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学園編

143 お嬢様は手を差し伸べる

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「そろそろ、夕暮れになります。商品を見定めたいのですが、よろしいですか?」

「い、いや……やめてください。それだけはどうか……あの子達には何の罪はないのです。なぜですか、なぜそのような」

「それ以上は」

 近寄ろうとする、院長に対してルキアは間に入り、剣を抜いていた。
 そこまでする必要はないのだけど……これ以上はどうするべきなのかな。
 だけど、確信に近づいている気はする。

「どうか御慈悲を、私達はただ静かに暮らせればそれで……」

「静かに暮らしたい……ね。誰に迷惑をかけることもなく。だけど、貴方自身がご自分の立場というものを理解していない。残された子供たちは、貴方無しでどうやって生活をしていくつもりなの?」

 院長がなぜここに留まるのか?
 答えなんてこの人を見れば分かる。あまりにも高齢すぎるから……仕事をしたいと願った所で、希望は何処にもない。

 だから、私の言葉に絶望し……なにより、子供たちとの時間が失われることに。生気すら感じ取れないほどの虚無感に襲われたのだろう。
 そして、憎悪へと変わる。

「うっ、ぐっ……それなら、私にあの子達を売れと仰るのですか? もうあんな思いは……二度とごめんなのです」

「だから、言ったではありませんか。私に雇われませんかと?」

「それはあの子達を……」

 やっぱりそう言うことなのね。
 ここまで信用されていないのも困るが、これまでの会話で信用できるはずもないわね。

「申し訳ございません。お嬢様は、全ての子供をお嬢様の下で働いて欲しいと言っておられるのです。無論、貴方も含めてとお考えのようです」

 ルビーの言葉に、視線が泳いでいる。
 私へと止まる。

「私の言葉を理解できませんでしたか?」

「わ、私を含めて、ですか?」

「ええ、そうよ。私はここに居る子供たちの雇い主にはなれても、貴方のように母親にはなれないわ」

 私の言葉に、膝をついて崩れ落ちる。
 彼女はきっと後悔をしていたのかもしれない。
 売り飛ばした、その子供が何なのか……ただの推測で間違っているのかもしれない。彼女はただ子供たちを見守りたいだけのようね。

「ですから、これが最後です。私に雇われるつもりはありませんか?」

 私の差し出した手に……恐る恐る、手を差し出している。
 涙を流し、震える手で今度はしっかりと両手で握りしめてくれた。

「ルビー、話は纏まったわ。明日の朝に、馬車を買取りここに運ぶように」

「かしこまりました。お嬢様」

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 この人がいい人で良かったよ。嫌なことばかり言って……私も、人を信用できない人間でごめんなさい。
 学園に入ったことで、貴族との出会いが私の暗い部分をさらけ出してしまう。

「今までよく頑張りました。ですが、これで終わりではありません。これからもよろしくお願いします」

 裏を勝手に考えてしまい、それが事実だったり、今回のように疑いだけで終わることもある。でも、そうしたいわけじゃないのに……

「院長。後で、食事を運ばせます。でも、子供たちが帰ってきても少し待たせるかもしれない。だから、なだめるのをお願いするわ」

「食事をですか? わかりました、グセナーレ様。お任せくださいませ」

 さてと……後はあの子だけね。
 席を立ち、窓の外に見える人影を確認することができた。

「ルキア、行くわよ」

「はい、イクミ殿」

 扉を開けると辺りは、夕日に照らされる風景は、正直にただ綺麗だと思う。
 だけど、その夕日に照らされる一人の少女は悲しそうに映る。
 全く拗ねてからに……足音なのか、影で気がついたのか、ティアからはキッと睨まれる。

「話はついたわよ」

「そうですか……院長さんなら絶対に子供を手放したりはしません」

「多分明日には、ここを離れるそうよ。それでも貴方だけ、ここに残る?」

「そんなことは……うっ」

 私に掴みかかろうとするも、ルキアがそんな事をさせるはずがないのにこの子はまだわからないと言うの?
 体ばっかり大きくなって……本当にこの子は、放っておけないわよ。

「大丈夫、皆一緒よ。子供たちも院長も、だから貴方一人でよくここまで頑張ったね。また、あの頃のように一緒に暮らしましょ、ティア」

 頭に手を置くと、大きな体が私にのしかかる。

「うっ、ううぐっ。うわーーん、お姉さま! よかった、すごい不安だったの……あんな怖いことを言うから、すごくすごく……」

「そうね、ごめんね」

 やれやれ、本当にあの頃とあまり変わらないのね。
 今までお疲れ様。よく頑張ったわよ。

「ティア。来てくれるわね?」

「はい、もちろんです!」

 涙を流しながら笑う笑顔も、あの頃と変わりのないのね。
 私が抱きしめると、落ち着いたのか嬉しそうに笑っていた。
 ルキアとティアに買い出しを任せ、私とルビーは子供たちと少しだけ話しをしたりしていた。

 子供たちは皆純粋だった。将来何に成りたいと聞けば、騎士だったりメイドだったり、それぞれ夢を語ってくれた。
 ならその夢に届くよう、私は背中だけ押してあげること。

 だから、その夢を諦めない子供でいてくれることを、私は願う。
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