上 下
91 / 222
学園編

91 お嬢様の決闘の果てに・・・

しおりを挟む
 対戦相手はバナンの大きな体であれば、対等とも言えるけど、ルキアとクロの二人と比べると腕の太さや体格は大きく変わってくる。
 ルキアが戦っている所を見たことはなかったけど、クロは獣人ということもあってか、あの体でもラズ兄さんと互角に戦っているから大丈夫だとは思う。

 それにルキアは、あのバナンよりも大きな剣を振り回しているのだからきっと大丈夫よね?
 私が負った怪我のように、学園長の魔法で回復ができるとはいえ怪我はして欲しくはない。

「ご心配ですか?」

 ルビーは私の肩に手を置き、胸元の掴んでいた手を解いている。
 無自覚にも力一杯握りしめていたのを実感する。
 息を漏らすと、込めていた力が抜ける。

「少しね。向かい合わせになると、ああも体格に差が出るとは思ってもいなかったからね」

「そういうことですか。あの程度の相手なら大丈夫です」

「そうだと良いのだけどね。相手が人だからかな……あまりいい気分じゃないね」

 相手の強さが分からない以上、こちらとしては見た目で判断をするしかない。
 観客席に居る二人を見ても不安というよりも、怒っているようにしか見えない。
 怪我がなければ良いのだけど、心配よね。

「あの人達も冒険者なのかしら?」

「それはどうでしょうか」

 ルビーの様子は厳しいものに変わっている。つまり、そういう人ではない可能性があるということね。
 マガーレンはお金の話をしていた所から考えて、詰まる所そういった稼業をしていても不思議でない。

「お嬢様は、私の後ろで控えてください」

「でも……」

「ルキアが制作して魔法石がありますので、こちらに危害を加えることはできません」

 ルビーがポケットから小さな石を取り出している。あの私の部屋だけに使われていたものね。
 なるほど、準備が良いわね。

 私に対して攻撃する事も想定しているということか……ルビーは、私の一歩前へと進みその後ろから闘技場を見ていた。

「それでは、準備はよろしいですか?」

 学園長の言葉に、六人が頷く。
 厭味ったらしい顔をしつつ、各々が剣を抜いて構える。
 お願いだから、怪我だけはしないでね。

「両者とも開始してください」

 学園長が、上げていた手を下げると同時に大きな音が周囲にこだまする。
 その大きな音に対して、私は目を閉じてしまう。

 目を開けたものの、場内には誰も立っていない。
 何がどうなっているのかがわからない。
 学園長は両手を上げている。

 一体何が起こったと言うの?
 バナンたちは何処に行ってしまったのだろうか?

「それまで! 勝者、イクミ・グセナーレ様」

 学園長はそう言って、私の方を見ている。
 ルビーは澄ましたままで、観客の誰もが静まり返っている。

「ルビー、どうなっているの? バナンは? クロやルキアは何処に行ったの?」

「何も問題はありません。三人とも無傷ですよ」

「だって……」

 ルビーの指差した方向には、異様な光景に包まれていた。

「おい、今何が起こったんだ?」

「いきなり三人共吹き飛ばされていたわよ」

「あの忌み子が連れてきたのは、本当にバナンなのか?」

 壁には激突した跡が残っていて、地面にはあの大男たちが転がっている。
 そして、マガーレンに対してあの三人は剣を突きつけていた。

 私は慌ててその場所へと走り出した。
 ルビーが言っていた「殺すな」という言葉が頭をよぎる。
 それだけはダメ、殺さないにしても傷つけることをしてはダメ。

「今後、お嬢に姿を見せるな」

「イクミ殿の前に現れるというのなら、殺します」

「ルキア。それ、私のセリフ取らないでよ。イクミ様に近づいたら私達が相手になります」

 マガーレンは三人から向けられた剣に怯えているようだった。

「止めなさい! これは一体どういうつもり?」

 私が間に立ちふさがり、三人はようやく剣を収めていた。
 よりにもよって、剣を向けるなんて何を考えているのよ。

「申し訳ございません。だ、大丈夫でしたか?」

「ふざけるなっ!」

 マガーレンから突き飛ばされるが、ルキアの手によって倒れることはなかった。
 けれど、マガーレンは一人闘技場から出ていき、会場にはどよめきが立っている。
 言葉の端々からは、S級やエルフという単語が聞こえてくる。

「何がどうなったというの?」

「お嬢。さっきのようなことはしないでくれよ。やり過ぎたのは謝るが、ああいう手合にはこれぐれぇの脅しが必要だったんだ」

 脅しって……ああ、そうか。バナン達がいることで、私に対しての仕返しをさせないようにしていたと?
 そういえば、吹き飛ばされた人達はどうなったの?

