44 / 222
奴隷商人編
44 お嬢様は博打をする
しおりを挟む
夜。私は人生をかけた勝負をしていた。
「お嬢様の番です。あら? ここに置かれるのは、いかがでしょうか?」
ルビーが笑ってる。あのルビーが笑ってる。
劣勢な私を蔑むかのように、嬉しそうに笑っている。
「分かってる、分かってるよ!!」
私はルビーが言っている所にしか置けない。
だけど……
「これで、次の手はお嬢様の置ける場所がありません。では、もう一度ですね」
「くっ」
ルビーとの真剣勝負のはずが……最後まで打つこともなく結果は見えていた。
「では、また私の勝ちです。お嬢様には明日から一週間。午前は座学を、午後は淑女としてマナーおよび、ダンスのレッスンを受けていただきます」
ルビーから提案されたのは、私が勝てば勉強、貴族マナーの授業を一週間なしにするというもの。
あまりにも唐突で、あの時の私は……
素人相手ならと、私は勝てると思っていた。
これまでの授業は週四回だけで、午前中に終わるものだった。
しかし、一度負けた私は、午後の時間を掛けて勝負に挑んでしまった。
それだけに留まることはなく、次は日数を増やし……撃沈した。
ほんと賭け事って怖い……
「それじゃあ、ルビー。勝負よ!」
あの屈辱の日から二週間。
ルビーとトパーズにみっちりと扱かれ、ボロボロだった毎日の疲れも取れ、前回のオセロでは散々な結果だったが、今回は私にとって秘策がある。
今度こそ私は自由な時間を取り戻す。
「構いませんが、私の方に駒が二つほど足りていないのですが?」
「ほら、あれよ。大人と子供のハンデってやつよ。だから私も待ったなんて言わないわ」
「こういうときだけは、子供を利用されるのですね」
「うっ」
今こそオセロの雪辱を晴らす時。
テーブルゲームが強いのは分かったけど、近所のじいちゃんを打ち負かしたこの私だが、卑怯と言われようがそんな事はどうでもいい。
相手が素人のルビー相手に二枚落ちのハンデを付けさせた。
私の条件は以前と変わらず、一週間の授業免除である。
テーブルマナーだけならまだしも、歩き方、社交界のダンス、上品な言葉遣い等など私には過酷でしかない。
座学の勉強は、この世界で必要な知識だし別に退屈ではないのだけど。
しかし、勝負の世界においてこれは決して卑怯ではない、高度な戦略と戦術を兼ねたイカサマ。
早い話、勝てばいいのよ。勝てないはずがないでしょ。
一時間が経過。
おかしい、何かが圧倒的におかしい。
一枚しかないはずの飛車と角、それがなぜこちらを狙っているのだろうか?
一体どうしてこんなことに……私は何処で間違えた?
どこかに落とし穴が……あれ、ここままじゃ私詰むんじゃないの?
「待って! 今のはちょっと置き方を間違えた。ごめんね」
「待ったは無しではなかったのですか?」
「ちがうちがう。私が置き間違えただけなの」
「そうですか。私は一向に構いませんが」
オセロのときといい、ルビーって一体何者なの?
一度も対戦していないのに、私の手の内がバレているようなこの感じは一体どうして?
しかし、ここで負ければあの地獄がまたやってくる……それだけはなんとしてでも阻止しなければ。
「本当はこっちを動かそうと」
「なるほど、では……」
危ない危ない、あのままだったらすぐに詰むところだった。
王の隣ががら空きだと金を打たれれば終わっちゃうところだったよ。
「ここです」
「あ、あれ……ルビーお姉さん」
「待ったは無しですし、また間違えたなどと言わないですね」
王の守りを固めたのに意味なくない? 私の銀を狙うは、桂馬さん。
取れないし、逃げれないし取られると負けるし……打つ手なくない?
「ルビーあれは何なの?」
「なにか見えましたか?」
今だーー!!
