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学園編

136 お嬢様が出来ること

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 少し落ち着きを取り戻したクレアは、メルの服を掴んだまま離そうとはしていない。自分が死んだことよりも、巻き込んだとなれば気分的に良いものではないわね。
 二人は自分に何が起こっているのかを、いまだによく覚えている。
 私の最後の記憶か……あれからもう五年以上前になる。

 だけど、クレアたちからすれば十年以上昔の話になるのよね。
 でも、何度思い返してもその記憶は何も思い出せない。

「イクミちゃんはどうだったの?」

「それが、私は覚えていないのよ。二人のように子供だったというのは間違いないのだけど、私の場合は十歳だったのよ。二人とはなにか違うよね」

「そうなの? 転生物のラノベならよくある話よ? 頭を打った衝撃で思い出したとか、婚約破棄をされる瞬間に思い出すとか色々ね」

 メルの話はよくわからないことが多いけど、私が気がついたときにはあの牢屋の中に居た。
 外傷もなかったと思うし、痩せていただけでしか無い。

「そう言うものなの?」

「私なんて、意識が戻ったら、あー転生してるわだったし」

 メルの言葉に、クレアはウンウンと頷いている。私と比べて、何というかこの子達は順応性の高いわね。
 立ち回りのうまいメルらしいと言えばそうなのかもしれないわね。

 政略結婚の道具だと言うのに、ルルと一緒にあの日まで一人で支えていた。ルルが助かったことで、毎日楽しそうに過ごしているのを見てきた。

 クレアも公爵家のご令嬢であるにも関わらず、その地位を使うこともない。
 悪役とは程遠い……前世の記憶とゲームの知識も合わさってか、かなり変わった令嬢ではあるけど。

「二人は私なんかと比べて……ちゃんと前を向いているのね、ごめんね。変な話をしちゃって」

「そんなことはないわよ、大丈夫。イクミちゃんのおかげで、あの子が生きているだけでも私は嬉しいわ」

「お姉さま……お姉さま、大好きです!」

 何だかんだ言いつつも、その言葉が気に入っていない?
 それだけ、メルがクレア兄との婚約に前向きなのかもしれないわね。逆にメルの一体何処を気に入ったのだろう?
 私はいつも誂われているし、怒られたこともかなりある。

「どうしたの?」

 貴族令嬢としては、私に比べると上なんだろうけども、腹黒さで言えばドス黒いとも言える。
 そんなメルが、魔法石という共通な話題だけで……いや、それも、もしかしたら、最初から狙っていたということ?

 もともとクレア兄が好みだったとか?
 そういや最初に……なんとかが気に入ってるだの、言っていた気がするわね。

「メルさ、最初に私の屋敷に来ていた時に……なんだかの騎士がどうのこうのって言っていたけど、その人はもういいの?」

「今はその話をしないで…」

「はっ……お姉さまは、お兄様をそのような目で見られたのですか?」

「違うから、あれはクレアに私はそんなつもりはないという話だけで、スーノリス・カドオラン様は別に何とも思ってもいないし、ジェドルト様は……その、好みというか」

 最後になるとゴニョゴニョと、口籠っている。
 メルの気持ちは固まりつつあるようだけど、公爵がどう判断をするかだね。とはいえ、父親が犯罪者というレッテルは拭えない状況に、どうやって対処をするべきか……
 あの程度の魔石では、動きそうにもないし。

「お姉さま、今日はご一緒に……その」

「分かったわよ。イクミちゃんも一緒に寝る?」

「そう言う冗談は言わないでよね」

 二人がたとえ気にしなくても、私が気にしてしまうからそんなことはできない。
 前世の話もあってか、二人の仲はより深いものになっていると思う。ただ、クレアはこれまでも私を養護してくれたが……メルに染まるということはないわよね?

「そうそう、明日は何処へと向かう予定なの?」

「それは明日になって決めることにしているから」

「そっか。分かったよ」

「イクミちゃんはお留守番だよ?」

 お留守番?
 この私がなんででしょうね?
 心当たりはあるというか……ルビーの性格からすれば、間違いなくそうなるのが目に見えているし、奴隷たちも一度倒れた私がくれは気が気じゃないわね。

「庭に出るのも禁止だからね」

「それぐらい許してくれても……ほら、お花を愛でるとか」

「まさか、あのイクミ様がそのようなことを!?」

 クレア!
 どうして貴方はそんなことで驚くのよ!
 メルも、わざとらしく大きな鼻息を漏らす。余計な一言のせいでここまで言われる必要があると言うの?

「もういい。おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみ、イクミちゃん。体のことは本当に気をつけてね」

 あんな顔でそんな事を言わないでよ。調子が狂うでしょ、本当に腹黒なんだから。
 廊下では、ルビーとルキアが待機していた。
 大きな屋敷と言っても、さすがに迷子にはならないよ。

「お嬢様、お体は大丈夫ですか?」

「ええ、何ともないわ。明日はメルから来るなと言われたしね。ゆっくりとさせてもらうわ」

「かしこまりました」

 私が、ここにいてできることはもう何もなさそうね。作業は奴隷たちが、湧き上がった水は、メルとクレア兄がなんとかしてくれるだろう。
 今後の対策も、きっと二人ならどうにかしてくれると思う。
 それから、一日、二日、とただ時間だけが流れていく。

「飽きた。私がここにいる意味ってあるのかしら?」

「はっきり申し上げますと、特にないのですね」

「そうよね……」

 本を眺めていても、全然集中できない。
 これなら、屋敷の執務室に籠もっていたほうがまだいいわね。

「公爵の所へと行ってくるわ」

「かしこまりました」

 ずっとだらけているせいもあって、この部屋で過ごしているときはほぼ下着姿のままになっている。
 空調がないためこの状態をルビーから提案されるほどだった。
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