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学園編

82 お嬢様へのプレゼント

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「おはようございます。イクミ様」

「おはよう……」

 朝食を取るために来ていたのだけど、クレアが居るとは予想もしていなかった。
 ルビーは最初から知っていたはずなのに隣で澄ました顔をしている。

 多分、私の様子を見に来たのだろうけど、先に話をしてくれても良かったんじゃないの?
 友達なのだからどうこう言うつもりはないのに……

「クレア。色々とありがとうね、それと心配してくれて嬉しかったよ」

「お気になさらないでください」

「それで? こんなに朝早く、どうしたの?」

「本当でしたら昨日にでもお伺いしたい所でしたが、私にも予定があったものですから。お元気そうで何よりです」

 すぐにでも私の様子を見たかったの? 気にかけてくれるのはいいんだけど、いくら何でもまだ七時よ?
 いつもなら、食後の後に軽く書類を眺めてから登校している。だから、私の朝は早いほうだとは思っていた。

 それにもかからわず、クレアは眠気の様子もなくお茶を楽しんでいるようにも見える。それにしても……公爵令嬢は優雅でいいわね。トワロの目が光っていてこちらとしては朝から辛いよ。
 よりにもよって月曜に来るなんて……

「あ」

 クレアのことを考えていたせいか、自分の椅子をトワロが引くよりも先に動かしてしまった。

「お嬢様。本日の朝食は如何なされますか? あまり進まないのであれば、量を減らしますが」

「いつもどおりで大丈夫よ」

 ルビーとの会話中にトワロが椅子を直していた。これは、夜になったらお説教かな?
 トワロも結構きついんだよね。ルビーほどズケズケと言ってこないのだけど、とにかく何度も何度も同じことを聞かされる。
 流石にクレアの手前ということもあり今は言ってこない。

「見ての通り私はもう回復したわ」

「それは良かったです。そうそう、イクミ様にお渡ししたい物があるんです」

「渡したい物?」

「今はお食事中ですので、後でお渡しいたしますわ」

 渡したい物ね。一体何なんだろう?
 朝食を済ませて、執務室へと向い少しだけ書類に目を通す。
 これと言った大きな報告もないようなので、夜に見ても問題はなさそうだった。

「それで渡したいものってなんなの?」

「はい。イクミ様はそのままじっとしていてください」

「いや、渡してくれるだけでいいよ」

「それでしたら、この私めがお嬢様を羽交い締めにしましょうか?」

「トパーズ!?」

 相変わらず神出鬼没ね。何処から聞きつけたというのよ……
 ルビーならともかく、トパーズの羽交い締めは色々と嫌なことが多すぎる。

「わかった。何もしないからトパーズの出番はない」

「どうして私だけにはそんなに冷たいのですか! もっと構ってください、甘えてくださいよ!」

 トパーズに甘えるってどんな拷問なのよ。
 たまに私の隣で寝ているの知っているんだからね。実害がないから今はいいけど……できれば、許可ぐらい取って欲しい。

「では、失礼しますね」

「はいはい。お好きにどうぞ」

 喜ぶクレアとルビー。そして、やたらと騒がしいトパーズ。
 だけど私の気分は、すこぶる不快だ。
 鏡に映る私の頭には大きなリボンが結ばれていた。側面から見れば、その大きな存在感がなんとも憎たらしい。

「何でリボンなのよ……何かあった時にでも使うことにするわ」

 そう言って、リボンに手を伸ばすとルビーが私の腕を掴み、ギリギリと力を込めている。
 端を掴んでいた指を無理やり遮ってくる。

「ルビーさん、少々痛く思われますが?」

「お嬢様こそ何をなされているのですか?」

 リボンから手を離すと押さえつけられた力は緩み、すかさず逆の腕も掴まれる。

「一体何のつもりなのよ」

「それは十分ご理解されていると思われます。このようなお姿は早々お目にかかれませんので、今日一日でも外さないようお願いします」

「イクミ様はリボンはお嫌いでしたか?」

「嫌いも何も、今までつけたこともないよ」

 貰ったものだから、相手に対して嫌いとも言えない。
 ルビーは私の事をよく理解しているので、是が非でもこのままにするつもりでしょうね。

「わかったわよ」

「ありがとうございます」

 クレアには悪いけど、学園に行けばルビーの監視は無くなるのだからその時に取れば別に問題はないし。
 私の体が小さいせいか、似合っているのがまたつらいところだわ。

「イクミ殿、そろそろ登校された……なんと神々しい」

 ちょっとまってルキア。
 貴方もルビー側に付くと言うの? 言葉の使い方を間違ってないの?
 使用人といい、冒険部隊といい、こんなリボンの一つの何がそんなに嬉しいというのよ。

「どうかなさいましたか?」

「あー、うん。なんでもないよ。行こうか」

 クレアは私達のやり取りを見て、何がそんなに楽しいのか声を出して笑っていた。
 本来であれば、馬車を使うところなのだろうけど、クレアが居たことで初めて徒歩で学園へと向かう事ができた。

 だからと言って、護衛が無くなるわけじゃないのだけど……いくら何でも私を取り囲んでまで護衛をする必要があるの?
 これに動じないクレアもまた図太いと言うか、もしかして公爵ご令嬢だから当たり前ではないよね? いくら何でもこれはないと思うよ?

「そうそう、イクミ様」

「どうしたのよ、そんな嬉しそうな顔をして」

「先ほどルビーさんから言伝を預かってます」

 そういえば、さっき何かを言われていたわね。てっきり私に対してのお礼と思っていたのだけど、何を言ったというのかしら?

「学園でそのリボンをお取りになったら報告するように言われました」

「え……じょ、冗談よね? く、クレアは私の友達よね?」

「あら、その言い方ですと、最初からそのおつもりだったのですか?」

 口に手を当ててクスクスと楽しそうに笑っている。クレアは友達でありながら、ルビー側ということか……少しぐらい大目に見てもいいじゃない。
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