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奴隷商人編
56 お嬢様のペット
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地図を眺めても、馬車で三週間という距離が一体どれほど距離なのかを確認できる要素がない。
というのはこの地図に王都は載っていないから。
私の場合基本的に遠出は許されていないので、今回のような長い距離を進んだことはない。
何事もなかったにせよ、その原因となったのはエルフの村で、私は危険な立ち位置へと足を踏み入れてしまった。
それもあってか、数日かかる距離の移動はルビーは許可をしない。
距離感とというものがあやふやな私には、王都への道のりは理解すら不能でもある。
「三週間は時間かかりすぎない? 王都ってそんなに遠いの?」
「真っ直ぐでしたらそれほど遠いわけではないのですが、あちらに見える山脈の向こう側に王都がございます」
「つまり、迂回する必要があるってことね」
「ですが、街道とはいえどのような危険があるか分かりません。私どもができる最高峰の護衛も用意しております」
ルビーの様子からして、街道を使えばあまり危険がないとのことだけど。私の抱える奴隷たちは護衛というよりも、大貴族が持つ小隊にすら匹敵しそうなほどの部隊が目に浮かんでいた。
立ち寄る街に対して、この大人数で行くのは申し訳ない気持ちにもなる。
「護衛ねぇ。王都でも今までのように、クロとルキアも隣りにいるのかしら?」
「勿論でございます。王都では何があるか分かりませんので」
「うん、今と変わらないのね。でもあの二人がいるのなら大抵のことは問題なくない? ルビーはいつも一緒なのは分かっているけど、たまには一人で遊びに行きたいとかないの?」
「御冗談を……」
どういう意味なのでしょうか?
私と離れることなのか、遊びに行くことのほうなの?
それとも、私が遊び歩くことを想定されているのかもしれないわね。
私がフラフラと遊び回る方を警戒しているよねきっと。
やれやれ、私は子供じゃないのよ?
そりゃ以前、港町で迷子になりかけもしたけど、あれは不可抗力というものよ。
しょうがないでしょ、珍しいものがあったのだから。
「ちょっとまって、フェルはどうするの?」
フェルというのは、数ヶ月前に人語を話す狼がいたという事を聞きつけたクロとルキアの手によって連れてきた。
私の言うことを聞いてくれるし、話もできる意思疎通もバッチリなので最高のペット。
元々動物は好きだったので、あのときは初めて跳ねて喜んでしまった。
毛並みといい、撫で心地も最高だった。
フェなんとかという種族らしくて、私がフェルと名付けた。
だけど、あれを抱いたまま寝ることは許されていないのよね。
一度でいいから一緒に寝てみたい。
「もしかして置いていったりしないよね?」
「そのような事はいたしません。魔獣とはいえ、普段の様子からして危険性が無いことは承知済み。ですが、フェルを王都の中に持ち込める可能性は低いかもしれません」
街中でもフェルは人気者だったりする。
私だけでなく、子供達を背中に乗せたりと誰も怖がる人はいなかった。
だけど、最初に私が乗っていたから。私という知名度のおかげで街の人が警戒をしなかったと思えなくもない。
「そうね、プルートの皆みたいに受け入れて貰える可能性は皆無。フェルが近くにいないのは寂しくなるね」
「どうした小娘。儂を呼んだか?」
「フェル。よしよし」
私の声が聞こえたのか、テラスの手すりに座っていた。大きな体をしている割には、私が抱きついてもブレることはなかった。
背中や頭を撫で、その心地よさに浸っていた。
「おい、犬ころ。イクミ様を今なんとお呼びした?」
「あ、あるじぃ……」
この世界には犬というものは居なかった。
だけど、私が犬が欲しかったのよという言葉で、クロはフェルのことを犬呼ばわりすることがある。
「止めなさいクロ。今はイクミ殿が堪能されているところだ。躾ならその後でたっぷりしてやれでいい」
魔獣であるフェルを従えているのはクロとルキアであって私ではない。
だから、私に対して時折ああやって茶化してくれたりする。
嫌味にも聞こえていないし気にはしないのだけど。二人からすれば、そんな些細な冗談も冗談で済まされない。
屋根の上から見下ろしている二人の化け物に怯えているのか、フェルの震えは段々と大きくなっている。
「大丈夫だよフェル。虐められたら私に言いなさい、私が変わりに叱ってあげるから」
だけどフェルは私の頭に手を置き、引き剥がすと一目散に逃げ出していた。
「二人共。私は気にしていないから、いい加減その程度のことでフェルをいじめないで」
「イクミ殿を足蹴にしたな」
「ああ、みてた、しっかりと……」
「あれ? なんか話変わっていない? ねぇ?」
私が声を出したと同時に、二人の姿は消え誰もいない屋根に話しかけている。
あの二人にも罰を与えることにしよう。
仲良くしてくれるといいのだけど。
遠くの方で、何本かの木が倒れているようにも見える。あまり森を壊したらダメだよ?
「あの二人がいれば、王都での生活は安全そうだね」
「何を仰るのですか。もしも、ドラゴンが道を塞ぐのならどう対処するおつもりですか。たとえば、山賊共が一気に千人も襲ってくれば私達でどう対処できるというのですか」
王都にいきなりドラゴン?
山賊っていうよりもその規模ってクーデターになっていない?
