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学園編
122 お嬢様の意見は・・・
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「イクミ様のお姿が……何処に行かれたのでしょうか?」
ダンスを楽しんだ後、クレアはイクミの姿を探していた。
座っていたはずのソファに誰も姿もなく、慌てて会場を見渡す。
さっきのことも合ってクレアは少しばかり取り乱している。
「イクミ様が……」
「殿下、失礼します」
二人の間に騎士がやってくる。
手には小さな紙が握られており、ライオットに差し出していた。
「イクミ・グセナーレ様より、伝言をお預かりしております」
「そうか。ありがとう」
受け取った半分に折られた紙には、ただ『用が済んだから帰る』それだけが書かれていた。
それに対して不貞腐れるクレアだが、ライオットとメルティアにはやっぱりと言った感じで、ため息を漏らすだけだった。
「それでグセナーレ様は?」
「馬車までお見送りしましたので、ご心配されるようなことはないかと」
「わかった、下がってくれ」
楽しそうに笑顔を振りまくメルティアとともに、フラフラとした足取りでジェドルトが合流する。
手紙を見たメルティアはため息を漏らす。
「イクミ様と踊りたかったのですが……お兄様お付き合いください」
「な、なぜ、私が」
「お兄様は下手すぎます。ですので、憂さ晴らしですわ」
ジェドルトは、クレアに手を掴まれ会場の中へ連れて行かれる。
八つ当たりにしても少しジェドルトを不憫だとは思いつつも、庇い立てをする気にはなれないでいる。
クレアはジェドルトを引っ張り強引にダンスを繰り広げていく。
ライオはああは成りたくないものだと実感し、手の空いたメルティアに手を差し出す。
「私と踊って頂けますか?」
「私がですか?」
「ええ、もちろん。ここで貴方に余計な虫が付こうものなら、叱られるのは私です。クレアの姉君」
そういうライオットのイタズラに、顔を赤くするメルティア。
散々言われ続けていたため、少しだけイラつきすら覚えていた。
「似た者夫婦は困ったものね。けど、主導権はずっとクレアにありそうね」
「それもいいのですが、そうなれるといいですね……」
ライオットの言葉に少しだけ違和感を覚えつつも、ダンスが始まると先ほどの拙いダンスとは違い、メルティアは伸び伸びとしたダンスを繰り出していく。
そのダンスを眼にしたクレアは嫉妬することもなく、兄の不甲斐なさを実感する。
「ふふっ。素敵ですわね」
クレアにとってほんの少し前まで、あんな光景を見るのが怖かった。
自分の抱いた思いを否定し、ライオットから逃げ自分が傷つかないように避けていた。
互いを支え合えている実感があるから……あのダンスを見ても傷つくことはない。
「クレア。そろそろ終わりに……」
「お兄様。どうか、メルティア様のことをよろしくお願いします」
「お前に言われるまでもない」
「何を言っているのですか、お兄様にとってメルティア様は千載一遇……万載一遇のチャンスなのですよ?」
魔法石の研究に没頭するあまり、他者との会話力はほぼゼロ。
話せることと言えば、魔法石のことしか興味すら無い朴念仁。そんな事を喜々として会話をできるのは、メルティアぐらいなものだった。
「それはいいすぎだろう」
「お父様が、本日いらしてくれたのなら…」
「仕方ないだろう。今は領地に戻ったのだから」
ソルティアーノ公爵領では、水不足に悩まされていたため、その対策に追われていた。
公爵が戻った所でできることは少ない。それでも、王都に留まってことの成り行きに委ねるような人物ではない。
「イクミ様でしたら……この危機を打開できるのでは?」
「それは難しいだろう」
いくら魔法があるとは言え、人の持つ魔力には限界がある。
魔法で水を作り出したとして、ただのまやかしでしかなく、使われた魔力を消費すれば消えて無くなる。
それでも、浴場のような物を作るイクミならと、考えるジェドルトだったが規模を考えると到底払える額ではない。
魔法石を用いたとしても、それに見合っただけの金額は考えただけでもゾッとするものだった。
「クレア! あんたの婚約者何とかして!」
「メルティア様、どうされたのですか?」
ライオットと踊っていたはずの、メルティアは二人のダンスに割って入っていた。
耳まで真っ赤にして。
「いえいえ、私はただ、ソルティアーノ公爵領には何時嫁がれるのですか? と、聞いただけではないですか」
二人の間にまだ正式な婚約も、それをいい出したのはジェドルトであって何も決まってすらいない。
「殿下、何時ならよろしいと思いますか?」
「ジェドルト様!? わっ、私には身分不相応です」
「それはともかくとして、一度父上に会ってみないか?」
心が揺れている段階で、挨拶に行こうものなら全てが確定しまいかねない。
クレアの様子からしても、ソルティアーノ公爵もまたこれまで婚約者のいないジェドルトに手を焼いていたのではと不安がよぎっていた。
「そうだわ、イクミ様もご一緒に、ソルティアーノ領に遊びに来て頂ければ……」
クレアにとって、メルティアも大切だったが、領民も大切にする必要がある。
だからこそ、イクミが来てくれることにより何か変えてくれる予感に少しだけ期待をしていた。
