もが息を呑み、道を遮るものは慌ててその場から離れる。
しかしその中、一人の男性が大きな声をあげていた。
「ルーカス! これは一体どういうことですか!? クレアローズ・ソルティアーノ嬢」
「貴方様が、コレの父親なのですか?」
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