上 下
148 / 222
学園編

148 お嬢様とお出かけ

しおりを挟む
 ルビー、クレア、ティアと明日の予定を聞いてくる。
 私と何かをしたいみたいなのだけど。明日何かがあるというのは私はよく分かっていない。
 分かると言えば、ルビーが町に調べ事があるということだけ。

 それだとしても、ルビーが勝負事を理由に私にそんなことをお願いしてくるなんて意外よね。
 私が出歩くよりも、出歩かない方を優先しているのはいつもルビーの方なのに?

「貴方はエルフ?」

「私はお姉さまの護衛をしております。ティアです」

 そう言って自信満々に、胸に拳を当てている。
 その意気込みは良いのだけど……先日拗ねていたのはもう良いみたいね。
 クロとルキアの二人によってしごかれたティアは、執務室に入ってくるなり号泣していたのよね。
 話を聞き出そうにも、泣いてばかりでまともな会話にならなかったし。

「お姉さま? 私はイクミ様の友人で、クレアローズ・ソルティアーノと申します」

 お互い自己紹介をしているのに、どう見ても雰囲気が穏やかでないのは気のせいなのかしら?
 とはいえ、クレアが差し出した手に握手をしているし……ただ、ティアは顔を少しだけ歪ませている。
 握手ってそんなに長い間、掴んでいるものなの?

「はぁ」

 そんな二人の様子を見ていたルビーがため息を漏らしているので、私としてもわからない理由をそのままということも出来ない。

「ルビー、明日は何があるというの?」

「この際ですから率直に申し上げます。明日は王国主催による星海祭があるのです」

 そう聞いたのだが、クレアから説明されるのだが……握手をしていたはずの二人は、両手を組み、まるで力比べをしているようね。
 やめさせようとは思ったのだけど、意地になっているティアを見ているとそんな気も失せていた。

「ほしのうみまつり?」

「はい! 中央広場にある噴水を、星の海を見立て、皆は紙に願いを書いて、止水に託すのです!」

「くっ……つ、つよい」

 ああ、やたらと大きい噴水だったのはその祭りのためでもあるのね。
 さすがはゲームの世界と言った所なのか……それに似たような風習なら知っているのだけど?

「つまり、七夕みたいなものなのね。それに私を連れ出したいとということね」

 ルビーは小さな声で「申し訳ございません」といい、クレアは困ったように笑っている。
 ティアがその話を聞いて私を誘うのは分かる……だけど、クレアが私を誘う理由がわからないわね。そういうことなら普通はライオにというよりも、ライオからクレアを誘う話ではないの?

 たかがお祭りに、王国が主催となって行うものなの?

 ティアは会話に入る余裕すら無く必死に対抗している。クレアにはまだまだ余裕の表情をしている。話をしている時からずっと何をしているのよ……公爵様からバカ娘と言われるだけのことはあるわね。
 クレアの猫は一体何時まで散歩をしているのかしらね。

「いたい、痛いです」

「この程度で、イクミ様の護衛などご冗談ですよね?」

 クレアも面倒になったのか、ティアは押し負け膝をついていた。
 その子の立ち向かおうだなんて……無謀でしかないけど、そもそもなんの対決だったの?
 メソメソと泣くティアを他所に、私はルビーの所へと近づいていた。

「ルビー、そういうことなら初めから言ってくれるといいのに」

「ですが、お嬢様は今月は外出されないと申しておりました。星海祭は、止水を作るために色々と準備がありまして、日時がずれるのです」

「だからと言って、理由を聞けば私だって考えも変わるでしょ?」

 想像でしか無いのだけど、星の海は噴水の細工でどうにかなると思う。
 止水を作り出すというのなら、魔法石でどうにか出来なくはない。見立てたとしても、空が曇りであるのなら気分的にあまりいいものでは無いわよね。
 天候がどうこうできるのであれば、ソルティアーノのような出来事もまず起こらないわけだし。
 ただ、日時が安定しないというのも考えものよね。

 それにしても、お祭りね。
 前世ではほぼ無縁なものだったわね。テレビで眺めるか、電車の中で浴衣を着ている人を見かける程度なものだった。
 そんな行事があるというのなら、私も行きたいとは思う。
 
「そういうお祭りがあることは知らなかったし、二人の誘いは嬉しいよ。だけどね、私はルビーと見て回るから元々はそういう約束だったしね」

「お嬢様……私はただ口実なだけですので、何も二人で出かけるとは申しておりません」

 なんでそんな事を言うかな……ほら、ここにいる二人が嬉しそうにしちゃっているじゃないの。
 この二人はどう考えても問題しか起こさないわよ?

「クレア。だいたいそういうイベントなら普通、私ではなくてライオと一緒……に」

 クレアはライオの名前を聞くと、カッと大きく目を見開いている。
 ち、違うよ? 私は別に誂うつもりはなかったのだけど。
 そんなに怒るとは思わなかったわ。

「あ、いや。そうそう、メルやクレアのお兄さんは戻ってこないの?」

「お姉さまは、まだ井戸の掘削やポンプの制作と何かと忙しそうですわ」

「クレアのお兄さんがメルを手伝っているということね。それなら一安心ね」

 そんな事を言っている私に、クレアからは低い声で「ハァ?」と突き刺さってくる。
 クレアは情緒不安定なの? この数日の間に一体何があったの。
 ライオの話をすると睨まれ、クレア兄とメルのことを聞けば怒りに満ちた目をしている。

「クレアどうしたの? ライオと何かあった?」

「お嬢様、少しこちらへ」

 そう言われ、部屋の隅へと連れて行かれる。

「どうしたの?」

「星界祭は王国主催ですので、今年はルンセイド王国より来賓がございまして」

「王国主催なら他国から来てもおかしくはないわね」

「それで、ライオット殿下は、ルンセイドからは王女様が来られるようなのです」

「ええ、そうですわ。ライオ様はその御方のエスコートをなされます」

 怖い怖い、クレアさんすごく怖いですよ。
 離れて小声だと言うにも関わらず、私達の会話に割って入ってきていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

カードクリエイターの魔境ダンジョン帝国

猫の人
ファンタジー
先生やクラスメイトと異世界召喚に巻き込まれた主人公、「四堂 創(しどうはじめ)」。召喚されたのだが、召喚者の不備でゲームのような世界の、魔境と恐れられる森に転移してしまう。 四堂とクラスメイトたちはユニークジョブと専用スキルを与えられていて、その力を使ってなんとか魔境で生き残ることに成功する。 しばらく魔境で生活するが、やはり人のいる所に行きたいと考えたクラスメイトは、体力的に足手まといであまり役に立ちそうにない先生と女子一人を置き去りにして、町への移動を決断する。 それに反対した四堂は、二人とともに別行動を選択。三人で魔境生活を続けることに。 三人で始めた魔境生活は、ダンジョンを手に入れたり、男子に襲われそうになり逃げてきた女子や召喚したモンスターなどを住人として、いつしか誰も手出しできない大帝国へと変貌していくのだった。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

処理中です...