上 下
149 / 222
学園編

149 お嬢様とメイド服

しおりを挟む
 確かに、ライオが来賓の王女とはいえ、他の女性のエスコートをするのならクレアとしては面白くはない。
 でもそれは王族としての責務とも言えるはず。ライオに婚約者がいるのは誰もが知っていることだけど、こればっかりは避けられるはずもないわね。

 それでライオと一緒に居られないから、私を誘ったということね。
 そんなことがなかったら、私の前でイチャイチャしているのを見せつけてくるだけよね。どの道付き合わされる結論にしかなっていないのだけど?

「わかったわ。ルビーとクレアで、一緒に行きましょう」

「わ、私は!?」

「クレアに負けたのでしょ? それで私の護衛が務まると思っているの?」

「そ、そんな……こんな人にどうやって勝てっていうんですか!」

 言いたいことは分かる。私もクレアに付き合って何度死にかけたことか……クレアとの実技は本当に付き合いたくない。
 今は気が立っているクレアを宥めるためにも、私でいいのなら付き合うしか無いわね。

「イクミ様はご冗談で言っているだけですわ。ティアさんも勿論ご一緒ですわよ」

「本当ですか!?」

 パァッと明るい笑顔を見せてくるので、私が一度だけ頷くと嬉しそうに飛び跳ねている。
 それにしても賑やかになったわね。ティアが来たことで、メイド達、特にチロなんかはすごく嬉しそうにしていたわね。

 ただ、チロに打ち負かされて、その時もかなり拗ねたりもしていたけど。
 それにしても、世間知らずのエルフと、見た目からは想像もできないバカ娘。頼むから面倒事だけは止めてよね。

「それではお嬢様。これから、明日の服を選びましょう」

「は?」

「それは良いですね」

 祭りとはいえ何かに参加とかはないのよ?
 普段の格好で良いはずだと思うのだけど?
 ルビーから離れようとするものの、後ろからはクレアに抱きつかれてしまう。

「く、クレア。離して欲しいのだけど?」

「いえいえ、イクミ様はこういうことは逃げようとしますから」

「私が逃げるだなんて……」

「私、足も早いですわよ」

 クレアの腕力に私が敵うはずもなく、ルビーに案内されるクレアは私を軽々と持ち上げ連れて行かれ、あの時と同じように衣装が並べられていた。
 メルが居ない分、マシかと思えたのだけど……私が選ぼうにも、地に足がついていない。

 クレアが先導をしているものだから、有無を言わせないつもりらしいのだが……

 ピンク色のふわふわとしたドレスの前に立たされることで、メイドたちが歓喜を上げる。
 ライオ……ちゃんとこの子を安心させてあげておいてよ!
 喚く私を見るに見かねて、ルビーからはもう少し落ち着いたドレスを選んでくれることになった。
 メイドたちも反抗するものの、実際に着せられたことで皆納得をしていた。

 結局、皆は何でもいいんじゃないの?

 私達が明日のことで浮かれている間。
 王都の街では夜のうちに準備されていたのか、大きな中央広場へと続く道には数多くの露天で埋め尽くされている。

 朝早くからは多くの人で賑わう声が、屋敷のテラスに居ても聞こえてくる。
 午前中から行くのかと思っていたのだけど、広場では王族たちが先に願いを込めるらしく、それを一目見ようと多くの国民が集まっている。
 私達はクレアのことを考え午後から行くことにした。

「イクミ様。こちらなど、よろしいのではないですか?」

「全くもってよろしくないです」

 そんなわけで、昨日からずっと居るクレアは暇を持て余しているのは分からなくはない。
 だけど、私はただでさえいつもとは違う服装なのに、その上装飾品なんて必要ない。
 そんなのを付けていたら、耳たぶが伸びそうなのだけど?

「お嬢様ですと、やはりこう言ったものがお似合いではないかと」

「や、やめて!」

 ルビーが手にしたものに、私は全力で否定に走る。
 なんでそんな物があるのかは疑問だけど……キラキラと多くの光を反射している宝石が、無数に施されたティアラを私に乗せようとしていた。
 似合う似合わない以前に、奴隷商人が身につけるものでないのは確かよ。

「それだと、今のドレスには合わないですね」

 他のドレスなら似合うとかはなんてそもそもないよ!
 どう考えても、それだけは論外でしょ!?

「二人共いい加減にして。付き合う私の身にも成りなさいよ」

「私はただ……イクミ様の事を思って。私にはお見せする相手など……」

「クレアローズ様。なんともおいたわしや」

 そう言いつつ私をチラチラと見ている時点で、ライオの事は吹っ切れているのかまだ判断はつかないのだけど……私がそんな手に通用すると思っているのかしら。
 そもそも、打ち合わせをしたかのような猿芝居に誰が騙されるのよ。

 ティアラなんて私は断固拒否する。

「お姉さま見てください」

「貴方は相変わらず元気ね」

「もちろんです」

「すごく似合っているわよ」

 嬉しそうに胸を張るが、私としては私がそれを着たいのですけどね。
 ティアが着ている服は、いつもとは違い騎士風な装いをしている。

 人が多いため、冒険部隊を護衛にぞろぞろと連れていくことも出来ない。
 けど、こういう服装にするだけでも、私達を標的にするのは難しいと周囲に知らしめることはできる。

「ティア。貴様、ここで何をしている?」

 ティアと同じ服をしたルキアがやってくると、ティアの首根っこを掴みそのままテラスから降りていった。
 護衛としてはまだまだ未熟だろうけど、ルキアとクロがいるのだから問題はないはず。

 私はドレス。ルキアもティアも正装をしている。
 テーブルには、メイドを呼ぶために置かれているベルを手に取り大きく振る。

「お呼びでしょうか?」

 ルビーが居るのにと、呼ばれたメイドは少し戸惑っている。
 それでも、私はベルを鳴らし続けた。

「お嬢様一体何を?」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

処理中です...