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奴隷商人編

38 お嬢様の茶番劇?

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「私は幼い日に見たメイド姿をした女性に憧れておりました。ですが、親に売られ娼婦としての辛い日々を過ごしておりました。そんな私を、お嬢様は汚らしく扱うこともなく、先日のお話も深く頭を下げておられました。そのような御方にお仕えできること、奴隷である私に、人として生きる希望くださった」

「貴方達が言うようなそんな立派な……人間じゃないよ私は。だって貴方には……」

 私は優しく抱きしめられ、皆の顔を見ていく。
 誰もが笑顔を見せている。
 私は何を間違えたの? 奴隷である皆を人と見るのは当たり前で、だけど私は皆を使い、道具にしていることに変わりはない。

「そんな事はありません。ご自分を苦しめないでください。私達はお嬢様のために生きることが、幸福に包まれる思いなのです」

「褒められることの喜び。お嬢様からすればそれだけと仰るかもしれませんが、それこそが生きる希望なのです」

 生きる希望?
 ああ、そうか……そうだった。優秀な兄は何もかもが与えられ、出来の悪かった私は高校を卒業して就職した。
 辛い会社だったが、怒られたり、褒められたり、それが嬉しくて仕事を何よりも優先していたんだ。
 ただ居るというだけの家族からの無関心ほど辛いものはなかった。

 だからあの時、私はイライラしていたのは……皆は褒められるようなことをしたのに、あの頃のようにテストで良い点をとったときも、褒められようと見せて何も言われず、何もかも諦めていた私とどこか重ねていたのだろうか?

「ですから、奴隷を新しく増やすということに私は嬉しく思いました。イクミ様でしたらまた救ってくださると」

「私が救う?」

「ええ、たまにチロが言うんですよ。私にはお嬢様の奴隷紋があるんだよって、今の私にはその証がないので……」

「そんなこと……」

「それが結構、悔しいと思うこともあるんですよ。私にはその証がありませんから。皆も同じだと思われます。お嬢様の紋様に誇りを持っていると……」

「くだらん詭弁だな。奴隷に救いなどあるものか!」

 ルビー達は、その声の持ち主に怒りに満ちた視線を向けていた。

「今なんと仰りました?」

「詭弁だと言ったのだ。奴隷紋を持った者に救いなどあるはずもない」

 子供たちはビクビクと怯え、彼女から向けられた視線はまるで哀れんでいるようにも思えた。
 メイドたちは、私を守るように二人は私を抱き寄せていた。
 木にくくりつけられているというのに、威勢だけは凄いなこの人。

 それにしても……詭弁か。
 確かにそうだ。奴隷である皆が私に嫌わない。敬う。
 奴隷だからそれが当たり前で、奴隷紋の主に逆らうなんてあり得ない。

「あの状況を見ておられなかったのですか?」

「奴隷紋を使いあの様なことをして、その小娘が悦に至っている時点で、実にくだらん茶番だと言っている」

「つまり、お嬢様が私達に命令をさせて貴方に見てせいたとでも?」

「そうだ」

「ふざけないで、貴方にお嬢様の何がわかるというの?」

「お嬢様は決してそのような方ではございません。少し間が抜けたところもあり、だらしないところも数多くありますが、お嬢様はそんな事をするために奴隷紋を使うはずはありません」

「そうですよ、この間だって……」

 ちょっと……あの、私を褒めているのか、貶しているのかどっちなの?
 そろそろ辞めてくれない? ルビーの視線が結構怖くなっているからさ!

