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聖女編

156 お嬢様、覚悟してください

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「貴方達の意見はどっちなの?」

「「「こちらです」」」

「じゃあ反対ので」

 露骨すぎるわよ……最初から決まっているかのように、普段からよく着ていて私の好みに近いものが用意されている。一方彼女たちが勧めているのは、どんどん改良されたあのゴスロリである。これで選べというのだから、最初からこれだけでいいでしょ。

「それにしても、こんな服を用意してくれるだなんてどういうことなのかしら?」

「今日はお出かけになるのですよ?」

「私は何も聞いてないわよ?」

「そうでしたか」

 それからは、話をはぐらかされてばかりだった。
 服装といい、出かけるという言葉。居ないルビー……私の知らない所で何かがあるということね。
 それを強制されるということは、私が逃げること想定されている。今度は一体何なのかしらね?

「うーん」

 報告書に目を通していくが、内容が頭の中に入ってこない。
 これから待ち受ける何かが気になっていて、頭から離れてくれない。
 考えつくことは何もないし、かと言ってこのまま気にしないということも出来ない。

「お茶をお持ちしましょうか?」

「そうね、お願いするわ」

「かしこまりました」

 仕事になりそうにもないので、テラスへと行き用意してくれたお茶を飲みつつ街を眺めていた。
 しばらくボーっと眺めていると、一台の馬車が庭へとやってきた。。
 何度か見たことのある馬車なので、降りてくる前に誰が乗っているのかは理解できている。
 一体何のようかしらね?

「イクミ様。お待たせしてしまい申し訳ございません」

 あのね。貴方はソルティアーノ公爵家のご令嬢なの。
 ルキアの真似事をしなくてもいいのよ? そんなだから、バカ娘なんて言われているのを理解している?

 クレアは私の前に立つと、見事なまでに美しい所作で挨拶をしているのだが……木の枝へと飛び移り、テラスまでジャンプするのはどうかと思うよ?
 学園が始まって、クレアがここに来る理由の一つにクロとの対決と、ルキアからは魔法を教えて貰っている。

 そのため、実技では誰一人として敵うものはなく、私と同様に実技が免除されている。
 こういう事をするのはクレアがルキアと関わったからだとは思うけど……私のせいでクレアがこうなってしまった訳じゃないよね?
 私は関係がないよね?

「クレア……公爵様に言いつけるわよ」

「どうぞご随意に。このような事で、お父様が私に何か思うようなことなどありえません」

 それは単に、公爵様が諦めただけなのでは?
 いまさらライオに言った所で、クレアの武勇伝に携わっているから効果はないわね。

 厄介すぎるよこの子は……

 そもそもライオは、一日を掛けてクレアの過去、前世のことから全て話しをしている。それを聞かされたときは、どうなるものかと思っていたがライオはクレアのことを受け入れている。
 そのためか、二人して屋敷に来て欲しくない程にうざい仕上がりになっている。

 私の目の前で、食べさせ合いをして何が楽しいの?
 本人たち曰く、こんな事は他でできないからという理由らしいが……お裾分けみたいにこっちに向けられても迷惑なのよ!

「所で今日は何のようなのかしら?」

「はい、イクミ様には、これからソルティアーノへと来ていただきます」

「ごめん。聞いてない、行かない」

 なんて言った所で私に選択をする余地はない。
 クレアが指を鳴らすと、膝をついたティアが私ではなく、クレアの隣に控えている。

 ティアまでも懐柔したわけね。というか、それでよくそんな音が出せるわね……普通ならパチンなのに、グバンみたいな音がしていたわよ?
 この子は一体何に成りたいのかしら? 将来は王妃なのよ?

「ティア、私に逆らうということは、ルキアから何をされても文句はないわね」

「お姉さまこそ、今日は大人しく言うことを聞いてください」

 何に釣られたというのよ……ティアはクレアと一戦を交えたことで、友情的な何かが芽生えているかしらね。私にも以前のように甘えてくるが、クレアと比べると対応はかなり大きく変わってくる。

「ティア。いつも有難うね」

「はい! クレアお姉さま」

 その美貌か!?
 その美貌に惑わされたの?

 私はティアに対してはルキア達に丸投げをしていたから、優しいクレアに惑わされたのね。
 私の護衛は、そう簡単にはいかないわよ。

「ルキア!」

「お呼びでしょうか? クレア様」

 ルキアまでも!!
 ていうか、呼んだのは私だよ! 声ぐらい分かっているでしょう!?
 まさか、ルキアまで懐柔されるなんて何の冗談よ……こんな時にルビーが居てくれたら、それこそ終わりね。

『お嬢様。さ、行きますよ』

 居なくてもそういう事が言われそうで、私を無理矢理にでも向かわせるわよね。
 テラスの外では、クレアが来たことで私専用の馬車が用意されている。

 別の馬車には次々とメイドたちが乗り込んでいる。現状において私に拒否権がないのは分かるけど、ルキアが、あのルキアまでもがクレアに付くってどういうことなのよ!?

「イクミ殿、参りましょう」

 私はルキアに抱きかかえられ、テラスから飛び降りていく。落ちていく感覚の中で意識が途切れていた。
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