「そんなこと起こるわけ無いでしょ。気にし過ぎだよ」
ルビーの心配性は尽きる様子もなく、対策を頭の中で練っているみたい。
というのはこの地図に王都は載っていないから。
私の場合基本的に遠出は許されていないので、今回のような長い距離を進んだことはない。
何事もなかったにせよ、その原因となったのはエルフの村で、私は危険な立ち位置へと足を踏み入れてしまった。
それもあってか、数日かかる距離の移動はルビーは許可をしない。
距離感とというものがあやふやな私には、王都への道のりは理解すら不能でもある。
「三週間は時間かかりすぎない? 王都ってそんなに遠いの?」
「真っ直ぐでしたらそれほど遠いわけではないのですが、あちらに見える山脈の向こう側に王都がございます」
「つまり、迂回する必要があるってことね」
「ですが、街道とはいえどのような危険があるか分かりません。私どもができる最高峰の護衛も用意しております」
ルビーの様子からして、街道を使えばあまり危険がないとのことだけど。私の抱える奴隷たちは護衛というよりも、大貴族が持つ小隊にすら匹敵しそうなほどの部隊が目に浮かんでいた。
立ち寄る街に対して、この大人数で行くのは申し訳ない気持ちにもなる。
「護衛ねぇ。王都でも今までのように、クロとルキアも隣りにいるのかしら?」
「勿論でございます。王都では何があるか分かりませんので」
「うん、今と変わらないのね。でもあの二人がいるのなら大抵のことは問題なくない? ルビーはいつも一緒なのは分かっているけど、たまには一人で遊びに行きたいとかないの?」
「御冗談を……」
どういう意味なのでしょうか?
私と離れることなのか、遊びに行くことのほうなの?
それとも、私が遊び歩くことを想定されているのかもしれないわね。
私がフラフラと遊び回る方を警戒しているよねきっと。
やれやれ、私は子供じゃないのよ?
そりゃ以前、港町で迷子になりかけもしたけど、あれは不可抗力というものよ。
しょうがないでしょ、珍しいものがあったのだから。
「ちょっとまって、フェルはどうするの?」
フェルというのは、数ヶ月前に人語を話す狼がいたという事を聞きつけたクロとルキアの手によって連れてきた。
私の言うことを聞いてくれるし、話もできる意思疎通もバッチリなので最高のペット。
元々動物は好きだったので、あのときは初めて跳ねて喜んでしまった。
毛並みといい、撫で心地も最高だった。
フェなんとかという種族らしくて、私がフェルと名付けた。
だけど、あれを抱いたまま寝ることは許されていないのよね。
一度でいいから一緒に寝てみたい。
「もしかして置いていったりしないよね?」
「そのような事はいたしません。魔獣とはいえ、普段の様子からして危険性が無いことは承知済み。ですが、フェルを王都の中に持ち込める可能性は低いかもしれません」
街中でもフェルは人気者だったりする。
私だけでなく、子供達を背中に乗せたりと誰も怖がる人はいなかった。
だけど、最初に私が乗っていたから。私という知名度のおかげで街の人が警戒をしなかったと思えなくもない。
「そうね、プルートの皆みたいに受け入れて貰える可能性は皆無。フェルが近くにいないのは寂しくなるね」
「どうした小娘。儂を呼んだか?」
「フェル。よしよし」
私の声が聞こえたのか、テラスの手すりに座っていた。大きな体をしている割には、私が抱きついてもブレることはなかった。
背中や頭を撫で、その心地よさに浸っていた。
「おい、犬ころ。イクミ様を今なんとお呼びした?」
「あ、あるじぃ……」
この世界には犬というものは居なかった。
だけど、私が犬が欲しかったのよという言葉で、クロはフェルのことを犬呼ばわりすることがある。
「止めなさいクロ。今はイクミ殿が堪能されているところだ。躾ならその後でたっぷりしてやれでいい」
魔獣であるフェルを従えているのはクロとルキアであって私ではない。
だから、私に対して時折ああやって茶化してくれたりする。
嫌味にも聞こえていないし気にはしないのだけど。二人からすれば、そんな些細な冗談も冗談で済まされない。
屋根の上から見下ろしている二人の化け物に怯えているのか、フェルの震えは段々と大きくなっている。
「大丈夫だよフェル。虐められたら私に言いなさい、私が変わりに叱ってあげるから」
だけどフェルは私の頭に手を置き、引き剥がすと一目散に逃げ出していた。
「二人共。私は気にしていないから、いい加減その程度のことでフェルをいじめないで」
「イクミ殿を足蹴にしたな」
「ああ、みてた、しっかりと……」
「あれ? なんか話変わっていない? ねぇ?」
私が声を出したと同時に、二人の姿は消え誰もいない屋根に話しかけている。
あの二人にも罰を与えることにしよう。
仲良くしてくれるといいのだけど。
遠くの方で、何本かの木が倒れているようにも見える。あまり森を壊したらダメだよ?
「あの二人がいれば、王都での生活は安全そうだね」
「何を仰るのですか。もしも、ドラゴンが道を塞ぐのならどう対処するおつもりですか。たとえば、山賊共が一気に千人も襲ってくれば私達でどう対処できるというのですか」
王都にいきなりドラゴン?
山賊っていうよりもその規模ってクーデターになっていない?
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