邪魔だった角さんに二マスほど後退して頂いたのだ。
「鳥だったのかな、ごめんごめん」
「そうですか……これはこれは、随分と姑息なことを」
「な、何を言ってるのかなー。私の番だったよねー」
それからは、地獄だった。
攻めることを許されない攻撃の嵐。どんどんと減っていく駒を眺め、盤の上に残ったのは王一枚のみ。
そう、駒をすべて取られ、心折れた私を嬉しそうに見つめるルビーさん。
「参りました」
オセロでも負け、将棋でも負け。
普段からやらないにしてもあまりにもおかしくはないだろうか?
ああ、あれだ……私が弱いだけなのか?
「ルビー、強すぎて、辛い」
「何を仰っているのですか。もう少し相手の行動を考え、陣地を把握さえしていれば私程度、簡単に勝てると思われるのですが?」
「考えたよ、これなら行けるってちゃんと考えたよ」
「お嬢様には、こういったことには不向きなのかもしれませんね」
「はぁ、またあの一週間が続くのね」
落胆していた私はベッドに身を投げだすと、ルビーも珍しくベッドに腰を下ろしていた。
「それでは失礼いたします。罰ゲームというものでしたか? 私の言う通りにしてください」
これは果たして罰と言えるのだろうか?
負けた私は、ルビーに膝枕に頭を置きそして優しく撫でられている。
「これは罰なの?」
「ええ、大人くしくして頂くためです。それと今後あのような真似はしないでください。奴隷達との対戦であれば士気を下げてしまいます」
「ルビー相手にしかやらないよ」
「ですから、あのように卑怯なことはなさらないでくださいと言ってるのです。お分かりになりませんでしたか?」
「は、はい。もうしません」
言葉では鋭く感じたけど、撫でる手の優しさは変わらなかった。
ルビーはなんでこんなことを……
「眠くなったのでしたらそのままお眠りください」
久しぶりにルビーに撫でられ、その心地よさに瞼は自然と下がってくる。
「おやすみなさい……お嬢様」
「お嬢様の番です。あら? ここに置かれるのは、いかがでしょうか?」
ルビーが笑ってる。あのルビーが笑ってる。
劣勢な私を蔑むかのように、嬉しそうに笑っている。
「分かってる、分かってるよ!!」
私はルビーが言っている所にしか置けない。
だけど……
「これで、次の手はお嬢様の置ける場所がありません。では、もう一度ですね」
「くっ」
ルビーとの真剣勝負のはずが……最後まで打つこともなく結果は見えていた。
「では、また私の勝ちです。お嬢様には明日から一週間。午前は座学を、午後は淑女としてマナーおよび、ダンスのレッスンを受けていただきます」
ルビーから提案されたのは、私が勝てば勉強、貴族マナーの授業を一週間なしにするというもの。
あまりにも唐突で、あの時の私は……
素人相手ならと、私は勝てると思っていた。
これまでの授業は週四回だけで、午前中に終わるものだった。
しかし、一度負けた私は、午後の時間を掛けて勝負に挑んでしまった。
それだけに留まることはなく、次は日数を増やし……撃沈した。
ほんと賭け事って怖い……
「それじゃあ、ルビー。勝負よ!」
あの屈辱の日から二週間。
ルビーとトパーズにみっちりと扱かれ、ボロボロだった毎日の疲れも取れ、前回のオセロでは散々な結果だったが、今回は私にとって秘策がある。
今度こそ私は自由な時間を取り戻す。
「構いませんが、私の方に駒が二つほど足りていないのですが?」
「ほら、あれよ。大人と子供のハンデってやつよ。だから私も待ったなんて言わないわ」
「こういうときだけは、子供を利用されるのですね」
「うっ」
今こそオセロの雪辱を晴らす時。
テーブルゲームが強いのは分かったけど、近所のじいちゃんを打ち負かしたこの私だが、卑怯と言われようがそんな事はどうでもいい。
相手が素人のルビー相手に二枚落ちのハンデを付けさせた。
私の条件は以前と変わらず、一週間の授業免除である。
テーブルマナーだけならまだしも、歩き方、社交界のダンス、上品な言葉遣い等など私には過酷でしかない。
座学の勉強は、この世界で必要な知識だし別に退屈ではないのだけど。
しかし、勝負の世界においてこれは決して卑怯ではない、高度な戦略と戦術を兼ねたイカサマ。
早い話、勝てばいいのよ。勝てないはずがないでしょ。
一時間が経過。
おかしい、何かが圧倒的におかしい。
一枚しかないはずの飛車と角、それがなぜこちらを狙っているのだろうか?
