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学園編

133 お嬢様の奴隷は今日も大活躍

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 二日振りに戻ってきたメルはかなり落ち込んでいた。
 あの様子からして、現状はあまり良くないみたいね。
 それだけ深刻だとするのなら、私には何が出来るのだろうか?

「イクミちゃん。お願いがあるのだけど」

「お願い? いいよって気軽に言える話じゃないみたいね」

「現状はかなり悪い。雨が降ればと何度も思ったわ」

 となれば、ソルティアーノだけに限ったことではないのかもしれないわね。
 想像以上に深刻な現状ということね。何時降るかわからない雨に期待する。
 魔法があったとしても、現状を打開するのは不可能というわけね。

「水不足、水の確保、ため池かダムか」

「そんなものは雨が降っていたらの話でしょ?」

「空気、湿気はどうだったの?」

「ううん、ここの湿度はそれほど高くはなかったわ」

 日本のように湿度が高いのなら、結露から水を作り出すこと出来る。
 海水の水を使おうにもここからだと遠すぎるわね。

「とりあえず、地下水を使うことになったのだけど。その穴を掘るのにイクミちゃんの所にいる人を借りたいのよ」

「私から出せる人員は、今居るのが全てだよ。バナンたちのことも言っているのだろうけど、他にやるべきことがあるからここに居ないの」

「でも!」

 人数は多いことに越したことはない。
 深層水を使うのと言うのならなおのことだろうけど……バカにしてもらっても困る。

「ルキア、深さ五十メートル……あー、私を縦に大体五十人分掘るのにどれだけ時間がかかると思う? 土魔法を使ったとして」

「そうですね。恐らく二時間と言った所だが。イクミ殿の言い分を考えますと、半日かと」

「土魔法? 魔法を使ったら、魔力が無くなると……」

「ルキア、エルメダはここに居る?」

 頷くので、メルを連れて屋敷の外に居る奴隷たちの所へと向かう。
 魔法で作り出したものは消えて無くなる。メルが言うのも分かる。
 しかし、変化を加えるのは魔法を使ったのは手段であり、魔力が消えようとも関係がない。

「エルメダ。イクミ殿がお呼びだ」

「は、はい。ただいま!」

「ごめんね、休んでいる所を……」

 エルメダに、ルキアと同様に話をすすめるが、ウンウンと頷くばかりで、最後には「それをどうするのですか?」と、私は左手で額を抑える。
 メル達と一緒に何を見に行っていたというのかしらね。

「深く穴を掘れば、水が出てくるのよ。井戸ぐらい知っているでしょ?」

「ああ、なるほど。それをどうするのですか?」

 ああもぅ、なんで話がこんなにも進まないのよ!
 髪をガシガシと掻き乱し、メルからは落ち着いてとなだめられる。

「とはいえ、打開策とはいい難いわよ?」

「うん、分かってる。今はそれで凌ぐしか方法が見つからないのよ。期待していたのならごめん」

「エルメダ、土魔法を使える人に話をしておいて、明日から作業に取り掛かるわ」

「了解でありまーす」

 エルメダは奴隷たちの所へと戻り、話し合っている。
 うまく通じていると思いたいところね。
 メルは相当落ち込んでいる。部屋に戻ってからも、ずっとコップに入った水を見ているだけだ。

 今も色々と悩んでいるのだと思う。
 クレアもいつものような笑顔はなく沈んでいた。

「メル。魔法石でどうにか出来ることは考えたの?」

「そんなものは無理よ。水そのものを作り出すことなんて無理よ。あんなにも深刻な状態だったなんて……イクミちゃんはまだ見ていないからそんな事が言えるのよ」

「メルの言い分もわかるわ。現状を見ていない私がとやかく言えたものじゃないわね。いまは、深層水を使ってなんとか凌ぐことを考えよう。無くなることはないとは思うけど……」

 かなり深ければ、いずれ雨が降るだろうし、冬になれば山に雪が積もる。流石にそこまでは枯れるとは思えないけど。
 けれど、何箇所にも作るとなればどうなのかしらね?
 そのためにも、別の対策を考えておく必要があるわね。

「なるほどね。現状を聞くと見るとでは大違いね」

 干上がった畑と、水の少ない川。
 メルが気を負うのも分からなくないわ。領民たちからは期待され、それに答えようにも……何も出来ることがない。

「どう?」

「ここなら多分。いけます」

「ジェドルト様。この畑を潰すことになりますが、よろしいですか?」

「ああ、私から父上に報告する」

 ここの畑の持ち主はいい気分はしないだろうね。
 私が手を挙げると、奴隷たちは作業へと取り掛かる。大きめの畑に植わっている作物ごと半分の土が巻き上げられ、もう半分の場所に土が盛られていく。

 土はどんどんと掘り下げられ、水が混ざり始める。
 作業が一旦止まり、村人からは歓声が巻き起こるが、この水を使ってはいけない。

「これって大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないわよ。今の深さなら村にある井戸とそれほど変わらないわ」

「それに魔法でこんな事ができるだなんて……なんで最初から言ってくれなかったの?」

「聞くと見るとでは違うでしょ?」

 そう言うと、メルは少し不貞腐れる。
 私もあの時に奴隷たちの風呂を用意するように言わなければ、こんな事に使えるとは思っても居ない。

「水が止まった?」

「掘り出した土に圧力を与えて、水を通さないようにしているのよ。まだまだ掘らないといけないからね」

「井戸ってそんなに深くはないんじゃないの?」

「メルが言っているのは多分、浅井戸のことね。私が思っているのはそれよりももっと深く掘られた深井戸だよ。問題なのは、深すぎるから落ちると大変ということかしら」

 誰にも入れないように、小屋でも作るのがいいのだろうけど……その辺りはクレア兄にませかるしかないわね。

「私はさ、川はまだもっと水が流れていると思っていたのよ」

「うん」

「それなら魔法石を使って、水を移動すればいいと簡単に考えていた。井戸を使ったとしてもすぐに枯れるのが怖い」

「これだって、何時まで持つかはわからないわよ。雨が降らないなんてことはないけど……ただ、降りすぎた場合ここがどうなるのか」

 井戸も深層水も、元を辿れば山に降った雨や雪でしかない。私には、そこまでの知識がないから、今後この深井戸によって別の問題の可能性も考えないといけなくなる。
 それまでには、ここを使わなくてもいいように出来るのが一番いいのだけど……

「お嬢様、そろそろ馬車に戻られては?」

「まだ見ているわ。できればここの完成までは……」

 今でだいたい半分のようね。確かに掘るだけであれば、もう終わっていたと思う。
 掘るよりも壁を固めたり、土を上まで上げるのに手間がかかっている。
 積まれた土は、荷車に乗せて別の所へと運んでいる。

「メル。これは試作、次からは二人でどう掘り下げていくのがいいのかも考えて」

「そうね。イクミちゃんは優しいわね」
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