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学園編
91 お嬢様の決闘の果てに・・・
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対戦相手はバナンの大きな体であれば、対等とも言えるけど、ルキアとクロの二人と比べると腕の太さや体格は大きく変わってくる。
ルキアが戦っている所を見たことはなかったけど、クロは獣人ということもあってか、あの体でもラズ兄さんと互角に戦っているから大丈夫だとは思う。
それにルキアは、あのバナンよりも大きな剣を振り回しているのだからきっと大丈夫よね?
私が負った怪我のように、学園長の魔法で回復ができるとはいえ怪我はして欲しくはない。
「ご心配ですか?」
ルビーは私の肩に手を置き、胸元の掴んでいた手を解いている。
無自覚にも力一杯握りしめていたのを実感する。
息を漏らすと、込めていた力が抜ける。
「少しね。向かい合わせになると、ああも体格に差が出るとは思ってもいなかったからね」
「そういうことですか。あの程度の相手なら大丈夫です」
「そうだと良いのだけどね。相手が人だからかな……あまりいい気分じゃないね」
相手の強さが分からない以上、こちらとしては見た目で判断をするしかない。
観客席に居る二人を見ても不安というよりも、怒っているようにしか見えない。
怪我がなければ良いのだけど、心配よね。
「あの人達も冒険者なのかしら?」
「それはどうでしょうか」
ルビーの様子は厳しいものに変わっている。つまり、そういう人ではない可能性があるということね。
マガーレンはお金の話をしていた所から考えて、詰まる所そういった稼業をしていても不思議でない。
「お嬢様は、私の後ろで控えてください」
「でも……」
「ルキアが制作して魔法石がありますので、こちらに危害を加えることはできません」
ルビーがポケットから小さな石を取り出している。あの私の部屋だけに使われていたものね。
なるほど、準備が良いわね。
私に対して攻撃する事も想定しているということか……ルビーは、私の一歩前へと進みその後ろから闘技場を見ていた。
「それでは、準備はよろしいですか?」
学園長の言葉に、六人が頷く。
厭味ったらしい顔をしつつ、各々が剣を抜いて構える。
お願いだから、怪我だけはしないでね。
「両者とも開始してください」
学園長が、上げていた手を下げると同時に大きな音が周囲にこだまする。
その大きな音に対して、私は目を閉じてしまう。
目を開けたものの、場内には誰も立っていない。
何がどうなっているのかがわからない。
学園長は両手を上げている。
一体何が起こったと言うの?
バナンたちは何処に行ってしまったのだろうか?
「それまで! 勝者、イクミ・グセナーレ様」
学園長はそう言って、私の方を見ている。
ルビーは澄ましたままで、観客の誰もが静まり返っている。
「ルビー、どうなっているの? バナンは? クロやルキアは何処に行ったの?」
「何も問題はありません。三人とも無傷ですよ」
「だって……」
ルビーの指差した方向には、異様な光景に包まれていた。
「おい、今何が起こったんだ?」
「いきなり三人共吹き飛ばされていたわよ」
「あの忌み子が連れてきたのは、本当にバナンなのか?」
壁には激突した跡が残っていて、地面にはあの大男たちが転がっている。
そして、マガーレンに対してあの三人は剣を突きつけていた。
私は慌ててその場所へと走り出した。
ルビーが言っていた「殺すな」という言葉が頭をよぎる。
それだけはダメ、殺さないにしても傷つけることをしてはダメ。
「今後、お嬢に姿を見せるな」
「イクミ殿の前に現れるというのなら、殺します」
「ルキア。それ、私のセリフ取らないでよ。イクミ様に近づいたら私達が相手になります」
マガーレンは三人から向けられた剣に怯えているようだった。
「止めなさい! これは一体どういうつもり?」
私が間に立ちふさがり、三人はようやく剣を収めていた。
よりにもよって、剣を向けるなんて何を考えているのよ。
「申し訳ございません。だ、大丈夫でしたか?」
「ふざけるなっ!」
マガーレンから突き飛ばされるが、ルキアの手によって倒れることはなかった。
けれど、マガーレンは一人闘技場から出ていき、会場にはどよめきが立っている。
言葉の端々からは、S級やエルフという単語が聞こえてくる。
「何がどうなったというの?」
「お嬢。さっきのようなことはしないでくれよ。やり過ぎたのは謝るが、ああいう手合にはこれぐれぇの脅しが必要だったんだ」
脅しって……ああ、そうか。バナン達がいることで、私に対しての仕返しをさせないようにしていたと?