一体どうしてこんなことに……私は何処で間違えた?
どこかに落とし穴が……あれ、ここままじゃ私詰むんじゃないの?
「待って! 今のはちょっと置き方を間違えた。ごめんね」
「待ったは無しではなかったのですか?」
「ちがうちがう。私が置き間違えただけなの」
「そうですか。私は一向に構いませんが」
オセロのときといい、ルビーって一体何者なの?
一度も対戦していないのに、私の手の内がバレているようなこの感じは一体どうして?
しかし、ここで負ければあの地獄がまたやってくる……それだけはなんとしてでも阻止しなければ。
「本当はこっちを動かそうと」
「なるほど、では……」
危ない危ない、あのままだったらすぐに詰むところだった。
王の隣ががら空きだと金を打たれれば終わっちゃうところだったよ。
「ここです」
「あ、あれ……ルビーお姉さん」
「待ったは無しですし、また間違えたなどと言わないですね」
王の守りを固めたのに意味なくない? 私の銀を狙うは、桂馬さん。
取れないし、逃げれないし取られると負けるし……打つ手なくない?
「ルビーあれは何なの?」
「なにか見えましたか?」
今だーー!!
邪魔だった角さんに二マスほど後退して頂いたのだ。
「鳥だったのかな、ごめんごめん」
「そうですか……これはこれは、随分と姑息なことを」
「な、何を言ってるのかなー。私の番だったよねー」
それからは、地獄だった。
攻めることを許されない攻撃の嵐。どんどんと減っていく駒を眺め、盤の上に残ったのは王一枚のみ。
そう、駒をすべて取られ、心折れた私を嬉しそうに見つめるルビーさん。
「参りました」
オセロでも負け、将棋でも負け。
普段からやらないにしてもあまりにもおかしくはないだろうか?
ああ、あれだ……私が弱いだけなのか?
「ルビー、強すぎて、辛い」
「何を仰っているのですか。もう少し相手の行動を考え、陣地を把握さえしていれば私程度、簡単に勝てると思われるのですが?」
「考えたよ、これなら行けるってちゃんと考えたよ」
「お嬢様には、こういったことには不向きなのかもしれませんね」
「はぁ、またあの一週間が続くのね」
落胆していた私はベッドに身を投げだすと、ルビーも珍しくベッドに腰を下ろしていた。
「それでは失礼いたします。罰ゲームというものでしたか? 私の言う通りにしてください」
これは果たして罰と言えるのだろうか?
負けた私は、ルビーに膝枕に頭を置きそして優しく撫でられている。
「これは罰なの?」
「ええ、大人くしくして頂くためです。それと今後あのような真似はしないでください。奴隷達との対戦であれば士気を下げてしまいます」
「ルビー相手にしかやらないよ」
「ですから、あのように卑怯なことはなさらないでくださいと言ってるのです。お分かりになりませんでしたか?」
「は、はい。もうしません」
言葉では鋭く感じたけど、撫でる手の優しさは変わらなかった。
ルビーはなんでこんなことを……
「眠くなったのでしたらそのままお眠りください」
久しぶりにルビーに撫でられ、その心地よさに瞼は自然と下がってくる。
「おやすみなさい……お嬢様」
0
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが
米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。
その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。
更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。
果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!?
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
異世界でもプログラム
北きつね
ファンタジー
俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。
とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。
火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。
転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。
魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる!
---
こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。
彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。
注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。
実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。
第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。
注)作者が楽しむ為に書いています。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。
スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい
兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる