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奴隷商人編

42 お嬢様はど素人相手でも全力です!

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 いつも向かっている街も何度も来ていたのだけど、そういえば町の名前って何だったっけ?
 よくよく考えたら、もしかして私って箱入り娘なのかな?
 これまでの自分の生活を思い返すと、出てくるのはどれも屋敷でのことばかり。
 外だって……それなり……に?

「この前だってちょっとだけ遠出しているし、街にも行ってるし……外に出る気がないんじゃなくて出る必要性がないから……はっ」

「お嬢様? いかがなされました?」

 ルビーの声によって我に返る。
 不思議そうに首を傾げているのだけど……見透かされてないなわよね?

「なんでもないよ、ほら入ろー」

「いらっしゃいませ」

「少し見させて貰ってもいいですか?」

「えっ!? は、はい。どうぞ!」

 カウンターに座っていた女の子は、私の姿を確認すると慌てて姿勢を正し頭を下げている。
 慌てるのも無理はないよね。こういう格好をしていると、到底平民には見えないよね。

 お店の中には、木材で作った家具がいくつか並べられていた。
 大きな家具ではなく、小物入れだったり、木箱と大きなものは食器棚に使うようなものが二つだけあった。

 平民向けの物だから、屋敷に置いてある物とは違い、仕上がりはかなり荒くなっている。
 あまり触っているとささくれが刺さりそう。ある程度のヤスリやカンナを使われているけど、できが良いとは言えないわね。

 だとするのなら、屋敷にある家具はかなり高価なものと考えて良いのかしらね。
 綺麗に磨かれていたし、何かの塗料も使われていた。品質の違いはこんなにも違うものなのね。

「あ、あのぅ。このような所ですと、貴族様のお目にかかるものはないかと思いますが」

「そんなことはないわよ。私のことはそんなに畏まらなくていいよ」

 それとも、これらはまだ未完成で販売が決まると手入れをされるのかもしれないわね。
 よくよく見てみると、このお店の壁やドアは、屋敷ほどではなかったけど綺麗に磨かれていた。
 それぐらいのことはできるのだとすれば、小さな木の板を使用するのに問題はなさそう。

「すみません。このぐらいの小さいテーブルじゃなくて、木の板……えっとなんて言えばいいのかな?」

「どのような物をお探しなのかは分かりませんが、工房にいるおとう……父に聞いてみてはいかがでしょうか?」

「それがいいかもしれないですね。すみませんがこちらを作っている工房は、どちらにになりますか? 工房を見させて頂きたいのですが」

「工房にですか? それは店の裏になりますが、貴族様が見て頂くような場所ではないですよ?」

「いいよいいよ、私は多分貴族ではないだろうし」

 そう見えなくもないのだろうけど……実際はどうなのかな?
 ルビーからは特に否定もないみたいだし、奴隷商人の養子だから貴族なんてありえないよね。

 あれ? 領主の妹だと……まてよ、領主の父親が奴隷商人だけどそれはありじゃないよね? 
 妹も奴隷商人だし。婿養子でも許されないよね?

 それは私の考えか、この世界だと別に問題はないだけとして、私って貴族になる?
 でも、兄様と私は名字が違うから……うん、保留で。
 ルビーに聞いても答えてくれなさそうだし。というよりも、あの爺さんは今頃どこで何をしているのやら……

 奥の工房に案内され、そこは木の香りで充満していた。
 様々に木材がそこいら中に乱雑に置かれ、職人は二人ほどいたが私を見るなり手を止め一礼するも表情は険しい。

 仕事の邪魔をしにきた貴族とでも思われているのだろう。
 お、このぐらいのサイズなら丁度いいのかもしれない。

「申し訳ないが、勝手に触らないでもらえますかい?」

「ごめんなさい。私が思っていたサイズに丁度いいと思ったので」

 将棋は縦横九マスで、オセロは多分八マスだったはず。
 中途半端な知識だとうろ覚えになってしまう。将棋だと駒があるから分かりやすいのだけどね。

「お嬢さん、申し訳ないがこんな工房に一体何のようだい?」

「お父さん。この方は、なにか作って欲しいらしいの……だけど」

「申し遅れました、イクミ・グセナーレと申します。遊具を作りたいのですが手を貸していただければと思いまして」

「イクミ・グセナーレ……グセナーレ家のお嬢様? これは、た、大変失礼しました。この工房の職人ラドレンと申します」

 えっと、私の名前を知っているぐらいは、いや家の名前か……強面の職人は今にも土下座しそうなほどオロオロとしだしさっきの威勢は、どこか旅にでかけたご様子。
 グセナーレの名前はこの辺りだと有名なのかしらね。

 ルビーも態度を改めてからは、鋭い目つきはなくなっている。
 この場合どっちが強いのかよく分からなくなる。

「いきなり押し付けたようですみません。お話いいですか?」

「ももも、勿論でございます。遊具のということですが……おれ、いや私なんかに務まるでしょうか?」

「そんなに難しい加工では……素人の私が言うのも、あてにはなりませんね。それと、そんなに改まらいでください。返ってこちらが気にしてしまいます」

 こんなにも態度を変えられても心苦しい。
 私は爺さんの気まぐれで、グセナーレ家の養子になっただけの元奴隷娘だから。
 それに、あまり下手に出すぎるとルビーからの説教もありそう……私の立場って非情に面倒なことになっていない?
 これって何処に行っても同じようなことになるのかな?

「まずはこちらを見てください」

「あの、ええっと、なんと申しましょうか……これはどういったものですかい?」

「これはオセロというものでして、どういった遊びなのか実際に試してみましょう」

 事前に用意していた、マスを書いた紙を取り出し硬貨の入った袋をテーブルに置いた。

「このマス目の紙がオセロ盤になります」

「オセロ? それは一体どのようなものですかい?」

「まずは、一回対戦しましょう。ルールは簡単なので、遊びながら説明します」

 銅貨と銀貨を左右に並べ、真ん中に並べる。
 流石に銀貨を渡せば間違いなく指摘が入るだろうから、銅貨を職人のラドレンさんの右側においた。

「これは一体……」

「実際にはお金は使いません。色分けできている物がありませんでしたので、硬貨はただの代用です。開始の前に中央の盤にこの様な配置に並べます。これで準備は整いました」

 ラドレンさんはその様子をじっと見つめている。
 さっきとは違い、これをどのように作れるのを考えているのかもしれない。
 全然目が違うからね。

「説明も兼ねて初めますので、先攻は私から。ではここに、このように挟まれた硬貨は私の硬貨の色へと変わります」

「なるほど……」

「ラドレンさんの出番ですよ。置くときは必ず、相手の硬貨を挟める場所に置くこと、場合によっては色を変えれないこともあります。その場合は相手の番に変わります」

「ではここに……」

 ゲームは進み、何気に置いていただけのラドレンさんも置き方を考えだし始めていたが結果は私の勝ち。
 初心者相手とはいえ、久しぶりにオセロをやっていて楽しくもあった。
 まあ、二手三手先を見ていた私にスキはない。
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