そういえば、吹き飛ばされた人達はどうなったの?
「生きてる?」
壁の激突具合からして、これで生きていると言えるのだろうか?
色々とやばいことになっているみたいだけど。
「イクミ殿。そのような汚物をまじまじと見るものではありません。さ、お屋敷に戻りましょう」
「そうですよ。私のダンジョンでの活躍を聞いてくださいよ」
汚物って、今はっきりとそう言ったわね。
ルビーが言っていたことはこういうことなの?
大体あの一瞬の間に何がどうしてこうなっているのか……誰も説明はしてくれないよね。
クロとラズ兄さんのときも何も見えなかったし、聞いた所で理解できそうにもないわね。
「グセナーレ様。この者達のことを気に病む必要はありません」
「それはどういうことですか?」
「それにしても、マガーレンも地に落ちましたね。平たく言えばこの者達は犯罪者ですので、この後にも相応の処罰が待っていることでしょう」
それ以上やったら本当に死んでしまうと思うけど……犯罪者とわかっていたにも拘らず、決闘に参加させていたと言うの?
そんなことってあり得るのかしら?
いや、学園長は何かを知っていながらも、この人たちを参加させた。
こうなることが分かっていて、利用した?
「さ、お嬢様。そろそろ戻りましょう」
「クレア達にあい……さつ」
クレアが居た所に視線を持っていくと、二人してお金を勘定している様子が目に入ってきていた。
「どうやら、お嬢様に掛けていたようですね」
「学生の決闘が……賭け事?」
「特に禁止されていることではありませんから……私の方からは何とも」
学園長はそういうが、本当にそれで良いのか?
というか、ライオはともかくとして、クレア!
何時からそんな悪い子になっているのよ!
ルキアが戦っている所を見たことはなかったけど、クロは獣人ということもあってか、あの体でもラズ兄さんと互角に戦っているから大丈夫だとは思う。
それにルキアは、あのバナンよりも大きな剣を振り回しているのだからきっと大丈夫よね?
私が負った怪我のように、学園長の魔法で回復ができるとはいえ怪我はして欲しくはない。
「ご心配ですか?」
ルビーは私の肩に手を置き、胸元の掴んでいた手を解いている。
無自覚にも力一杯握りしめていたのを実感する。
息を漏らすと、込めていた力が抜ける。
「少しね。向かい合わせになると、ああも体格に差が出るとは思ってもいなかったからね」
「そういうことですか。あの程度の相手なら大丈夫です」
「そうだと良いのだけどね。相手が人だからかな……あまりいい気分じゃないね」
相手の強さが分からない以上、こちらとしては見た目で判断をするしかない。
観客席に居る二人を見ても不安というよりも、怒っているようにしか見えない。
怪我がなければ良いのだけど、心配よね。
「あの人達も冒険者なのかしら?」
「それはどうでしょうか」
ルビーの様子は厳しいものに変わっている。つまり、そういう人ではない可能性があるということね。
マガーレンはお金の話をしていた所から考えて、詰まる所そういった稼業をしていても不思議でない。
「お嬢様は、私の後ろで控えてください」
「でも……」
「ルキアが制作して魔法石がありますので、こちらに危害を加えることはできません」
ルビーがポケットから小さな石を取り出している。あの私の部屋だけに使われていたものね。
なるほど、準備が良いわね。
私に対して攻撃する事も想定しているということか……ルビーは、私の一歩前へと進みその後ろから闘技場を見ていた。
「それでは、準備はよろしいですか?」
学園長の言葉に、六人が頷く。
厭味ったらしい顔をしつつ、各々が剣を抜いて構える。
お願いだから、怪我だけはしないでね。
「両者とも開始してください」
学園長が、上げていた手を下げると同時に大きな音が周囲にこだまする。
その大きな音に対して、私は目を閉じてしまう。
目を開けたものの、場内には誰も立っていない。
何がどうなっているのかがわからない。
学園長は両手を上げている。
一体何が起こったと言うの?
