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奴隷商人編

40 お嬢様と一緒に

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 屋敷のときもそうだったけど、子供たちの様子からしても、この世界の奴隷は基本的に飢えているように思う。
 こんな一端を解決した所で、何も変わらないし奴隷制度を無くすなんて各国が承認するわけがない。
 だからこそ、私の中に浮かんだ疑問が恐らく大きく関係している。

「言ったとおり美味しかったでしょ?」

「くっ」

 私に言われて気に入らないのか、スプーンをギュッと握りしめるものの、投げつけようとはしなかった。
 クロが隣りにいるから、そんな事をしても意味がないのかを悟ったのかしらね。

「お嬢様、明日はどうされるおつもりですか?」

「それなんだけどね、私も正直困っている。返したいのは山々だけど、彼女の協力がなければ帰るのは難しいと思うの。それにね、子供たちの体力が持つかどうかが心配なのよ」

 少女ほうは身体的に、もしくは精神的なものがあってか弱っている。
 空腹だと思うのだけど、男の子と違って食があまり進んでいない。
 これまでの間、どんな仕打ちを受けてきたのかはわからない。今の私にどうにかできるとも思えない。

「だからこのまま屋敷に戻って、子供たちを回復を待ってから集落を目指そうかと思うの」

「かしこまりました。では、冒険部隊に伝えてまいります。クロ、お嬢様のことお願いします」

「はい。指一本触れさせません」

「奴隷でもないお前が、なぜこんな小娘に肩入れをする」

 なんでそんなに好戦的なんだろう。もしかして、エルフって皆こういう所があるから他の種族と交流がないのかな?
 子供だから抵抗が少ないのか、歯向かうようなことはなさそうに見える。
 問題は彼女の方……気長に向き合うしかなさそうね。


   * * *


 ルビーは、手を繋いで眠るイクミの布団をかけ直し、頭を少しの間撫で続けていた。

「イクミ様は?」

 イクミ専用のテントから出てくるルビーに、クロが中の様子を伺う。
 奇襲のことが提案されたことで、冒険部隊の多くは休みを取ることもなく周辺に散らばり警戒にあたっていた。

「先程、お休みになられました。あのエルフ……本当に大丈夫なのでしょうか?」

 ルビーは、イクミの隣で寝ている少女ではなく、縄を解かれたエルフを気にしていた。
 魔石と首輪の効力を考えても木に縛っていたほうが、ルビー達にとっても安心ができるものだった。

『クロ、その人の縄を解いて』

『イクミ様、そんな事をしては……』

『大丈夫よ。ここには皆が居るからね』

 協力が得られないと困るからと、そして相手を安心させるために縄を解いた。
 もちろんその程度では信用は得られなかったが、攻撃する様子がないため数人の見張りをつけている程度で済ませている。

「任せてください、夜通しでお守りします。ルビー様も中で休まれますか?」

「いえ、遠慮しておきます」

「そうですか」

 イクミの隣で眠るエルフの少女。
 酷い扱いを受けていたことで衰弱していた。かなり辛そうにしていたこともあり、その姿を見ていたイクミはゆっくりと眠れるようにと、自分の所に招いていた。

 もう一人の男の子は、傷はポーションで治っている。男の子だけあるのか、剣に興味を示し、何人かの奴隷達が見せびらかしていた。
 持ちたいのだろうが、許可が下りていないため誰一人として剣を触らせようとする者はいなかった。

「以前、イクミ様が言っていたのですが」

「何をでしょうか?」

 イクミの突拍子もない事を言い出すのは今に始まったことではない。
 また何かを言い出したのだろうと、ルビーは軽いため息が漏れていた。

「なんでも魔獣を飼えないかってボヤいていたのですが……あのエルフみたいなのを想像していたのですかね?」

 クロの言葉に、ルビーは首を横に振った。
 この世界で日本のようなペットというものはなく、家畜ならともかく魔獣ともなると話は大きく変わってくる。

 奴隷を奴隷として扱わないイクミが、仮に魔獣を手懐ける事ができた場合。
 何も考えることもなく手を差し出すのをルビーには容易に想像ができていた。

「魔獣を、ですか? いくらお嬢様が欲しいとはいえ、それはいくらなんでも無理です」

「ですよね……イクミ様ってホント不思議な方ですね。私達にも優しいですし、他の皆もあの頃と比べて生き生きとしている。奴隷に給金って私は初めて知りましたよ」

「……彼からすると、この世界のほうが不思議なのでしょう」

「彼?」

「いえ、何でもありません。私も休みますのでお嬢様のことよろしくお願い致します」

 ルビーの呟いた言葉に首を傾げるクロだったが、彼が誰を指しているかを理解できないでいた。
 一度テントの中を確認して、二人の様子を見ると口元が緩んでいた。
 エルフの子供ではなく、自分が隣りにいることを想像して……



 クロは剣を抜いて、やって来た相手に対して剣先を向けていた。

「それで、何のようですか?」

「荒立てるつもりはない。あの子の様子を見に来ただけだ」

 彼女は両手を上げクロに対して敵意がないことを示していた。後ろに控えている見張りも、いつでも攻撃が届く範囲にいた。
 その状態にも関わらず、平然とテントまで踏み込んでくる度胸に、クロは殺気をあらわにして対抗する。

「イクミ様は寝てます。明日になれば起きてきますし、今確認する必要はないはず。それに、魔石ならバナンが持っているので、狙う相手が違う」

「そうか……さっきはすまなかった」

 中を確認しに来たというのに、何を思ったのか謝罪をされ、あっさりと引き下がろうとしているのでクロは呆気にとられていた。

「謝罪する相手が違うと思いますよ」

「獣と罵ったことだ、すまなかった」

「イクミ様には?」

 彼女は何も言わず、自分に用意されていた寝床へと戻っていく。
 クロは毛を逆立て威嚇していたが、やりようのない怒りをぶつけることができないため再びイクミの寝姿を見て顔を綻ばせていた。
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