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学園編
132 お嬢様はお留守番
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「いやー、うまく行ったわね」
「イクミ様のことですから、あのように仰るのではないかと思っておりました」
「今頃置き去りにされて、キョトンとしているわよ」
メルティアはいま現状起きていることに対して、何かしらの対策は考えていた。
しかし、それがうまく行ったとしても自分の功績にしたくはないと思っている。ジェドルトにもこのことは話をしていて、ソルティアーノ公爵領を救ったのは、あくまでもイクミがおこなったもの。
そして、イクミの口から責任は取ると言った。
メルティアが行うこと全てをイクミになすりつけることが出来る。
「しかし、本当に良かったのか?」
「どういうことですか?」
「お前の功績にすれば、私との婚約に……」
メルティアは、足を止めて俯く。
ここに居る領民たちを助けたいと思うことに変わりはない。だけど、その功績で彼との婚約に優位になるのは何かが間違っている気がしていた。
「ジェドルト様のお話は嬉しく思います。でも、私は以前とは違い……たぶん、もう貴族でもないし」
「メルティア様」
レイネフォン子爵は投獄され、メルティアは事実上その犯罪者の娘という立ち位置にもある。
いまはイクミの保護下にあるため、普通に暮らせている。
たとえ貴族の令嬢でなくなったとしても、イクミが居てくれるおかげでメルティアにはちゃんと仕事が与えられ、妹と一緒に過ごすことになると思っていた。
「ふむ。貴族でないとして、それがどうした」
ジェドルトは何の迷いもなくそう言い切ることで、また一歩メルティアに近づいていく。
メルティアも彼に惹かれているのは自覚していた。だが、貴族でなくなった自分にはいつか彼の重荷になりかねない。
平民と貴族の結婚も全く無いわけではない。しかし、相手は公爵家のご子息。いずれはこのソルティアーノ公爵家当主になる人物だった。
かけ離れすぎている身分違いの結婚は、いずれ大きな歪が生まれるかもしれない。
「メルティア。お前は私が守る」
「ジェドルト様」
「お前なら大丈夫だ」
メルティアは抱きしめられ、突き放すよりも涙が溢れていた。
これまで、こんなにも優しい言葉を掛けられたことがなかった。この世界だけではなく、前世でさえも……彼女のことを思い、守るなんて言葉は誰からも、一度たりとも。
彼女に向けられることはなかった。
「メルティア様。私からもお願いします。こんなろくでもない兄ですが、どうかよろしくお願いします」
「クレア……ろくでもない兄なんて言ったらダメだよ」
「まったくだ」
クレアにつられ、メルティアも少しだけ笑顔が溢れる。
差し出された手を繋ぎ、再び歩き出した。
「ジェドルト様、そろそろ手を離して頂けませんか?」
「なぜだ?」
「いや、その視線がですね」
馬車へと乗り込み、メルティアの隣には当たり前のようにジェドルドが座り、手を繋がれる。
その様子をニマニマと口元を緩ませているクレアの視線に耐えかねていた。
ジェドルトはそんなことはお構いなしに、離そうとする手に少しだけ力を込める。
「クレア、あんたね」
「私の視線が気になるのですね、こうすればよろしいですか?」
手で顔を隠すが、目を隠すつもりはなく指の間からしっかりと見ている。
「今はそんな事をしている場合じゃないでしょ? ジェドルト様も、地図を確認するので……」
「そうか。クレア、地図を広げろ」
「わかりましたわ」
そうじゃない、そうじゃないのよ。とメルティアは左手を力いっぱい握りしめていた。
結局視察の間も、街の様子を見るときでも、一時もその手を離すことはなかった。
強引な彼に対して、メルティアも諦めていた。
「水路が完全に干上がっているわね。ここの水源は何処から?」
「恐らく、向こう側の川からだろう。行ってみるか?」
畑の作物はかろうじてまだ緑色をしていたが、一部枯れかかっているところもある。
「私達は、少し他の所を見てみます」
「わかった。よろしく頼む」
川へと行く二人は、そこまで水があっただろう石の多さに愕然としていた。
流れる水のようは小川と呼ぶにも程遠いものになっている。
メルティアは川の水に手を入れると、冷たさがなく温かさを感じるほどだった。
見上げた空は晴天が広がり、雨が降ればいいのだが、空は雲がほとんどなく晴れ渡っていた。
川に流れてくる水は山から始まっている。
「ここだけではなく、山の雨量も少ないのね。一度村に戻ります」
「わかった」
村に戻り、井戸の水を確認する。
地下水ということもありまだ十分水は残っている。しかし、地下水と言っても山から浸透してきている水のため、このままではいずれここの干上がる可能性もある。
更に掘り下げて、深い地下水を使おうにも、結局は同じことにも成りかねない。
「ジェドルト様。この地図にあるここの湖を調べたいのですが」
「なら、そうしよう」
クレア達と合流し、山間にある湖に来たものの川と同じように、すでにかなり水位が下がっていた。
なにより、この湖は深度が浅く、これを使ってもすぐに枯れてしまう。
雨が降ればとここでも思うものの、日本でも何度かダムが水が干上がるというニュースを見たことがある。
各地ではダムが整備されていた。ここではそんな物はなく、全ては川と井戸でしかない。
例え魔法石を用いたとしても水を作り出すことは出来ない。魔力で作られた水では何の意味もない。
「これなら何処かから引くしかないわね。ソルティアーノ領でまだ干上がってない所は何処ですか?」
「そうなると、この辺だろう」
「ここは、マガーレン領では? 地図にもそう書かれていますし」
「色々とあってだな。今はソルティアーノ領だ」
メルティアたちが水を求めて各地を転々としている間。