バナンたちは何処に行ってしまったのだろうか?
「それまで! 勝者、イクミ・グセナーレ様」
学園長はそう言って、私の方を見ている。
ルビーは澄ましたままで、観客の誰もが静まり返っている。
「ルビー、どうなっているの? バナンは? クロやルキアは何処に行ったの?」
「何も問題はありません。三人とも無傷ですよ」
「だって……」
ルビーの指差した方向には、異様な光景に包まれていた。
「おい、今何が起こったんだ?」
「いきなり三人共吹き飛ばされていたわよ」
「あの忌み子が連れてきたのは、本当にバナンなのか?」
壁には激突した跡が残っていて、地面にはあの大男たちが転がっている。
そして、マガーレンに対してあの三人は剣を突きつけていた。
私は慌ててその場所へと走り出した。
ルビーが言っていた「殺すな」という言葉が頭をよぎる。
それだけはダメ、殺さないにしても傷つけることをしてはダメ。
「今後、お嬢に姿を見せるな」
「イクミ殿の前に現れるというのなら、殺します」
「ルキア。それ、私のセリフ取らないでよ。イクミ様に近づいたら私達が相手になります」
マガーレンは三人から向けられた剣に怯えているようだった。
「止めなさい! これは一体どういうつもり?」
私が間に立ちふさがり、三人はようやく剣を収めていた。
よりにもよって、剣を向けるなんて何を考えているのよ。
「申し訳ございません。だ、大丈夫でしたか?」
「ふざけるなっ!」
マガーレンから突き飛ばされるが、ルキアの手によって倒れることはなかった。
けれど、マガーレンは一人闘技場から出ていき、会場にはどよめきが立っている。
言葉の端々からは、S級やエルフという単語が聞こえてくる。
「何がどうなったというの?」
「お嬢。さっきのようなことはしないでくれよ。やり過ぎたのは謝るが、ああいう手合にはこれぐれぇの脅しが必要だったんだ」
脅しって……ああ、そうか。バナン達がいることで、私に対しての仕返しをさせないようにしていたと?
そういえば、吹き飛ばされた人達はどうなったの?
「生きてる?」
壁の激突具合からして、これで生きていると言えるのだろうか?
色々とやばいことになっているみたいだけど。
「イクミ殿。そのような汚物をまじまじと見るものではありません。さ、お屋敷に戻りましょう」
「そうですよ。私のダンジョンでの活躍を聞いてくださいよ」
汚物って、今はっきりとそう言ったわね。
ルビーが言っていたことはこういうことなの?
大体あの一瞬の間に何がどうしてこうなっているのか……誰も説明はしてくれないよね。
クロとラズ兄さんのときも何も見えなかったし、聞いた所で理解できそうにもないわね。
「グセナーレ様。この者達のことを気に病む必要はありません」
「それはどういうことですか?」
「それにしても、マガーレンも地に落ちましたね。平たく言えばこの者達は犯罪者ですので、この後にも相応の処罰が待っていることでしょう」
それ以上やったら本当に死んでしまうと思うけど……犯罪者とわかっていたにも拘らず、決闘に参加させていたと言うの?
そんなことってあり得るのかしら?
いや、学園長は何かを知っていながらも、この人たちを参加させた。
こうなることが分かっていて、利用した?
「さ、お嬢様。そろそろ戻りましょう」
「クレア達にあい……さつ」
クレアが居た所に視線を持っていくと、二人してお金を勘定している様子が目に入ってきていた。
「どうやら、お嬢様に掛けていたようですね」
「学生の決闘が……賭け事?」
「特に禁止されていることではありませんから……私の方からは何とも」
学園長はそういうが、本当にそれで良いのか?
というか、ライオはともかくとして、クレア!
何時からそんな悪い子になっているのよ!
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