「生きてる?」

 壁の激突具合からして、これで生きていると言えるのだろうか?
 色々とやばいことになっているみたいだけど。

「イクミ殿。そのような汚物をまじまじと見るものではありません。さ、お屋敷に戻りましょう」

「そうですよ。私のダンジョンでの活躍を聞いてくださいよ」

 汚物って、今はっきりとそう言ったわね。
 ルビーが言っていたことはこういうことなの?

 大体あの一瞬の間に何がどうしてこうなっているのか……誰も説明はしてくれないよね。
 クロとラズ兄さんのときも何も見えなかったし、聞いた所で理解できそうにもないわね。

「グセナーレ様。この者達のことを気に病む必要はありません」

「それはどういうことですか?」

「それにしても、マガーレンも地に落ちましたね。平たく言えばこの者達は犯罪者ですので、この後にも相応の処罰が待っていることでしょう」

 それ以上やったら本当に死んでしまうと思うけど……犯罪者とわかっていたにも拘らず、決闘に参加させていたと言うの?
 そんなことってあり得るのかしら? 

 いや、学園長は何かを知っていながらも、この人たちを参加させた。
 こうなることが分かっていて、利用した?

「さ、お嬢様。そろそろ戻りましょう」

「クレア達にあい……さつ」

 クレアが居た所に視線を持っていくと、二人してお金を勘定している様子が目に入ってきていた。

「どうやら、お嬢様に掛けていたようですね」

「学生の決闘が……賭け事?」

「特に禁止されていることではありませんから……私の方からは何とも」

 学園長はそういうが、本当にそれで良いのか?
 というか、ライオはともかくとして、クレア!
 何時からそんな悪い子になっているのよ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

解放の砦

さいはて旅行社
ファンタジー
その世界は人知れず、緩慢に滅びの道を進んでいた。 そこは剣と魔法のファンタジー世界。 転生して、リアムがものごころがついて喜んだのも、つかの間。 残念ながら、派手な攻撃魔法を使えるわけではなかった。 その上、待っていたのは貧しい男爵家の三男として生まれ、しかも魔物討伐に、事務作業、家事に、弟の世話と、忙しく地味に辛い日々。 けれど、この世界にはリアムに愛情を注いでくれる母親がいた。 それだけでリアムは幸せだった。 前世では家族にも仕事にも恵まれなかったから。 リアムは冒険者である最愛の母親を支えるために手伝いを頑張っていた。 だが、リアムが八歳のある日、母親が魔物に殺されてしまう。 母が亡くなってからも、クズ親父と二人のクソ兄貴たちとは冷えた家族関係のまま、リアムの冒険者生活は続いていく。 いつか和解をすることになるのか、はたまた。 B級冒険者の母親がやっていた砦の管理者を継いで、書類作成確認等の事務処理作業に精を出す。砦の守護獣である気分屋のクロとツンツンなシロ様にかまわれながら、A級、B級冒険者のスーパーアスリート超の身体能力を持っている脳筋たちに囲まれる。 平穏無事を祈りながらも、砦ではなぜか事件が起こり、騒がしい日々が続く。 前世で死んだ後に、 「キミは世界から排除されて可哀想だったから、次の人生ではオマケをあげよう」 そんな神様の言葉を、ほんの少しは楽しみにしていたのに。。。 オマケって何だったんだーーーっ、と神に問いたくなる境遇がリアムにはさらに待っていた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

カバディ男の異世界転生。狩られたい奴はかかってこい!!

Gai
ファンタジー
幼い子供を暴走車から守ったスポーツ男子、一条大河。 鍛えた体も、暴走車には勝てず、亡くなってしまったが……運良く、第二の人生を異世界で迎えた。 伯爵家という貴族の家に生まれたことで、何不自由なく過ごす中……成長する過程で、一つ問題が生まれた。 伯爵家にとっては重大な問題だが、一条大河改め、クランド・ライガーにとって、それは非常に有難い問題だった。 その問題故に他者から嘗められることも多いが……そういった輩を、クランドは遠慮なく狩っていく。 「狩るぜ……カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ!!!!」

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

処理中です...