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学園編

83 お嬢様は学園でも過保護にされています

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 教室に入ると、クレアは後ろ側の席についていた。はずだったが、今は私の隣へと座っている。あんな事もあったのだろうから、きっと心配してくれているのね。
 思っていたとおり、状況は良くない方向に向かっている。

 私と違って、クレアは公爵家のご令嬢だ。私と関わったというだけで、彼女の品性に傷がつくのはよくない。
 現に後ろにいる生徒たちからは、好奇な視線に晒されているにも関わらず、クレアは全く気にしていないのか澄ました顔をしている。

 相手が相手なだけに、下手に絡んでくる連中はいないとは思う。
 どうすれば、良いのかしらね。

「私に何か?」

「ううん、何でもないけど。誰かが隣に座るなんてないと思っていたから」

「友達なのですから……あっ」

「でしたら、私はこちらに失礼しますね」

 後ろから聞こえてきた声に振り返ると、あの王子様が嬉しそうな顔をして席についていた。
 小さくため息を漏らし、クレアが居る手前ダメとも言えない。
 彼も彼なりに、私のことを心配してくれたのだから、無下に扱うこともできそうにない。

 二人には借りがあるため、私から強く出るのが難しい。
 殿下ならともかく、クレアは私を抱えて屋敷に行っている。そのことで、皆からはかなりよく思われている。

「どうぞ、ご勝手に」

「ありがとうございます、グレナーレ様。今日は随分と可愛らしいものをお付けになっているのですね」

 ぐっ、なんだろうかこの敗北感は……全然嬉しくはないんだよその言葉は。

「殿下もそう思われますか?」

「このリボンはもしかしてクレアが?」

「はい。イクミ様にお似合いになると思いまして……ですか、イクミ様はあまり好かれないご様子で……」

 その演技嘘だってバレてるからね。そうやって外せないようにしているくせに……全くとんだ友達ができたものね。
 そんなに嬉しそうにしないでよ。

「グセナーレ様は髪が長いので、髪留めもお似合いになりそうだね」

 これには訳があってね。
 奴隷だったときも長かったが、肩の辺りまでバッサリと切られたものの、それからは切ることも拒否されてしまい、今では腰まで長くなっている。

「まあ、それは素敵ですわ」

「いい加減にしてよね……いや、あまり私と親しくするのも良くはないかな?」

「そんな事をおっしゃらないでください。グセナーレ様」

 婚約者がいるのだから、特定の女性と親しくするのはあまり良くは思われないだろう。
 そう思っての忠告だったのだけど、気にする様子もなく私の隣りに座っている。

「イクミ様。本日の実技ですが、私と一緒に受けて頂いてもよろしいですか?」

「私は本当に何もできないよ?」

 そもそも何も用意すらしていないのだから、まともな授業になりそうにもない。

「できる限りサポートを致します」

「そうね。先日の時を考えると、少しぐらいは体力をつけていたほうがいいしね」

 あ、しまった。余計なことを言ったかも……クレアからは笑顔が消え、殿下も黒板を睨みつけているようにも見える。
 私はクレアに向いて腕を掴む。

「違うの、そうじゃなくて。あのアレよ、一人で帰ろうとした時に倒れたでしょ? 私もダラダラとした生活をしすぎていたなって痛感……」

「仰っている意味がわかりかねますわ」

 声のトーンが低い。
 私の後ろからは、パキパキと指を鳴らしている音が聞こえてるし。

 ここは話題を変えるしかなさそうね。だけど、一体何を言えば二人の怒りが静まるのだろう?
 一時間目の授業が始まるが、今は私にはそれどころじゃない。

 微かに聞こえる程度の陰口に対して、二人は揃って睨みつけている。
 今でも後ろにいる生徒たちが哀れにしか見えない……顔を青くし、体を震わせている。
 この二人って案外似ているわね。

「クレア。えっと、その……」

「何かご不快でしたか?」

 授業が終わると同時に、席を立つクレアの腕を掴み呼び止めていた。
 彼女のことだから、陰口を言っていた相手に対して、何かを言うつもりだったのかもしれないと思っての行動だ。
 かと言って私はこれという対策もない。

「午後からの実技……クレアと一緒にできるのが少し楽しみ」

 なんとか絞り出した言い訳に、クレアの表情はパァッと明るくなる。

「イクミ様」

 それからは、色々と質問攻めにあっていたのだが、もう一人を放置していたために、虚氏の席では悲惨な状況になっていた。
 クレアも気がついているはずなのに、そんなことはお構いなしに私に対して武器の話や、基礎訓練などの話しをしてくる。

「些細なことで反応するものじゃないと思うよ」

「些細などではありません。然るべき対処というものですよ」

 私にとってはどうでもいいような話でしかないのだけど……この二人ときたら待ってく何を考えているのだか。
 牽制もあってか、それからの授業や食堂でも陰口が聞こえることはなかった。
 私達の居ない所では色んな噂が飛び交っているとは思うけどね。

「グセナーレ様。私のことはライオと気軽に呼んで頂いても構いません。敬称も不要です」

「別に殿下でいいんじゃないの? クレアもそう思うわよね?」

「殿下がよろしいと仰っておられるので、構わないと思います」

 現国王の息子である殿下に対して、愛称だけでなく敬称すらつけないのは、どう考えても良くはないと思うよ?
 別の問題にも成りかねないだろうし……この人は自分の立場というのを理解しているのかしら?

「二人とも私に対して、かなり丁寧な話し方を止めてくれるのなら考えるわ」

「クレア。私の話し方はそんなにも丁寧だろうか?」

「普段と何も変わらないと思いますよ。イクミ様の勘違いかと思われます」

 この二人は何を言っても無駄のようね。
 私に一体何を期待しているのかわからない。それでも、二人の様子からして警戒をする必要もないと思う。ルビーもトパーズも何も言ってきていないのが何よりの証拠だと思う。
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