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奴隷商人編

39 お嬢様とエルフの子供

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 魔法を使おうにも、首輪がその魔力に反応し中心にある宝玉が光り魔法を妨害するらしい。
 それさえ無くなれば、彼女にとって唯一の好機。
 だけど、彼女の力では何重にも巻かれた縄を引きちぎることが出来ない。

「あのね、私を人質に取ろうものならそれは返って逆効果になるかもしれないわ。こちらは迷わず子供を人質に取るでしょ? そもそも、私の奴隷達は何をしでかすかわからないよ? 例えば、村を探し根絶やしするとか?」

「そのような戯言」

「お嬢様が仮に殺されたのでしたら。私はこの世界にいるエルフを全て駆逐するまでです。そのためなら手段は問いません」

「お嬢が殺されたりしたら……か。姉御の言うように、エルフを見たら殺せになるかもしれん」

「とまあ、ここには私のこととなると頭のおかしいのが多いからね。まあ、冗談だから安心してね」

「イクミ様。私は本気ですよ、イクミ様を馬鹿にした。こいつを殴りたくてウズウズしてますから」

 この三人の気迫に一体どこまで耐えるのだろう。それだけ自分の強さに自信があってのことかな。
 それにしても、この三人は言うことが怖い。
 私ってなんでそんなに愛されているの?
 慕ってくれるのは良いのだけど、流石に行き過ぎてないの? 流れに任せた冗談なんだよね?

「それよりもいい加減、名前を教えてくれない?」

「だんまりのようですね。イクミ様、私に考えがあります。よろしいですか?」

「うん、いいわよ。手荒な真似はしないようにね」

「はい。もちろんです」

 クロは子供たちの前に座るが、皆怯えていて肩を寄せ合っている。
 その様子だと、それなりに怖い目に合わされたのか……
 何をするつもりかはわからないけど、いざとなれば大声で言えばクロも止まると思う。
 なにかの策があるかもしれないから今は任せてもいいかな。

「き、貴様」

「ねえ、村に帰りたいでしょ?」

「え?」

「あのね……イクミ様は貴方達を村に返してあげると言っている、偉大でお優しい御方なの。その様な御方が、わざわざ貴方達の守るために、奴隷商人からあなた達を開放したのよ」

 かなり話を盛っているけど、エルフの子供はクロの言うことに少し困惑しているように見える。
 私だってそんな言い方をされると不審でしか無いわよ?

「本当に?」

「騙さるな! そいつは村を襲い、いつか私達を奴隷にするつもりだ」

「イクミ様がそのようなことするはず無いでしょう。これだから頭の固いエルフは嫌ですねー。イクミ様の心の広さと、温かい慈悲溢れる姿を見ても……」

「クロ、いい加減にして。全く」

 私はクロの頭を軽く叩き、意味のわからない熱弁を止めさせた。
 子供たちに向けられる視線がちょっと怖いからそれ以上何も言わないでね。
 このままだと話は進みそうにないし、三人からすればこの人は邪魔な存在になる。

「例えばだけどね、バナン。この人だけもう面倒だからこのまま開放する? 子供たちの方は、皆の力を使って広げるか……」

「私は反対です。お嬢様のお金を無駄にするなんて、とんでもございません」

「どう使おうと勝手だがよ。やるって決めたんなら筋は通すもんだろ。さっきのこともあるんだし他のものにも示しがつかなくなるぜ」

「はい。ごめんなさい。もう言いません。となるのだけど、貴方の提案は変わらない?」

 私のお腹からはくぅっと小さく音を鳴らしている。
 エルフの子供たちからも先程から何度も聞こえている。夕食の匂いに誘われているのだろう。
 私が居ると皆そのまま食べないだろうから、子供たちを優先させますか。

「エルフのことはとりあえず今は良いわ。クロ、子供たちは枷を外してあげて。流石に魔法は面倒だから首輪はそのままでいいわ。私もお腹空いたし、皆ご飯にしましょ」

 バナンとクロに連れられて、広場の方へと子供たちを連れて行った。
 彼女からは舌打ちが聞こえてきたけど、いちいち反応する気にもなれない。
 やっぱりと言うべきか、クロがキッと睨みつけている。
 
 それから、子供たちには二人ほど付き添わせある程度自由にしたのだが……冒険部隊の皆は子供が好きなのだろうか?
 仲良くやっているようにも思うけど、打ち解けてくれるのなら別にいいか。
 目的を忘れていないと良いのだけどね。

「おい、私は何故ここに居る」

「なんでって、そこにいれば子供たちが無事なのがわかるでしょ?」

 一人だけ離れた所だと可哀相なので、わざわざこっちに連れてきたのに、この言われようにも慣れつつある。
 というよりも、面倒なので諦めたという方が合ってるかな?

「あの子達だって、あんなに楽しそうにご飯食べてるじゃない。貴方も早く食べなさいよ。毒なんて入ってないんだし」

「お前たち人間族が言うことなんて誰が信用するか」

「美味しいシチューなのにね」

 私は、持っていたスプーンで彼女に用意されたシチューを掬い口に入れる。
 いつもながら美味しいわね。

「ほら、大丈夫でしょ?」

「お前が口にしたものを私に食べろというのか」

 いや、本当に面倒くさい。
 どの道食べてもらわないとこれから先、倒れられて困るのは私達なんだよね。
 どうすれば良いのやら。

「いらないの? 美味しいよ?」

「人間の施しなどいらん」

「もう本当にうるさいな。ルビー、バナン、クロ。なかなか片付かないし、無理矢理にでも食べさせてあげて」

「かしこまりました」

 バナンは彼女を羽交い締めにし、クロが強引に口を開け、ルビーが嫌そうな顔をしつつスプーンを口に運ぶ。
 その後は思っていたとおり早かった。
 空腹だった彼女は、一口目を吐き出そうとした。
 だけど、その旨さに我を忘れルビーからスプーンを奪いもの凄い勢いで食べ始めたのだ。
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