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学園編

78 お嬢様は忌み子

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 私は、クレアに抱きかかえられ、教室から連れ去られていく。
 二人は、学園の医療室に私を連れていきベッドの中へと押し込める。
 本来の淑女とは、人前であんな格好をするはずは無い。だから二人は血相を変えて私を匿っているのだろう。

 私からすれば別に大した事無くても、クレアにこれだけ心配させるとは思わなかった。
 むしろ、痴女として広まれば……ルビーの耳に入った段階で、私がどうなるのかと、この件も知られないほうがいい。

「イクミ様。ちゃんと話してください。何故このようなことになられたのですか?」

「彼らも若気の至りってやつでしょ。濡れただけだし、被害といえば私が借りていた本ぐらいのものだよ。それをどうやって弁償するかが問題かな」

「それは、イクミ様のせいでは……」

「私のせいでもあるのだよ。彼らを焚き付けたのは私だし。それに、こうなることは大体予想もできていたから。私としては、貞操を奪われていないだけましよ」

 焚き付けたつもりはなかったけど、私はクレアに何も問題はないと言いたかった。
 だけど、二人には私の言葉よりも、私に向けた行為そのものが許せないみたいね。
 私は体を起こして、クレアの手を取り何度も首を振る。

「だから、そんな顔はしないで。ね?」

「私は納得がいきません」

「私もクレアに同感だ。このようなこと許せるものではない」

「殿下?」

 でんか? さっきもそう呼んでいたけど……殿下? ということは、王様のご子息?
 何でそんな人が私に?
 彼は私の制服を手に取り、力強くそれを握りしめ、床には水が滴り落ちていた。

「妄りに女性の服を持つものではありません。お渡しくださいませ」

「すまない。お願いするよ」

「それと、殿下は何時までイクミ様を見ておられるのですか?」

「す、すまない。決して疚しい気持ちなど無い分かってくれ」

 ああ、なるほど。そう言えばシーツを掛けられているとはいえ、上半身は隠すこともなく見えている。
 下着しかつけていないから、クレアが殿下だろうときつく言えるのね。

 私としては、本当あれだけで済んだのだから大して気にもしていない。
 だけど、こういう事がこれからもあるとなると、私も少しは対策する必要があるのかもしれないが……どうやって皆にこの事を黙ったままにできるのかが心配なのよね。

「イクミ様。もしよろしければ、私がお屋敷に言伝てまいりましょうか?」

 一番知られてはマズイ所に、こんな事を伝えられると私が困る。

「いや、それは絶対に駄目。私なら大丈夫だよ。ありがとう、クレア……あと、殿下も」

「私は友達がこのような仕打ちを、黙っていられるほどお人好しではありません」

 友達か……今思えば私には多くの奴隷は居たけど、友達と呼べる存在は一人も居なかったわね。こんな私を、彼女は友達と呼んでくれるの?

 クレア……たとえそれが嘘でも嬉しいよ。

「友達か。私ってこの世界に来て、初めて友達って言われた気がするよ」

「イクミ様。殿下がいらっしゃいますので、そのようなことは……」

 クレアに耳打ちをされるまですっぽりと抜けていた。
 カーテンで仕切られているとはいえ、彼はまだこの部屋にいるのだから。

 それにしても、あの人がよりにもよって殿下だったとは……入学式での行動に不敬罪とかならないよね?
 今となってはそっちのほうが心配だわ。

「そうだった。ごめん、気が緩んでた。クレアのせいだねこれは」

「またそのような御冗談を……それとイクミ様。いくらカーテンで仕切られているとは言え、せめて前のボタンでも留めてください」

「わかったわよ。クレアは心配性だね」

 この服って、殿下のものなんだけどただ返すわけにもいかないだろうし、洗濯ぐらいはするべきよね?
 だとしても、持って帰ったとしても何があったのかを疑われる。
 私はどうすればいいのかしらね? 

「ねぇ、クレア」

「何でございますか?」

 それにしても、思っている以上に大きいわね……これがクレアの物でも私にはぶかぶかなんだけど。
 本当に同い年か疑問に思えてくるよ。
 疑問といえば……

「イミゴとはどういう意味なの?」

「それは……」

「いまいちよく分からないのよ。意味のない子? 必要のない子供、そういう事であっているの?」

「そのようなことを、二度と仰らないでください!」

「ご、ごめん。落ち着いて、ただ気になったと言うだけで、深い意味はないよ?」

 クレアは悲しそうな表情をして声を張り上げ、殿下は苛立ったかのように勢いよく床を踏みつけたのか大きな音を立てていた。
 そんな二人の様子からして、それがどういうものかだけは理解できた。

 今後この話題を言うべきではないのだろう。
 とはいえ、彼らがどういった行動に出るのか分からない。そのためにも、その言葉が何なのかぐらい知っておくのもいいかと思っただけでしかない。

 彼らの他に、生徒たちは遠巻きに私を見ていた。
 私自身に何らかの謂れがあるようだから……少しは気をつけたほうがいいわね。

「とりあえず、ちゃっちゃっとボタンを留めないとね。殿下様に襲われたら大変だ」

 そんな冗談を言うと、彼はカーテンを開け放ち私ではなく、クレアを真剣な眼差しで見ていた。クレアは身を挺して私の前を見せないようにしていた。

「私には婚約者がいる。そのようなことはするはずがない。信じて欲しい!」

「殿下! 何をなさっておられるのですか! 見てはなりません!」

 慌てて背を向けた殿下はクレアに押され、ついには部屋から追い出している。「違うから」と抵抗も虚しく、廊下では何かを言い合っていた。
 その年で婚約者か……相手の人も苦労してそうね。私のような人間に構っているのだから。
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