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学園編

94 お嬢様と行きつけのお店

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 最近、何の違和感を感じないほどに見慣れてきているわね……朝食を取りに食堂の扉を開くと、クレアが優雅に本を読み、トワロが給仕をしている。

 いつの間にか私のテーブルの窓側に、クレア用のテーブルが設けられ、それだけで飽き足らないのか壁には本棚が用意されている。収められている数々の本は私が好むようなものはない。

 私の執事ことトワロはクレアが気に入っているのか、私と接しているときよりもかなり丁寧な気がする。
 完璧なご令嬢と、私なんかを比べられても差が出るのは当然のことだとは思う。

 私に気がつくと、栞を挟みテーブルに置いた本をトワロが本棚へと戻している。
 私の場合本はほぼ自分で戻しているのだが……この差は一体何なの?

「おはようございます、イクミ様。本日のご予定は覚えていられますか?」

「おはよう、クレア」

 開口一番がそれって、私って信用されていないの?
 そんな満面の笑みをしなくても……ちゃんと覚えているよ。

「分かっているよ。学園が終ったら何処かに出かけるのでしょ?」

「覚えていてくれたのですね」

 いや、昨日の今日で覚えていない方がどうかしているでしょ。
 クレアが私に対しての信用度がかなり低いってことを理解したわよ。

 私が何かやらかしたはずもないのに……クレアとの事を思い出しても、当てはまるような出来事はないと思うのだけど?
 それとも、見た目のせいで私は小さな子供だと勘違いされているのではないのかしら?

 十分考えられることだ。だが、実年齢は同学年であるが、前世年齢は私の方が倍だ。
 やはりこの見た目が問題と考えるのが自然なのかもしれない……と、思いたいところよね。

「お嬢様。全く……またですか。失礼します」

 額に軽い衝撃が走り、現状がどうなっているのかを思い知らされる。
 物思いにふけっていた私は、例のごとく用意されていた料理を弄くり回していた。
 周囲の視線に気がついたことで、自分が置かれている状況を理解する。

「ご、ごめんなさい」

「昨日は普段とは違い、お休みになられていたというのに、どうかしましたか?」

 そこで敢えて普段とは違いって、それだといつもの私が不真面目に聞こえてくるじゃない。
 今の状態でそんな事も言えるはずもない。

「少し……悩み事かな?」

 クレアは持っていたコップを落とし、目を見開いてこっちを見ている。
 ルビーの視線は何処を見ているのかわからないけど、手の甲を唇に当てて表情からは怒っているようにも見える。

 この二人は、あの一件以来こういう余計な一言で変貌することがある。
 どう考えても過剰反応でしかない……

「対したことではないわ。私とクレアは同い年なのに、見た目が何でこうも違うのかなってね」

「そういうことでしたか、びっくりさせないでください」

「お嬢様は、今のままでもお可愛いので何も心配されるようなことはございません」

 私としては結構重要な問題だとは思うのだけど。
 学園での私を、クレアはどう見えているのかしらね。

 クレアは学園ではいつも隣りにいるから、年の離れた妹とも言えるほど……少し気に入らないのが、私と話すときに膝に手を置いて目線を合わせてくる。
 本人は当たり前のようにしているけど、お子様も良いところなのよ?

 クレア曰く、見下さないようにとの配慮なんだろうけど。
 私は知っているのよ。時折差し出そうとする、あの右手は私の頭を撫でるつもりなのを……
 実際やられたことはないのだけど、多分クレアもそういうことだと思っているに違いない。

「せめて後二十センチは伸びて欲しいわね」

「そんな……イクミ様、そのようなことは仰らないでください」

 身長が伸びることすら許可されないの?
 クレアの前世ではきっと妹がいたのかもしれない。だから、丁度いい代用として接してくれているのかもしれないわね。
 本当の事を言ってくれればある程度の譲歩はできるが……可愛いからという理由なら却下だ。

「イクミ殿。そろそろお時間です」

「わかったわ。今行くよ」

 ルキアに護衛され、クロは先行偵察のため先の校門にたどり着いている。
 この距離で先行の必要性がわからない。だって、クロはこっちに向かって手を振っているし……

「行ってらっしゃいませお嬢様。ソルティアーノ様、お嬢様が何かしでかさないように、くれぐれもよろしくお願いします」

「はい、かしこまりました」

 ルビーの言葉に、クレアはまるでメイドのように頭を下げている。
 あのね、その対応はおかしくないの?
 しかも本人を前にしてやるようなことじゃないでしょ……

 その日、学園でのクレアは一日中ニコニコと上機嫌だった。
 何がそこまで嬉しいのかわからないけど、悪い気分ではないわね。

「それで、何処に行くの?」

 放課後になり、校門ではクロとルキアが待っていた。
 馬車は場所によっては使えないので、置いてきているみたい。

 私が王都を歩くのってこれで二度目?
 アレはあるくというよりも、この二人に拉致されたようなものだったわね。

 決闘のことも合って、未だに私一人で好き勝手に出歩くなんて、絶対に許可が降りそうにもないわね。

「少し前に新しいお店が開いたのですよ。そこで懐かしい物を売っておりましたので、ご一緒ですと楽しめるのではないかと思いました」

「へー、それは楽しみだね。所でその懐かしいってなんなの?」

「それは見てからのお楽しみですわ」

 さすがに、王都の活気は他の街とは比べようがないわね。
 これだけの人口比率からして、プルートの街は比較対象にもならないわね。

 王都だとしても、子供たちは働いている。
 あれから見ていないけど、あの子達も今頃何をやっているのかしら?

 王都の屋敷に移り住んでからというもの、もともと居た奴隷の子供たちは郊外にある宿舎にいる。
 子供とは言っても、私よりも大きくなっているし、何らかの仕事を任されているのかもしれないわね。

「食堂? クレア、ここ食堂だよ?」

「はい。ですが、それだけじゃないのですよ。入りましょう」

 クレアが私を連れて行きたいというのは本当にここであっているのかしら?
 中には多くの人が、夕方前だと言うのに賑わっていた。

「あら、残念ですね。席が空いていません」

 待合の席も既に埋まっている。
 それだと言うのに、中央に置かれているテーブルだけが綺麗に整えられ、誰も座る様子もなかった。

「あれって……」
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