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聖女編

160 お嬢様は狙われている?

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 ソルティアーノ公爵家では私のことを偏見を持つ者は居ない。だが、学園でのこともあったのだから、それ以外の貴族たちはそういった者はまだ多くいると思う。
 私に気を使わせないようにルビー達と結託して、私の意識をドレスに持ってきていたのよね。

「イクミ様?」

 そのことについて私から何も言う必要はないわね。
 私はメルにお祝いをちゃんとすればいいだけ。
 ドレスだって、クレアが私のためにと用意してくれたのだから。ちょっと気に入らない程度で、文句を言った所でそれは私の我儘でしか無い。

「何でも無いわよ。それよりフェルはどうしたの? これだけ人がいるのだから、絶対に見つからないようにしないと駄目よ?」

「それなら大丈夫です。お兄様とお姉さまの部屋で、カーテンを締め切ってお留守番をさせてますから」

 ああ、それならいいのだけど……もうすでに同室なわけ?
 あの二人のことだから、夜遅くまで研究でもしているのかしらね。
 
 フェルの心配はなさそうだけど、これだけ貴族がいるのに、あんな物が現れたらどうなることやらね。
 今頃はベッドの上で丸くなっているのでしょうね。まさか、帰りたくないとか言い出さないわよね?



 クレアと分かれて、会場へと入った私は人目を避けるために隅っこで周囲を見渡していた。
 当然のように同席を求められるが、流石に断った。ルキアは馬車に戻り、ルビーは会場の手伝いをしている。

 一人だと色々と言われそうだったが、ソルティアーノ公爵家ということもあって私を知る人が多いから一人でも大丈夫だと思われたのかもね。
 そんな訳で、当然周りには誰も寄り付こうとはせず、私としても気が楽だった。さすが公爵家の婚約パーティーともなれば、会場は人で溢れかえっている。

「それにしてもすごい数ね」

 メルにちょっと挨拶をすればいいや程度に思っていたのだけど、ここまで広い会場を埋めつすくほどに居るとは思わなかったわよ。
 私を気にする人は今のところいないか……とりあえず、メルに挨拶を済ませて早く帰りたいわね。

 ルビーに釘を差されたとは言え、これは予想外なのよ?
 私のような人間なら、二人への挨拶はこのパーティーが終わってからになりそう。
 まあ、今挨拶をするよりも、夜にはここに泊まるのだからその時でもいいのよね。

 会場の照明が落とされ、大きな階段の所だけが明るくなって公爵様が降りて踊り場に立ち、会場に来ている人たちに挨拶をしている。
 なんとなく程度には聞こえるけど、これだけ離れていると聞き取るまではできそうにもないわね。
 少し長い挨拶が終わると、二人の晴れ姿に会場からは祝福の拍手が鳴り響いていた。

「綺麗ね」

 遠くからだけど、メルのドレス姿は本当に綺麗だと思った。
 嬉しそうにしている姿を見て、少しだけホッと息が漏れた。

 始めて出会った二人は私の屋敷を走り回っていた。ほんの数ヵ月の間に二人が婚約して、このままいつかは結婚するのだろう。
 後ろにはルルが控えていて、涙を流して喜んでいる。

 ルルは今、このソルティアーノで一緒に暮らしている。あの子もきっと姉を見習い、きっと立派な女性に……それは言いすぎかもしれないわね。
 見本がアレなんだから、数年も経てばどうなることかしらね。

「イクミ・グセナーレ様でございますね」

「はい、そうですが?」

 会場にいるウェイターから声をかけられる。
 飲み物を持っているわけでもなく、私に頭を下げているけど……何のようだというのかしら?
 
「公爵様から、あちらへと来るように言付かっております」

 この人が指す方向には、いまメルたちが立っている階段へと向けられている。この状況で私に来いとか何を考えているのよ。
 いくら何でも、この私をあの場所に? それを公爵自ら?
 このまま私が堂々と彼の言葉を真に受けて、メルの所へと行くなんて普通に考えてアウトよね。

「丁重にお断りをすると伝えて貰えるかしら?」

「さ、こちらへどうぞ」

 私の話を聞いていないの?
 行かないと言っても、この人は私の話を全く聞く様子がない。

「お二方は、グセナーレ様にまず最初に言葉を頂きたいと申しております」

 公爵様だけでなく、あの二人からも無理矢理にでも連れて来いってことなのかしらね。クレアは何度言っても聞かないのは知っているけど。

 何かおかしいわね。

 家名はあってもグセナーレは爵位を持っていない。
 そんな私が、あの二人が私に最初に挨拶をってどういうことなのよ……祝福したい気持ちがあっても、そんな道理の通りそうにないことを?

 そもそも、クレアは会場ではない所でメルに会わないのかと言っていた。公爵様もそんな事は一度も口にしていない。
 そういうことを避けているのはみんな知っているはず。

「私である必要性を感じないのだけど」

「そう言うわけにも参りません。何卒よろしくお願い申し上げます、メルティア様のためにも」

 何を言っても引かない彼に対し警戒をしつつ、私は付いていくことにした。
 一度会場の外へと行き、外側から回り込むのではなく、階段を登っている。

 この人は……少しまずいかもしれないわね。
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