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学園編

67 お嬢様の初登校

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「ルビー。これ、制服よね?」

 のんびりと朝を過ごしていると、ルビーには急かされるように着替えをさせられた。
 しかし、その服装というのが、着ることがないと思っていた学園の制服。
 なんの迷いもなく選び、鏡の映る姿は昨日と何ら変わりがない。

「はい。学園に登校するのに、指定されている制服は当たり前だと思うのですが?」

「昨日のテストで、私は実技していないのよ? 不合格確定だと思うのだけど?」

「何を仰っているのですか? 昨日の実技はただの実力試験でございます。今日が入学式となるのです」

「え? 聞いてないよ? それ聞いてないよ?」

「はい。言ってません」

 言ってませんって、最近ルビーが私に冷たい。私が何をしたというの?
 ここに来るまでも騙されていたのに、またしても私を騙して何が楽しいのよ。

 この様子だと、あの爺……お父様が絡んでいるということね。
 学園の話が出た段階で、何かがあるものだと気づくべきだった。とはいえ、私自身が人質みたいなものだから反発した所で、何を言われるのかも目に見えている。

「実技ですが、元よりお嬢様にはご不要ですので」

「不要ってどういう……でも、皆は必死に頑張ってたのよ? 私だけ何もしていないのに合格とかあり得るの?」

「先程も申し上げたとおり、昨日の実技は各自の実力を図るもの。平民であろうとも入学金さえ支払えば、誰でも入学は可能です」

「うそ……よね?」

 どこの底辺学校なのよ……無粋ながらもそんな事を考えてしまう。
 入学金を払えば?
 そのお金はどこから出てきて、誰が支払ったと言うのかしらね?

 そんなことよりも、あそこにいた人達は大半が貴族であり、見ていたから分かるけど……誰もがちゃんと取り組んでいた。
 それなのに、入学金だけで入れるだなんて思わないわよ。

「実技なんて私、出来ないんだよ? これからの学園生活はどうなるのよ」

「お嬢様でしたら、何も問題もございません」

 いやいや、問題は有りすぎるとは思うよ?
 私としては、受からないものだと思って実技試験中もボケーっと眺めていただけだし。
 そんな人間が平然と、登校できるはずないでしょ!?

「そもそも、実技試験で合否があるのであれば、最初から制服など必要がないではありませんか?」

「いや、だって……ほら、学校なんだし制服が当たり前なのかなって」

「そうですね。お嬢様は学園の生徒ですので、制服の着用は当たり前です」

 ルビーの言っていることは間違ってはいないけど、私が昨日間違いを犯しているので、こうなれば数日の猶予を貰ってから……

「仰るとおりにございます。でもねルビー、聞いて、私、無理、行けない」

「あまりお時間もありませんので、ルキア。お嬢様を学園まで護衛なさい」

「かしこまりました。イクミ殿、では馬車へどうぞ」

「ルキア!」

「そのように睨まないでください。私が不服であれば、トパーズ殿にお任せしては如何でしょうか?」

 ルキアの言葉に、背筋には悪寒が走る。
 差し出されていた、ルキアの手が下へとゆっくりと下りていくが、私はすかさずその手を掴んでいた。

「行く。ルキアと一緒に!」

「はい。お任せください」

 ルキアに手を引かれ、部屋から出ていく時に、後ろから舌打ちのようなものが聞こえてきたのは、紛れもなく空耳でしょう……そう思わせて!

 それにしても、なんで馬車なのよ。これだけ近いのだから、歩いて行ってもいいじゃない。
 あまり変わらないんだから。

「お待たせしました。お手をどうぞ」

 昨日も思ったけど待ってもいないって。周りからも変な目で見られている。
 私のように登校する生徒もいるのだけど、多くの生徒が立ち止まりその視線は私というよりも、ルキアに向けられていた。

 エルフがここにいるのが、珍しいからかもしれないわね。
 それだけでも不思議なのに、そんなエルフが私に仕えているのもまた……余計なトラブルにもなりそうだわ。

「それでは、イクミ殿。行ってらっしゃいませ」

「うん、ありがとう。行ってきます」

 私は、通うはずがないと思ってた学園の敷地を歩いていた。
 皆が集まっている所からして、恐らくクラス表のような物があるのだろう。

 歓喜を上げるものや、落胆しているものとに分かれている。
 だけど、私はその中に入ることが出来ない。

 昨日も思ったことだけど、私と他の生徒達では、身長差が激しい為である。
 情けない事に、皆は年相応に高校生なのに対して、私は未だに小学生でも通用しそう。
 だから私はこうして皆が居なくなるのを待っている。

「そろそろ、いいかしら。思ってたよりも生徒の数が多いのね」

 平民よりも貴族が多いのは当たり前だけど、どう見ても二百人以上はいると思う。
 確か五年制だから単純計算で千人?

 そりゃ建物もでかいよね。そんなマンモス校とは思わなかったし。
 人が減ってきたとは言え、全然見えない……

「どけ、ちび。邪魔なんだよ」

 小さい私は、肩を押され倒れはしなかったが、人の居ない所で立ち止まった。
 ちびか……私としても好きでちびのままというわけではない。

 私のことをチラチラとは見るが、どうにも私は周りから距離を取られているように思える。アレだけの事をしていれば当然か……今は人が居なくなるのを待つしか無いわね。
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