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学園編

141 お嬢様と孤児院

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 人間である私からのプレゼントを嫌った、その結果がこれなんだろう。
 半分に曲げられ、見るも無残なものに成り代わっている。
 ティアにとって壊れたブレスレットを大事に持っているのは、村と対立するきっかけになったのね。

 あまりにも浅はかすぎたわね。こうなることぐらい、結果を見なくても理解はできたはず。
 私との思い出よりも、あの子達には平穏な暮らしがあったというのに。

「そっか……ごめんね、私のせいでこんな事になってしまって」

 私が何もあげなければ、そんなつらい思いを二人にさせることもなく。こんな危険を犯すこともなかったのかもしれないわね。
 エルフの特徴である、その長い耳をフードで隠し、顔を隠していたのも、自分を守るために。

 小さな過ちが、こんな事をさせるきっかけになった。
 子供のころの二人の顔が脳裏に蘇る。

「違います! 私達は自分の意志で村を出たのです。たった一つの大事な思い出すら壊すあんな村……いっそ滅ぶべきです!」

「それに関しては私も同感だ」

 ルキアがそんな事を言うなんて……一体何があったと言うの? 私と出会った時のルキアは子供たちを守るためにと、身を挺したにも関わらず、村からはハーフエルフと言うだけで受け入れられることはなかった。

 ルキアにとっては両親のために頑張ってきたはずなのに。村が滅べばいいだなんてただ事じゃないわね。
 あの村には、ティアの両親だって居た。同年代の友達だって居るはず。
 村の人達を守ろうとしてのに……ティアの言葉に賛同するに至った経緯は何?

 私の知らない間に何があったと言うの?

「何時までそんな格好をしているつもりだ、いい加減これも取ってしまえ」

「だ、ダメですよ。恥ずかしいじゃないですか!」

 フード付きのローブを強引に剥ぎ取り、ルキアとよく似た格好ではあるのだが……かなり露出度が高い。
 一体誰の……私が思いついたのはいつも腹出し、ショートパンツで、ニパッと笑うアイツの顔が浮かんできた。

 誰がこんなものを考えたのか知らないけど、さすがにこれはないわね。
 恥ずかしそうにしているティアだったが、私の目は今かなり濁ってそうね。

 私よりも小さかったはずのティアが、ルキアと肩を並べられるほどに成長し、恥ずかしそうに笑顔を上から見せていた。
 私はなんでティアを見上げているのか……私は後何回これを経験すればいいんだ?

 奴隷の子供だけではなく、ティアにも……しそれにしても、見ない間に成長したわね。
 足元から見上げれば、間違いなく顔が見えそうにないわね。
 一点だけに関してはルキアに勝っているよ、誇っていいと思うわ。

「イクミ殿。そろそろ参りましょう」

「もう行ってしまうのですか?」

「イクミ殿と話をしたいのならお前も来ればいい」

「そうしたいのは山々なのですが……私はこの孤児院にお世話になっているので……」

 なるほどね。
 どこもかしこも、手入れが行き届いていない。

 いまティアが離れてしまうと、ここの生計が成り立たないかもしれないわね。
 それに、お世話になっているのなら無理なことは私からは何も言えない。ティアは私の奴隷ではないのだから。

「ここの孤児院には、何人ぐらいの子供たちが居るの?」

「今は、十五人です」

「思っていたのより少ないのね」

「そんなことはございません。一人であろうとも、孤児がいる事自体が問題なのです」

 言われてみればそうね。
 親を亡くしたり捨てられたりなんて、そんなことはないに越したことはない。最悪、奴隷になってしまう子供だっている。
 私の言葉は完全に失言ね。

「院長さん、先程の言葉謝罪をします。申し訳ございません」

「いえ、貴方様が、ティアが言っていたお姉さまだったのですね」

「今更姉と言うには無理がありますね……それにして、子供たちの姿が見えないのですが?」

「お恥ずかしい話です。私だけでなんとかできればよいのですが……」

 街を見る様子からして、あの街で何かしらの仕事をしているということね。
 子供たち……か。奴隷の中に、子供は数人居た。そんな皆も、今では農作業をしたり、屋敷の手伝いをしている。
 だが、この提案をしていいものだろうか?

「よろしいではありませんか? お嬢様がそう思うのでしたら」

「ルビー……あっ」

 聞き慣れた言葉に振り返ると、優しい言葉とは裏腹に、怒りで髪が逆立っているように見えるのは気のせいだと思いたい。それとは別に、体の周りを赤いオーラのようなものが……こ、これはかなりよくないよね。

 この怒り方だと、これからしばらく監獄行きね。屋台の串焼き……さよなら。

「たかが十五人。お嬢様であれば、何の問題はございません」

「そのようなことを仰らないでください。あの子達は……」

「その日その日を何とか食いつなぎ、見た所あまり良い教育を施されているとは思えません。そして、ここに居る子どもたちが大人になり、何をするというのですか?」

「それは……」

 ルビーに言われてきついだろう。しかし、間違っているわけでもないから、私から止めることもできない。
 ルビーは私に促しているというのも分かる。

 私は院長に手を差し出した。
 ティアは嬉しそうな顔を浮かべる。

「私に雇われてみませんか? 貴方と、ここに居る全ての子供達を」
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