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学園編
142 お嬢様と大きな子供
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私が差し出した手を院長は首を振り、手を取ることはなかった。
それも当然のことよね。いくら孤児とは言え、彼女からすれば我が子も同然なのかもしれない。
それでも、私はそう思いつつも、断ったことで別の考えへと切り替わっていく。
ティアがこれまで何をしてお金を得てきたのかは、ルキアを師匠と呼び腰にぶら下がっているものからしても容易に想像が付く。
まあ、私の所に居た事も影響はしているよね。
だけど、たった一人で十五人もの子供と、子供たちの僅かな稼ぎでこの有様なのだから……出来ることは少ないみたいね。
だが……子供には利用価値も生まれる。
貧しい生活は、時として武器としても利用できる。その理由は、私のような奴隷商人だ。
私の所にもそういった子供が居るのだから、こういう考えをしてしまうのはアレを見てきたからだと思う。
生きる気力を奪われ、ただ庭に座っていた子供たち。
体中にはアザがあり、動くだけでも痛みを伴うはずなのに声を上げようとはしない。最初の食事ほど気丈に振る舞うのが辛かった。
だから……あの時は目をそらして、できるだけ彼を見ようとはしなかった。
たとえ善意だとしても、信用ができないのも分かる。
しかし、これまで支えてくれたティアの言葉に耳を傾けようとしない事に、私としては理解をすることは出来ない。
ならこの人は……善人か悪人か、その判断を見極める必要がある。
私の所にいれば好き勝手をすることは二度とできなくなる。それを躊躇っているのだとするのなら……
「院長さん。お姉さまは本当に良い人なんですよ。私が奴隷商人に捕まっていた時にお金を出してくれたのに……村にまで送り届けてくれた。皆も、すごく楽しそうにしていた」
目を閉じてじっと聞いている院長に、ティアの声は段々と小さくなっている。
相槌もなく、ただじっとしているだけだった。
ティアは私のことを信頼していたとしても、この人にそれが届くとは限らない。
「だから……あの子達は、お姉さまがきっと……きっと……」
私に助けを求めるかのように視線を向けてくるが、私は応えることはない。
テーブルを爪でコンコンと叩き、わざとらしく息を吐く。
「ティア。貴方がこの孤児院にすがる理由は何? クレスと離れて貴方はここで何をするつもりなの?」
「私は、ただ、子供たちが少しでも……お姉さまのようにできればと、思いました」
そう思うのも分からない訳でもない。私と居た事で感化され、そんな事ができたらとふと頭をよぎっただけかもしれない。
私にできたことを、ティアだってできないとは言わない。だけど、私の場所と此処とでは、あまりにも違いすぎている。
今出払っている子供たちは、働いているとはいえ稼げるお金は少ない。
その現実を理解しないまま、行動を起こしてしまっている。
どれだけ少なくても、ゼロよりかは良い。だけどね、ティア……それだけじゃダメなのよ。
私がティアの立場なら、一人でというのならそんなことは考えない。
ティアはきっと深く考えることもなく、私の真似に似たようなことをしているだけに過ぎない。
私に与えられていたものと、ティアが勝手に背負っているものは全くの別物。
それにきっと気がついていない。
「ティア。もうおよしなさい。貴方だけでも、お姉さんの所に戻るといいわ、今までありがとうね」
「で、でも、私が離れたら、あの子達はどうするのですか? 少しだけど、やっと前よりは……依頼だってもう少しすればもっと上のランクで……」
ランク。ティアは冒険者としてお金を稼いでいるようね。
ティアの強さはわからないけど、クロやルキアと言った超人には程遠いのかもしれない。
ティアは何に拘っているのだろう。
そもそも、あの様子からして、お金の価値を知らない……?
どれだけ稼げて、この場所にどれだけの金額を渡しているのかをちゃんと理解しているのかしら?