「貴方達、そのへんにでいいでしょう。これを見てもまだ分かりませんか? お嬢様には後でじっくりとお聞きしますので……」

「ひっ」

「お嬢様のお言葉は絶対です。貴方のような小物に何が出来るというのですか?」

 メイド達の怒りのよる震えか、私が二人の手を握ると少し落ち着きを取り戻したようだった。
 でもまあ、私も少し落ち着いたわ。これまで称賛しかなかったのに、怒りに任せた事もあってそんな事を言ってくれたことに少しだけホッとしていた。

 あのエルフには誤解されたとしても、目的はエルフ達を集落に送ればいいだけだから、弁明する必要もない。
 たけど、エルフを村に返すと言った言葉に嘘はない。恐らく集落の場所を覚えている彼女の協力は必要なる……

「それにしてもイクミ様。あの人、馬鹿なんですか?」

「私に振らないでよ。敵対されるのは想定内のことだし。私はただ、エルフ達を集落に帰せば、もう会うこともないでしょ。別にいいんじゃないの言いたいように言わせていれば」

 他種族との交流のないエルフだからこういった態度をとっているのか、それともこの人がただ単に何も考えていないのか。
 交流がないということは、私達だけでは彼女たちを村に返すのは難しい。
 だから、手を貸してもらえないのは少し困る。

「私達を帰すとはどういうことだ?」

「言葉通りだけど、信用しろっていうほうが無理よね。とりあえず名前を教えてくれる?」

「私の質問に答えろ」

「村に帰すって言ったでしょ? 意味が分からないの?」

「そんなこと信用できるか」

 やっぱりこうなるよね。
 さて、何から説明……信用されてもいないしまずは子供達から説得していくのが一番なのかもしれない。
 どういった状況で奴隷になったのかはわからないけど、子供たちを気にかけているのは間違いないと思いたい。

「それなら貴方は私にどうして欲しいの?」

「私達を開放すればいいだけだ。後は自分たちで帰る」

「馬鹿かなと思ったんだけど、やっぱり馬鹿で確定ですね」

「なんだと。獣風情が!」

 その発言は少し腹が立つ。
 クロは獣人だけど、獣扱いされるのは許せない。
 今にも暴れそうなクロの手を掴み後ろに下がらせた。

「いい? 子供は二人。貴方は腕に自信かあるのかわからないけど、子供たちはまるで戦力にはならない、むしろ足手まといになる。この辺りにも魔物が潜んでいるというのに、武器はどうするつもり?」

 集落がどこにあるのかは分からない。だけど、痩せ細った体からして長い間あの場所にいたのか、遠くから連れ去られてきたか……
 子供たちに比べ、彼女の体は傷があるもののそれほど痩せている様子はない。
 食べ物すら満足にいかない状態で、何時まで逃げ切れるというのだろう。
 あの奴隷商人の数からして、エルフを狙うものはそれなりにいると考えてもいい。 

「例えばの話ね、あの奴隷商人が子供を人質に取り、貴方はどうするのかしら? 仮に一人を見殺しにして、なんとか逃げ延びても、食べるものは? 飲まず食わずにいつまで逃げていられるの? 最終的には私が出したお金は無駄になり、貴方達は私でない他の誰かに買われるか、それか野垂れ死ぬことになる。めでたしめでたしと、それでいいの?」

 今の表情から、子供を助けようとしたが人質に取られ自分も捕まってしまったのかな?
 縄がなかったら今にでも襲いかかりそうな顔をしているわね。
 あの下衆奴隷商人のことだから、高値で売れるこの子達を求めて、私達を襲ってくる可能性もありそう。

 冒険部隊もそれを見越してか、カッシュをつれて周辺の警備に行っているみたいね。それに、かなり殺伐としていたみたいだから奇襲に対して警戒をしているのかも。
 もうじき夜になるから、可能性はあると思っていたほうがいいわね。

「よく考えなさい。貴方が守りたいものは何? 今は、そのためなら使えものは何でも使いなさい。そのくだらないプライドは、子供達よりも大切なの?」

 彼女は隣の木々に縛られている子供たちを見て、私の体を上から下へと見定めているようにも見えた。
 そして、ルビーにバナン……テントに置いてある魔石も当然確認しているようね。
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