上 下
96 / 222
学園編

96 お嬢様と異質なウェイトレス

しおりを挟む
 あの人達は、料理を作っているときが本当に楽しそうにしているのだけど、今の屋敷では人は少ないし作りがいがないとかぼやいていたしね。
 だったらどれだけ作れば満足するのか知りたい所だよ。

「ありがとうね。皆にも伝えておくよ。でも、今度からはお金はちゃんと払うからね」

「ふふふ。御冗談を……それでは、私は奥の方に戻ります。ごゆっくり」

 ということは、今日の料理も無料提供するつもりなの?
 王都にまで来たというのに、流石にアレを継続させるわけにはいかないよね。

「イクミ様。奴隷達がここを利用した場合。少額を皿の下に隠すというのはいかがでしょう?」

「今更そんな事できるわけ無いでしょ。奴隷たちがここを利用する場合は、名札を外すように伝えておいて」

「はあ。せっかく驚かせようと思っていたのに……まさか、イクミ様のお知り合いだったなんて」

「驚きはしたよ。私だって久しぶりに女将さんが作った料理を食べられるのだから……定番になっているのはやっぱりとんかつとフライだよねー」

 しかし、開いたメニューには私の知らない、正確には知っているのだけどこの世界では見たこともない物が書かれていた。 

 アメリカンドッグ……この世界でアメリカンってなんなの?
 ドーナツ? 原材料は似てる……のか?

「うどんすらあるのだけど……ラーメンまで?」

「こちらの料理は、イクミ様がお教えになったのでは?」

 私にそこまでの料理知識なんて無い。とんかつは、よく行っていたお店の大将と仲が良かったから、話しながら作業を見ていたから知っているだけ。
 フライだって似たような手順だから何となくできただけで、炊飯器を持たない私が知るわけ無いでしょ!

「ご注文決まりましたか?」

「ラーメンって本当にあるの?」

「はい、ありますよ。鶏ガラで出汁をとって、調味料で味を整えたものです」

 クレアが驚いたのも分からなくない。
 まさかそんな本格的な物が作られていたとは……女将さん恐るべき創作力ね。

「ですけど、醤油があれば一番いいのですけどね」

「「醤油!?」」

「もしかしてお二人は……醤油といえば?」

「卵かけご飯とかかしら?」

「ああ、TKGですね」

 ティーケージィー?
 またよく分からない単語が出てきたのだけど……どういうことなの?
 このウェイトレスは、一体何を言っているのかしら?

「え? えっと、私は、お醤油? お刺身でしょうか?」

 刺し身も良いねー。冷酒なんかがあれば最高なんだけど……この世界だと生で食べる習慣というか、魚は港町に行かないと食べられないのよね。
 今の状態で、お酒を飲むことは絶対に無理ね。ルビーが居るし、この世界も飲酒は二十歳なのよね。殆どはぶどう酒なんだけど、パーティーとかで誰だけ我慢をしたことか……

「なるほど……では、エンドレスワルツはご存知ですか?」

「え、なに? え?」

「あなたといつまでも……」

「申し遅れました、私はメルティア・レイネフォン。レイネフォン子爵家の四女にございます。よろしくお願いします、クレアローズ・ソルティアーノ様」

 この人はクレアの事を知っている?
 そんなことよりも、貴族の令嬢がウェイトレスを何でやっているの?

「クレアの知り合い?」

 クレアは私から視線をそらし、否定も肯定もしない。
 知っている程度なのかもしれないわね。子爵令嬢なのだから、貴族感での何かしらの繋がりがあるのだと思う。

 例えクレアがよく思っていなくても、女将さんにはお世話になっているので、彼女に対して私がどうこう言うこともできない。
 危害を加えてくるのなら話は別だけど……

「私は、イクミ・グセナーレ。よろしくね」

「なるほど、貴方様でしたか、ラードとフライの発案お見事でした」

 女将さんから私の事を聞いたのだろうけど、醤油のことと言いこの人もクレアと同じように、この世界へとやってきた人なのかもしれない。

 それはともかく、彼女が自己紹介をしてからというもの、クレアの表情が暗く顔色も悪いようにも思える。さっきまであんなにも楽しそうにしていたと言うのに。
 早めにこの人には退散を願うしかないわね。

「クレア、大丈夫? 気分でも悪くなった?」

「あ、いえ。なんでもありません」

「ソルティアーノ様を呼び捨てとは、大胆な方ですね」

「クレアとは友達だからね。貴方だって、子爵家のご令嬢なのでしょ? そんな人がなんでここで働いているの?」

「ああ、それはですね。私来年から学園に通うのですが、卒業したら家を出る予定なのです。元々、料理は好きでしたからここは気に入ってるのです」

 結構すごいことを言っているにも関わらず、彼女はそんな事を気にもとめずけらけらと笑ってさえいる。
 メニューへと視線を戻し、注文を取りに来ているのだからさっさと決めてしまおう。
 テーブルを叩いても、クレアは私を見ようともせず目を固く閉じている。

「クレア! 本当に大丈夫?」

「申し訳ございません。イクミ様」

 私が大きな声を上げると、ようやく我に返ったクレアは視線が落ち着かない様子で、まるで何かに怯えているようにも思える。
 手を差し伸べると、私の手は振り払われ、店から飛び出していった。

「クレアローズ様!」

「クレア!」

 一体彼女と何があったのだろう……
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

処理中です...