もし、そういう人だというのなら……私に知られたということで、この人は姿を晦ませるかもしれない。
それが真実だったら、ティアは受け止めることはできるのかしらね。
ティアにとってここでの生活はただ子供たちを、あの頃のような地獄から救いたいだけ。
自分だけはそんな事にならないなんて話は、そこら中に転がっているのだから。少しぐらいは疑おうとは思わないのかしらね。
「院長、色々と面倒なので単刀直入に言いましょう……私はこれでも奴隷商人です。ご要望でしたら、子どもたちを買い取りましょう。こちらから言い出したこと、もちろん、貴方の言い値で構いません」
ルビーは持っていた袋を私の前に置く。
中に入っている硬貨が音を鳴らす。ずっしりとした重みのある袋を前に、ティアは目を大きく広げていた。
「お姉さま!!」
ティアは机を叩き、私を睨みつけるが後ろに立っているルキアに睨まれると、唇を噛み目をそらしていた。
院長は深く息を漏らしている。
ようやく開いた目は、私を拒絶するわけでもなく、すがることもなく、虚ろな目をしていた。
「やはり、貴方様も……アイツラと一緒なのですね」
アイツラ……か。
それを奴隷商人のことだというのなら一緒だと言える。
「違います!! お姉さまは……そんな」
「飛び出して何処へ行こうと言うの? 話はまだ終わってはいないのよ?」
「くっ」
ティアは涙を流し、外に飛び出していた。
全く、外見は成長していても中身はまるで子供ね。この場に、クレアが居たとしても、同じようなことを言っていたのかもしれないわね。
メルなら、私の裏を読んで静観しているしているでしょうね。
「何故、貴方方は……
「アイツラ、それに一緒」
なるほど、ならそういう事になっている可能性も出てくるわね。
いまのが演技でないとするのなら、すでに彼女は子供を失っているということ。
アイツラ、奴隷商人……もしくは、最低な人間に騙されたかということね。
そして、その子供の無残な結果。
怒りの籠もった目に私も少しだけ話を変えていこう。
それも当然のことよね。いくら孤児とは言え、彼女からすれば我が子も同然なのかもしれない。
それでも、私はそう思いつつも、断ったことで別の考えへと切り替わっていく。
ティアがこれまで何をしてお金を得てきたのかは、ルキアを師匠と呼び腰にぶら下がっているものからしても容易に想像が付く。
まあ、私の所に居た事も影響はしているよね。
だけど、たった一人で十五人もの子供と、子供たちの僅かな稼ぎでこの有様なのだから……出来ることは少ないみたいね。
だが……子供には利用価値も生まれる。
貧しい生活は、時として武器としても利用できる。その理由は、私のような奴隷商人だ。
私の所にもそういった子供が居るのだから、こういう考えをしてしまうのはアレを見てきたからだと思う。
生きる気力を奪われ、ただ庭に座っていた子供たち。
体中にはアザがあり、動くだけでも痛みを伴うはずなのに声を上げようとはしない。最初の食事ほど気丈に振る舞うのが辛かった。
だから……あの時は目をそらして、できるだけ彼を見ようとはしなかった。
たとえ善意だとしても、信用ができないのも分かる。
しかし、これまで支えてくれたティアの言葉に耳を傾けようとしない事に、私としては理解をすることは出来ない。
ならこの人は……善人か悪人か、その判断を見極める必要がある。
私の所にいれば好き勝手をすることは二度とできなくなる。それを躊躇っているのだとするのなら……
「院長さん。お姉さまは本当に良い人なんですよ。私が奴隷商人に捕まっていた時にお金を出してくれたのに……村にまで送り届けてくれた。皆も、すごく楽しそうにしていた」
目を閉じてじっと聞いている院長に、ティアの声は段々と小さくなっている。
相槌もなく、ただじっとしているだけだった。
ティアは私のことを信頼していたとしても、この人にそれが届くとは限らない。
「だから……あの子達は、お姉さまがきっと……きっと……」