イクミは自分の専用の馬車で暑さをしのぎつつ、やることもないので眠りこけている。
「イクミ様のことですから、あのように仰るのではないかと思っておりました」
「今頃置き去りにされて、キョトンとしているわよ」
メルティアはいま現状起きていることに対して、何かしらの対策は考えていた。
しかし、それがうまく行ったとしても自分の功績にしたくはないと思っている。ジェドルトにもこのことは話をしていて、ソルティアーノ公爵領を救ったのは、あくまでもイクミがおこなったもの。
そして、イクミの口から責任は取ると言った。
メルティアが行うこと全てをイクミになすりつけることが出来る。
「しかし、本当に良かったのか?」
「どういうことですか?」
「お前の功績にすれば、私との婚約に……」
メルティアは、足を止めて俯く。
ここに居る領民たちを助けたいと思うことに変わりはない。だけど、その功績で彼との婚約に優位になるのは何かが間違っている気がしていた。
「ジェドルト様のお話は嬉しく思います。でも、私は以前とは違い……たぶん、もう貴族でもないし」
「メルティア様」
レイネフォン子爵は投獄され、メルティアは事実上その犯罪者の娘という立ち位置にもある。
いまはイクミの保護下にあるため、普通に暮らせている。
たとえ貴族の令嬢でなくなったとしても、イクミが居てくれるおかげでメルティアにはちゃんと仕事が与えられ、妹と一緒に過ごすことになると思っていた。
「ふむ。貴族でないとして、それがどうした」
ジェドルトは何の迷いもなくそう言い切ることで、また一歩メルティアに近づいていく。
メルティアも彼に惹かれているのは自覚していた。だが、貴族でなくなった自分にはいつか彼の重荷になりかねない。
平民と貴族の結婚も全く無いわけではない。しかし、相手は公爵家のご子息。いずれはこのソルティアーノ公爵家当主になる人物だった。
かけ離れすぎている身分違いの結婚は、いずれ大きな歪が生まれるかもしれない。
「メルティア。お前は私が守る」
「ジェドルト様」
「お前なら大丈夫だ」
メルティアは抱きしめられ、突き放すよりも涙が溢れていた。
これまで、こんなにも優しい言葉を掛けられたことがなかった。この世界だけではなく、前世でさえも……彼女のことを思い、守るなんて言葉は誰からも、一度たりとも。
彼女に向けられることはなかった。
「メルティア様。私からもお願いします。こんなろくでもない兄ですが、どうかよろしくお願いします」
「クレア……ろくでもない兄なんて言ったらダメだよ」
「まったくだ」
クレアにつられ、メルティアも少しだけ笑顔が溢れる。
差し出された手を繋ぎ、再び歩き出した。
「ジェドルト様、そろそろ手を離して頂けませんか?」
「なぜだ?」
「いや、その視線がですね」
馬車へと乗り込み、メルティアの隣には当たり前のようにジェドルドが座り、手を繋がれる。
その様子をニマニマと口元を緩ませているクレアの視線に耐えかねていた。
ジェドルトはそんなことはお構いなしに、離そうとする手に少しだけ力を込める。
「クレア、あんたね」
「私の視線が気になるのですね、こうすればよろしいですか?」
手で顔を隠すが、目を隠すつもりはなく指の間からしっかりと見ている。
「今はそんな事をしている場合じゃないでしょ? ジェドルト様も、地図を確認するので……」
「そうか。クレア、地図を広げろ」
「わかりましたわ」
そうじゃない、そうじゃないのよ。とメルティアは左手を力いっぱい握りしめていた。
結局視察の間も、街の様子を見るときでも、一時もその手を離すことはなかった。
強引な彼に対して、メルティアも諦めていた。
「水路が完全に干上がっているわね。ここの水源は何処から?」
「恐らく、向こう側の川からだろう。行ってみるか?」
畑の作物はかろうじてまだ緑色をしていたが、一部枯れかかっているところもある。
「私達は、少し他の所を見てみます」
「わかった。よろしく頼む」
川へと行く二人は、そこまで水があっただろう石の多さに愕然としていた。
流れる水のようは小川と呼ぶにも程遠いものになっている。
メルティアは川の水に手を入れると、冷たさがなく温かさを感じるほどだった。
見上げた空は晴天が広がり、雨が降ればいいのだが、空は雲がほとんどなく晴れ渡っていた。
川に流れてくる水は山から始まっている。
「ここだけではなく、山の雨量も少ないのね。一度村に戻ります」
「わかった」
村に戻り、井戸の水を確認する。
地下水ということもありまだ十分水は残っている。しかし、地下水と言っても山から浸透してきている水のため、このままではいずれここの干上がる可能性もある。
更に掘り下げて、深い地下水を使おうにも、結局は同じことにも成りかねない。
「ジェドルト様。この地図にあるここの湖を調べたいのですが」
「なら、そうしよう」
クレア達と合流し、山間にある湖に来たものの川と同じように、すでにかなり水位が下がっていた。
なにより、この湖は深度が浅く、これを使ってもすぐに枯れてしまう。
雨が降ればとここでも思うものの、日本でも何度かダムが水が干上がるというニュースを見たことがある。
各地ではダムが整備されていた。ここではそんな物はなく、全ては川と井戸でしかない。
例え魔法石を用いたとしても水を作り出すことは出来ない。魔力で作られた水では何の意味もない。
「これなら何処かから引くしかないわね。ソルティアーノ領でまだ干上がってない所は何処ですか?」
「そうなると、この辺だろう」
「ここは、マガーレン領では? 地図にもそう書かれていますし」
「色々とあってだな。今はソルティアーノ領だ」
メルティアたちが水を求めて各地を転々としている間。
イクミは自分の専用の馬車で暑さをしのぎつつ、やることもないので眠りこけている。
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