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学園編

112 お嬢様またですか?

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 メルは私の我儘に付き合い、茶化すこともなく誠意ある対応をしてくれた。これまでの言動もあったので、彼女を信用するべきか迷っていたけど……多分大丈夫よね。
 二人は気恥ずかしそうに握手を交わしていた。

「メル。貴方には聞きたいことと、お願いしたいことがあるの」

「内容にもよるけど……その前に私から一つ質問してもいいかな?」

「なにかしら?」

 私も知らないことは多いけど、この世界をある程度知っているはずの二人からすれば、私という存在はきっと不思議なのでしょうね。

「私のフルネームは覚えているの?」

 思いがけないその言葉に、視線をゆっくりと逸しルビーへと向けるが目を閉じたまま私と目を合わそうともしない。

 隣までやってきたメルは、机に手を置いてルビーとの視界を遮る。
 頭をフル回転させ、誰かがメルの姓を言っていないかを探るが……一向にそれらしい言葉が出てこない。

「私は、イクミ・グセナーレ様とはお友達になれていると思っていたのですが? 考え違いですか?」

「そ、そんなことはないよ。メルとは、ほら、愛称で呼び合う中なのよ? 友達に決まっているじゃないの」

「でしたら、私の姓も当然覚えて……もしかして、クレアの名前も覚えていないとか言わないですよね?」

 ここに来てさらにハードルを上げてきた。
 知り合って間もないメルに比べて、クレアとはそれなりに長い時間を過ごしている。そのため、何度も耳にしているから自然と覚えている。
 こんな事を言ってくるのは、クレアは余計なことを言っていない?

「当然知っているわよ」

 クレアは笑顔をほころばせているのだが、そんな当然のことなのに嬉しくされても少し困るよ。

「クレアローズ・ソルティアーノンよ」

「ん? クレアが言っていたけど、本当だったのね。しかも、一緒にいる友達のことを普通間違えるとかあり得るの?」

「で、ですか、かなり惜しい所まで来ておりますので。残念ではありますが……」

「ソルティアーノ様。大変申し訳ございません」

 クレアは、ルビーの元へとかけよりいろいろと言って気を使わせてしまったが……イクミ様のことですからってどういう意味なのよ!

「私の名前は、メルティア・レイネフォンよ。そして、クレアローズ・ソルティアーノ。最後にンを付けていなければ、あの子に寂しい思いをさせずに済んだだろうに」

「ごめん、二人共。名前を覚えるのが苦手で……今度からは間違えないようにするから」

 私って思ってた以上に成長していないのだろうか?
 そもそも、なんで人の名前だけこんなにも覚えづらくなっているの?
 前世ではそんなことはなかったように思う。

 それなのに……?

 私は二人の名前を覚えていないということで、罰として色々なポーズをさせられていた。しかし、これの何がそんなに面白いのか……私としてはただ恥ずかしいとしか思えない。
 あ、恥ずかしいから罰なのか? というか、なんでルビーも一緒になって喜んでいるの?

「あーあ。スマホがあれば、この場面を撮れるのに」

「そうですわね。イクミ様の可愛らしさを残せればよいのですが」

 私の罰というよりも、ただ二人が見たいだけだったのね。
 メイド達といい、私の決定的な問題点であるこの身長よね。きっと皆には、私は小学生ぐらいにしか見えていないのかもしれない。

 身長があれから五年の月日で、ほんの少ししか伸びないとは思わなかったわ。
 クレアまでとは言わないけど、並んで歩いても違和感がない程度には欲しかった。

「そろそろ、私の話を進めてもいい?」

「ごめんごめん。私に聞きたいことだっけ?」

「そう、子爵令嬢である貴方が、なんで女将さんの所で働いているの?」

 働いている事自体は悪いことはない。ただ、貴族階級のあるこの世界でそんな事は今まで聞いたことはない。
 屋敷の近くにあったプルートの町では貴族を見たことはなかったけど。オセロを作るためにラドレンさんの所に始めて行った日は、私を見るなりかなり恐縮されていた。

 私は貴族ではないけど、見た目からそう判断されただけであの対応なのだから、いくら女将さんとは言えよく雇う気になったものよね。

「そのことね」

 メルはそういうと、クレアはソファーへと座り小さくため息を漏らしている。
 これもきっとゲームの内容が関係しているというわけね。

「レイネフォン子爵、私の父親ね。あの人は、政略結婚のために子供を作ったのよ。その一人が私なの」

「メルティア様……」

「私には、腹違いの妹がいるのだけどね。私が身分を隠して働いていたのは、その子を守るため、でもあるの」

 先程までとは打って変わり、陰りを見せる。腕を掴み、何かに耐えるかのように話してくれた。
 妹の名前はルルーミラ・レイネフォン。まだ九歳。
 メルと同様に、政略結婚のために生まれたきたものの、貴族教養に対して覚えの悪さが目立ち家族から見捨てられた。

 以来雑用を押し付けられ、与えられる食事もメルが隠れて食べさせていたらしい。
 使用人たちが居たはずなのに……そこまでのことをしないといけないということね。
 その仕打ちに耐えかねたメルは、ルルーミラを助ける代わりに学園では必ず侯爵家以上の婚約者を見つけると言ったメルは、当然相手にされることはなかった。

 反抗をしてしまったことにより、来年を待たず二人は無理やり王都へと連れてこられた。
 無事来年まで生きていたのなら、学園には通わせると言うが望みはないに等しい。
 お金もなく、与えられたのは部屋だけであり、おそらくメルも見限られている可能性がある。

 何も持たされず、子爵令嬢と言っても証拠はない。完全に八方塞がりの状態でも、妹のために必死で今日まで生きてきたのね。
 メルの話をメモしていたが、私は怒りのあまりその紙を握りつぶした。

「今は、その妹さんはどうしているの?」

「ルルは診療所にいるから安心して。二人共ごめんね。本当のことを言えば、下心があって二人に近づいたの。正確には、イクミちゃんに期待していた」

 私に?
 女将さんの所に居たのだから、私の話を聞いていたのかもしれないわね。
 それで偶然、居合わせていたクレアはゲームの登場人物だった。

「クレアと私が、メニューを見て居た時の会話で同郷だと思ったわけね」

「それもあるけど……イクミちゃんの名前だからよ」

「私の名前? グセナーレ家のことを知っているの?」

「違うわ。イクミなんて名前はこの世界では珍しく。漢字で見ると、日本人である可能性が高いと思っていたの」

 言われてみれば……あの時私が名乗ったから、そのまま名前を変えられることはなかった?
 ただの気まぐれかもしれないが、メルにとっては希望だったのかもしれない。
 クレアが私のことを日本人かもしれなかったから、あやとりを見せてきたけど……こういうことだったのね。

「なるほどね。だからクレアも……」

「それもありますが、イクミ様は学園長に呼ばれました。学園の生徒であれば、そのようなことは名誉なはずなのに、良いことはないといいました。それで余計に……」

 学園長に呼び出されるのは、悪いことよりもいいことが当たり前?
 そういったところは、日本的ではないということね。知らず知らずに私はボロを出していたということになる。
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