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奴隷商人編

52 お嬢様ともう一人の侍女

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 エルフの里から戻って数ヶ月がすぎた。
 ルキアはクロと一緒で私の護衛なのだが……

「クロ。何をだらけている。イクミ殿の御前だぞ」

「ルキアは真面目すぎ。ソファに座っていてもイクミ様は怒ったことないのに」

 たしかに私が怒る気もないけど……とはいえ、本人を前にしてそれは言ったら駄目な気がするよ。
 文句を言いつつも、私の左後ろへと移動した。

 ルキアの背中には、長身に似合っている大きな大剣を背負っていた。
 クロは片手剣を二本下げている。

 帰りのあの時、私の言った軽い言葉だったはずなのに、いくらなんでも物々しい……
 武器とは本来自分にあったものを使うはずだというのに、二人は私が言った提案をそのまま実行している。

「いつもはルビーもいるのだけど、居ないと少し寂しいものね」

「イクミ様はいつもご一緒でしたからね」

 私用で出かけるとは聞いていたけど、五日も姿を見せていないのは気にはなるところだ。
 今の私にはとある問題を抱えているため、ルビーには早く帰ってきてもらいたいと最近思うようになっていた。

「あらあら、お嬢様。今日もお可愛いですよ。ですが、たまにはこういったフリフリを着てみませんか?」

「い、嫌だ」

 そう、ルビーの代わりに身の回りの世話はトパーズが後任となっている。
 私は三日程度だと思っていたのだが、五日目となると歯止めは効かなくなりつつある。

「いいじゃないですかー、邪魔なあの子が居ない時ぐらい、ゆっくりとお嬢様の匂いや成分を堪能しても」

「やめて、この変態!!」

 トパースから逃げようにも子供の力では到底押し返すこともできず。
 髪を嗅がれ、体を撫で回される。
 匂いはわかるけど、成分ってなんなの?
 とにかくしつこい!

「クロ、ルキア。助けて」

「え……」

「それは……」

 ちょっと待て。
 貴方達は私の護衛。今まさに主人のピンチなのよ? 何でそこで躊躇しているのよ。
 それもそのはず、私は二人を生贄にトパーズの着せ替えを逃げたことを少し恨んでいるのだと思う。
 でもさ、二人共私とは違い正真正銘の女、ならそれぐらいなんともないはずでしょ?

「そこまで嫌がること無いじゃないですか。私悲しくて胸が張り裂けそうです。ですので、慰めてください」

 態とらしく地面に項垂れ、そして、また抱きつこうとする。
 それを回避して、ある意味トパーズの日課が終わる。
 何かしないと気がすまないのかしら?

「トパーズはルビーがどこに行っているのか聞いている?」

「少しの間屋敷から離れるとまでは聞いておりますが、どこに行っているかまでは。ですが、お嬢様にはこのトパーズ。このトパーズが付いてますよ。そうです、今日はご一緒にお風呂なんかを所望します」

 変な妄想が始まったトパーズを置いて私は庭へと向かった。
 本当かどうかわからないけど、トパーズも知らないとは不思議なこと……でもないか、誰にだって言いたくないことはあるだろう。

 クロに聞かされたルキアの両親の話。あれをどう彼女に打ち明けるのか迷っていたりする。
 今の強さであれば、恐らく一人で墓参りに出かけたとしても、無事に帰ってこれる気がする。
 それでも、多少の不安はよぎるけど。

 私は壁に設けられた扉を開く。
 屋敷の外へと繋がっているのではなく、少し前に出来上がった奴隷達の寮、その近くにある畑と温室への近道として設けたものだ。

「肥料の効果も上々かな?」

 ここの主な食べ物は動物の肉が多く、臓器や骨から作った肥料も少しずつだが良い土になっていると思う。
 また、イノシシからはラードを作ったことで、コロッケやイノシシかつが最近では奴隷達の好物になっている。
 女将さんの手伝いもあって、自家製ソースもなかなかの評判だ。

「とはいえ、いつもいつも狩りに行けるわけでもないしな。鳥だけじゃなくて、牛か豚の家畜も考えるほうがいいのかも」

「それでしたら、羊などはいかがでしょうか? 肉はそれなりに癖もありますが、羊毛は色々な所で利用ができます」

「ああ、そうか」

 確かにそれであれば、肉だけじゃなくて羊毛の産業も追加できるかもしれない。
 そういえば日本でも羊の肉を食べていたと思う。ただ、料理法はまるでわからない。
 今まで一度も食べたことがなかったから。

「羊もいいかもしれないね。だとすると人手がいるよね。今のところお金は問題なさそうだし」

 奴隷市場に行くのは好ましくはないのだけど、クロ達が言うように私の中では人助けをしていると思いたいところだ。
 食料に置いても各町に立ち寄り、少しずつ屋敷へと持って帰るため、プルートの街だけに頼ることがない。
 だから、買い占めにならず一応は円滑に進んでいる。

「イクミ様に買われ、仕事を拒むようなものが居たら私が制裁を加えます」

「そうならないのが一番いいんだけどね」

「きっと大丈夫ですよ」

「イクミ殿が主人であれば誰も反感を持つことはない」

 二人のその自信は一体どこから来るのだろう。
 最初に比べるとクロも随分とこの生活に馴染んできたのかな。

「クロの妹は今は何をしているの?」

「チロですか? ええっと確か料理部に入ったと聞いてます。今は街で暮らしているので会える日は少ないんですよね」

「そうなの……」

「あ、その、イクミ様は気にしないでください。チロもきっと楽しんでやっていると思いますので」

 それでもまだ小さいのに……二人を離すきっかけになってしまっていた。
 勉学の方も読み書きや簡単な算数も皆無事合格していた。
 各自やりたいことを出来るできないでなく、続けていけるかということを目標にやりたい仕事につかせている。

「そうね、なら確認しに行ってみましょう」

「よろしいのですか?」

「今は私も暇だからね。料理部がお世話になっている女将さんのところにも挨拶しておかないとね」

「かしこまりました。お気をつけくださいお嬢様。あら、こんな所に糸クズが、ふぅ」

「普通に取ればいいでしょ! って、どこに居たのよ!!」

「何をおっしゃっているのですか。私は最初からお側におりましたわ」

 何この子、怖いのだけど……急に背後から現れるとか、最初からってどこからが最初なの?
 あ、そうか。
 これは私が知らなくていいことだ。多分知らないままのほうがいいやつだこれ。
 私は二人の様子に、分かりそうなことを理解しないまま蓋を閉じた。

「トパーズは馬車の用意をして、大至急」 

「はーい、かしこまりましたー」

 トパーズは確かに優秀、それは認めている。
 しかし、あのよくわからない行動は一体どうゆうつもり……
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