その思惑を理解したジェドルトは、クレアの暴走に手を焼くのだった。
ダンスを楽しんだ後、クレアはイクミの姿を探していた。
座っていたはずのソファに誰も姿もなく、慌てて会場を見渡す。
さっきのことも合ってクレアは少しばかり取り乱している。
「イクミ様が……」
「殿下、失礼します」
二人の間に騎士がやってくる。
手には小さな紙が握られており、ライオットに差し出していた。
「イクミ・グセナーレ様より、伝言をお預かりしております」
「そうか。ありがとう」
受け取った半分に折られた紙には、ただ『用が済んだから帰る』それだけが書かれていた。
それに対して不貞腐れるクレアだが、ライオットとメルティアにはやっぱりと言った感じで、ため息を漏らすだけだった。
「それでグセナーレ様は?」
「馬車までお見送りしましたので、ご心配されるようなことはないかと」
「わかった、下がってくれ」
楽しそうに笑顔を振りまくメルティアとともに、フラフラとした足取りでジェドルトが合流する。
手紙を見たメルティアはため息を漏らす。
「イクミ様と踊りたかったのですが……お兄様お付き合いください」
「な、なぜ、私が」
「お兄様は下手すぎます。ですので、憂さ晴らしですわ」
ジェドルトは、クレアに手を掴まれ会場の中へ連れて行かれる。
八つ当たりにしても少しジェドルトを不憫だとは思いつつも、庇い立てをする気にはなれないでいる。
クレアはジェドルトを引っ張り強引にダンスを繰り広げていく。
ライオはああは成りたくないものだと実感し、手の空いたメルティアに手を差し出す。
「私と踊って頂けますか?」
「私がですか?」
「ええ、もちろん。ここで貴方に余計な虫が付こうものなら、叱られるのは私です。クレアの姉君」
そういうライオットのイタズラに、顔を赤くするメルティア。
散々言われ続けていたため、少しだけイラつきすら覚えていた。
「似た者夫婦は困ったものね。けど、主導権はずっとクレアにありそうね」
「それもいいのですが、そうなれるといいですね……」
ライオットの言葉に少しだけ違和感を覚えつつも、ダンスが始まると先ほどの拙いダンスとは違い、メルティアは伸び伸びとしたダンスを繰り出していく。
そのダンスを眼にしたクレアは嫉妬することもなく、兄の不甲斐なさを実感する。
「ふふっ。素敵ですわね」
クレアにとってほんの少し前まで、あんな光景を見るのが怖かった。
自分の抱いた思いを否定し、ライオットから逃げ自分が傷つかないように避けていた。
互いを支え合えている実感があるから……あのダンスを見ても傷つくことはない。
「クレア。そろそろ終わりに……」
「お兄様。どうか、メルティア様のことをよろしくお願いします」
「お前に言われるまでもない」
「何を言っているのですか、お兄様にとってメルティア様は千載一遇……万載一遇のチャンスなのですよ?」
魔法石の研究に没頭するあまり、他者との会話力はほぼゼロ。
話せることと言えば、魔法石のことしか興味すら無い朴念仁。そんな事を喜々として会話をできるのは、メルティアぐらいなものだった。
「それはいいすぎだろう」
「お父様が、本日いらしてくれたのなら…」
「仕方ないだろう。今は領地に戻ったのだから」
ソルティアーノ公爵領では、水不足に悩まされていたため、その対策に追われていた。
公爵が戻った所でできることは少ない。それでも、王都に留まってことの成り行きに委ねるような人物ではない。
「イクミ様でしたら……この危機を打開できるのでは?」
「それは難しいだろう」
いくら魔法があるとは言え、人の持つ魔力には限界がある。
魔法で水を作り出したとして、ただのまやかしでしかなく、使われた魔力を消費すれば消えて無くなる。
それでも、浴場のような物を作るイクミならと、考えるジェドルトだったが規模を考えると到底払える額ではない。
魔法石を用いたとしても、それに見合っただけの金額は考えただけでもゾッとするものだった。
「クレア! あんたの婚約者何とかして!」
「メルティア様、どうされたのですか?」
ライオットと踊っていたはずの、メルティアは二人のダンスに割って入っていた。
耳まで真っ赤にして。
「いえいえ、私はただ、ソルティアーノ公爵領には何時嫁がれるのですか? と、聞いただけではないですか」
二人の間にまだ正式な婚約も、それをいい出したのはジェドルトであって何も決まってすらいない。
「殿下、何時ならよろしいと思いますか?」
「ジェドルト様!? わっ、私には身分不相応です」
「それはともかくとして、一度父上に会ってみないか?」
心が揺れている段階で、挨拶に行こうものなら全てが確定しまいかねない。
クレアの様子からしても、ソルティアーノ公爵もまたこれまで婚約者のいないジェドルトに手を焼いていたのではと不安がよぎっていた。
「そうだわ、イクミ様もご一緒に、ソルティアーノ領に遊びに来て頂ければ……」
クレアにとって、メルティアも大切だったが、領民も大切にする必要がある。
だからこそ、イクミが来てくれることにより何か変えてくれる予感に少しだけ期待をしていた。
その思惑を理解したジェドルトは、クレアの暴走に手を焼くのだった。
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