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奴隷商人編

51 お嬢様に新たな護衛

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「彼女は、ルキアはどうするおつもり? 子供達を身を挺して守り続けたのよ?」

「どうもこうもない。それはまがい物であり罪人だ。話す必要すらない」

「その罪というものは何? それぐらい聞かせてくれてもいいだろ?」

「お嬢様。どうか抑えてくださいませ」

 一歩踏み込んだ所で私は、ルビーに掴まれ足を止めた。
 怒りで私自身どうにかなりそうだった。

「なら、せめてものの礼に答えてやろう。ソレは我等の教えに背き禁忌を犯したのだ。他種族、ましてや人間の血が流れた、穢れた存在」

 混血。つまりエルフと他の種族のハーフか。
 なるほど、見ての通り全員が金髪、男も女も関係なしに同じ髪の色。
 一方ルキアの髪は一部が緑色をしている。それは、ハーフエルフだからか。
 その中でも人間という種族を嫌っているのか……とんでもなく、くだらない。

「少しは交流を期待していたけど、この程度の低能部族だったとは」

「やめろ、止めてくれ」

「ルキア?」

「貴方様は、子供たちを助けてくれた。感謝をする。私はどうなっても構わない。しかし、同族を侮辱するのは許してもらえないだろうか」

 ルキアの必死な願いに私の怒りは収まりつつあった。
 気丈に振るっていた彼女が今にも泣き出しそうな顔に……

「何が同族だ。汚らわしい」

「そう、わかったわ、この人がいらないというのなら、私が子供たちを助けたお礼にもらってもいいわよね?」

「勝手にするが良い。どうか、早急にお帰りを願おう」

「皆、戻りましょ」

 エルフという部族は想像していたよりも酷い部族のようね。
 他種族を見下し、小さな世界でただ何も見ようとも聞こうともしない。
 何故自分たちがそうなってしまっているのかも理解しようとはできないみたいね。

「ルキア、ごめんなさい。嫌な言い回しをして」

「かまわない。私の方こそ悪かった、こうなることは少し予想はしていたのだが……」

「貴方はハーフエルフであっているのかしら?」

「ああ、そのとおりだ。たまたま助けた、人間の男と母の間から私が生まれた。いつか三人で村を出て暮らそうと、父はいつもそう言っていた」

「なるほど。それで、お父さんは見つかり殺され、お母さんもひどい仕打ちか何かでもういない。貴方はあの村の外で暮らしていたのね」

「そうだ。母は食べ物もろくに与えられず、皆の見せしめとして無残に殺されたようなものだ」

 見せしめね。
 あの雰囲気からすればそういうことは簡単にできるのだろう。
 自分たちだけの世界を保持するためだけに……

 なら彼女はなぜ、そうまでしてあの子達を助けようとしたの?
 村の一員として認めてもらいたかったから?
 両親を殺されてもなぜ……?
 
「ルキア、貴方はこれからどうする? 私としては貴方が私の護衛に付いてもらえたらと思うのだけど」

「私に奴隷商人の護衛をしろというのか?」

「ええ、そうよ。人を売らない奴隷商人なんて面白いでしょ?」

「そうだな。お前の下で働くか、一人野垂れ死ぬか、また奴隷にされるかか」

「あらよく分かっているじゃない。私と来るのもいいと思わない?」

「そうだな……」

 流石に無茶な提案だとは思う。
 一年程度一緒に暮らしていたとはいえ、馴れ合うのは色々と葛藤もあるみたいね。

「すまない、明日の朝まで返事を待ってもらえないだろうか?」

「返事はいつでもいいよ。私はあの屋敷にいるから」

「ああ、分かった」

 彼女にも何か思うところはあるはず。でも、ルキアが私の護衛についてくれればクロの負担を軽減できると思うのだけど。
 と思っているのだけど……クロ自身はさっきの話が気に入らないみたい。
 両頬を膨らませ自分のしっぽの先をいじっていた。

「とりあえず一件落着でいいんですか」

「そうかもね。今はあの屋敷でゴロゴロするのが恋しいよ」

「俺らを働かせて自分は自堕落な生活ですかい?」

「そうそう。悪くないでしょ?」

 バナンは鼻で笑うものの、どこか満足げな表情をしている。
 あまりいい気分にはならなかったけど、当初の目的は果たせたんだ。

 これで良しと思うしかないよね。
 ティアとクレスが平穏に暮らせることを願い私達は、わたしの帰りを待つ皆の所へと向かった。


   * * *


 イクミが寝静まり見張りを残し多くの冒険者も眠りについていた頃。
 ルキアは一人、貰った剣を持ち深い闇に包まれた森の中へと足を運ぶ。

「一年振りなんだ。だから、どうかその剣を収めて欲しい」

「ごめん……」

 後をつけていたクロの存在にルキアは最初から気がついていた。
 クロが謝る理由、ルキアから置いたであろう花の前には二つの文字が彫られている少しだけ大きな石があった。
 クロは剣を鞘に収め、ポケットに隠し持っていた小さな果物を手にしていた。

「ん……あげる」

「ありがとう。しかし、貴方が私の両親にあげてくれないか?」

 クロは墓石の前に両膝を折り、花の隣に持っていた果物を置くと手を合わせ目を閉じた。
 二人で同じように祈りを捧げた。

「父上、母上。挨拶が遅くなりました。ですが、最初に謝っておかねばなりません。私のこの地を離れることになりました。彼女は名前はクロといいます」

「はじめまして……でいいのかな?」

「ああ。私はイクミ殿にお仕えすることとなりました。彼女は私の先輩に当たる方です。ここを離れることになりますので……次、何時会えるか答えることが出来ません」

「……」

 クロは何か声を掛けたいと思ったが結局言葉にはならなかった。
 イクミに仕える故に自分には、自分達には制限がついてしまう。
 気休めも、慰めさえもこの場に置いて口にできなかった。

「ですが、イクミ殿は立派なお方です。その方にお仕えする幸せをお許しください」

「私からもどうか、彼女を見守っててあげてください」

 ルキアは小さな声で「ありがとう」と呟いた。
 流れる涙を拭うこともなくしばらく祈りは続いていた。


   * * *


「おはようございます。イクミ殿」

「ああ、うん。おはよう?」

 テントから出ると膝を付きルキアが待ち構えていた。
 というか、何時からそこにいたのかな?

「どうしたの?」

「何か、私は間違えましたか?」

「あ、いやそうじゃないけど……クロは?」

「はっ、クロ殿は少し支度に遅れているようです」

 支度? それはいいとして、クロ殿?
 一体これはどういうことなんだろう? 私が寝ている間になにかあったの?
 あまりにもの変わりように戸惑っていると、ルビーは何事もなかったように私の隣で立っている。

「さあ、お嬢様。朝食の準備は整っております」

「そうだね。ルキアも行くよ」

「はっ。お供いたします」

 それじゃまるで騎士みたいなのだけど……てか、何がどうなっているの?
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