私に助けを求めるかのように視線を向けてくるが、私は応えることはない。
テーブルを爪でコンコンと叩き、わざとらしく息を吐く。
「ティア。貴方がこの孤児院にすがる理由は何? クレスと離れて貴方はここで何をするつもりなの?」
「私は、ただ、子供たちが少しでも……お姉さまのようにできればと、思いました」
そう思うのも分からない訳でもない。私と居た事で感化され、そんな事ができたらとふと頭をよぎっただけかもしれない。
私にできたことを、ティアだってできないとは言わない。だけど、私の場所と此処とでは、あまりにも違いすぎている。
今出払っている子供たちは、働いているとはいえ稼げるお金は少ない。
その現実を理解しないまま、行動を起こしてしまっている。
どれだけ少なくても、ゼロよりかは良い。だけどね、ティア……それだけじゃダメなのよ。
私がティアの立場なら、一人でというのならそんなことは考えない。
ティアはきっと深く考えることもなく、私の真似に似たようなことをしているだけに過ぎない。
私に与えられていたものと、ティアが勝手に背負っているものは全くの別物。
それにきっと気がついていない。
「ティア。もうおよしなさい。貴方だけでも、お姉さんの所に戻るといいわ、今までありがとうね」
「で、でも、私が離れたら、あの子達はどうするのですか? 少しだけど、やっと前よりは……依頼だってもう少しすればもっと上のランクで……」
ランク。ティアは冒険者としてお金を稼いでいるようね。
ティアの強さはわからないけど、クロやルキアと言った超人には程遠いのかもしれない。
ティアは何に拘っているのだろう。
そもそも、あの様子からして、お金の価値を知らない……?
どれだけ稼げて、この場所にどれだけの金額を渡しているのかをちゃんと理解しているのかしら?
もし、そういう人だというのなら……私に知られたということで、この人は姿を晦ませるかもしれない。
それが真実だったら、ティアは受け止めることはできるのかしらね。
ティアにとってここでの生活はただ子供たちを、あの頃のような地獄から救いたいだけ。
自分だけはそんな事にならないなんて話は、そこら中に転がっているのだから。少しぐらいは疑おうとは思わないのかしらね。
「院長、色々と面倒なので単刀直入に言いましょう……私はこれでも奴隷商人です。ご要望でしたら、子どもたちを買い取りましょう。こちらから言い出したこと、もちろん、貴方の言い値で構いません」
ルビーは持っていた袋を私の前に置く。
中に入っている硬貨が音を鳴らす。ずっしりとした重みのある袋を前に、ティアは目を大きく広げていた。
「お姉さま!!」
ティアは机を叩き、私を睨みつけるが後ろに立っているルキアに睨まれると、唇を噛み目をそらしていた。
院長は深く息を漏らしている。
ようやく開いた目は、私を拒絶するわけでもなく、すがることもなく、虚ろな目をしていた。
「やはり、貴方様も……アイツラと一緒なのですね」
アイツラ……か。
それを奴隷商人のことだというのなら一緒だと言える。
「違います!! お姉さまは……そんな」
「飛び出して何処へ行こうと言うの? 話はまだ終わってはいないのよ?」
「くっ」
ティアは涙を流し、外に飛び出していた。
全く、外見は成長していても中身はまるで子供ね。この場に、クレアが居たとしても、同じようなことを言っていたのかもしれないわね。
メルなら、私の裏を読んで静観しているしているでしょうね。
「何故、貴方方は……
「アイツラ、それに一緒」
なるほど、ならそういう事になっている可能性も出てくるわね。
いまのが演技でないとするのなら、すでに彼女は子供を失っているということ。
アイツラ、奴隷商人……もしくは、最低な人間に騙されたかということね。
そして、その子供の無残な結果。
怒りの籠もった目に私も少しだけ話を変えていこう。
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