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奴隷商人編

25 お嬢様と犯罪奴隷

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 目が覚めると、私はベッドに寝かされていることが気がついた。
 良く覚えてはいないけど、前世の嫌な夢を見ていたような気がする。
 体を起こすというだけで、かなりの疲労を感じる。

「ああ、そうか。私……倒れたんだっけ」

 奴隷達の思考が理解できず、魔力量の少ない私が二回も奴隷紋開放をしたことで魔力は底をついて、話をしているうちに倒れてしまったのね。
 あの後どうなったのか、クロの変わりように私は理解できないでいた。

 自暴自棄な言動を繰り返し、クロはどうしているのかしら。チロにも悪いことをしてしまった。
 あんな事はもう二度としたくはないな……姿形は変わっても、根幹は何も変わっていないということなのかもしれないわね。

「お嬢様。おはようございます」

「おはようルビー。少しひどい顔よ?」

「それはお互い様というものですよ。朝食は食べられそうですか?」

 歩くのですらつらい状態のため、寝室に用意されていた簡単な食事を終えると、ルビーは私を抱え執務室の扉を開くとバナンとクロが待っていた。
 昨日の話の続きをするのだろう。

「ごめんなさい。迷惑をかけたね」

「お嬢、体は大丈夫ですか?」

「大丈夫。しばらくゆっくりしていれば楽になるよ」

「お嬢様……」

 クロに近寄ると、昨日と同じように片膝をついた。
 奴隷を開放したのにも関わらずこの対応。彼女がきっかけになってくれるのだろうか?
 昨日はあれからどんな話があったのだろう……二人共顔色はあまり良くはなさそうに見える。

「クロ。ごめんなさい。私にはまだ貴方のことが信じられないの」

「では、お体が回復されたあと、奴隷紋を刻んでください」

「ううん。その必要はないわ」

「ですが!」

 私はまだ奴隷たちのことを信用できていない。
 価値観の違いによって、まだまだ知らないことはたくさんある。

「私のそばで、私が皆のことを信頼できるきっかけになって欲しいの。だから、護衛の件お願いね」

「この命に替えましても我が主、イクミ様をお守り致します」

「よろしく。クロ」

「はい、イクミ様!?」

 クロの頭を抱きかかえ、小さく謝罪の言葉を掛けた。
 さっき起きたばかりなのに、まぶたが重くなり目が開かない。

 奴隷商人。ゲームやアニメなどでは最低な人物として描かれることが多い。
 そして、私はその奴隷商人となった。
 最初は命令に逆らえないから、逆らうと苦痛を与えれる。
 奴隷紋があるから私の言うことに皆が従っていた。
 それが普通で、心の奥底には私の敵意があるのだとどんなに取り繕うが私はそう核心していた。

 それなのに、奴隷達は報酬の金額が徐々に減っていることに気が付き、危険にも関わらず遠征をするためにバナンの奴隷解放を求めた。
 リーダーにしていたから、バナンを開放ということになったのだろう。
 しかし、なぜバナンがリーダーなのかは、私の近くにたまたま居たというだけだった。

 うまくまとめたのか、そこに至るまでにどれほどの苦労があったのかなんて私にはわからない。
 報告を持ってきていたのはトパーズ。
 だけど、金額しか見ていない私は、反発がなくなればいいやって程度の、ごくごく僅かな給金とは名ばかりのはした金。

 子供たちだって、これからどう使えるかわからないから、文字を覚えさせ、体を鍛えさせ、自由な時間だってほんの僅か。
 それなのに、私を見るたび嬉しそうに笑って手を振っていた。

 人を平然と殺した私は、最低の人間に落ちたと思っていた……

 この屋敷いた奴隷の中に四人ほど犯罪奴隷が居た。
 多くの人々を襲い、殺して奪う、山賊だった。その罪状を見て嫌悪するのに時間はそうかからなかった。

 彼らと始めてあったのあの日。
 私は犯罪奴隷を処分命令をくだした。

 ルビーは見る必要はないと言ったが、私には最後を見届ける必要があった。
 殺すのは私ではなかったけど、処分するよう命じたのは私だからだ。

 最後の一人が死ぬ間際に奴隷紋に逆らい大声で私に言った。

『お前みたいな奴隷商人のほうが、俺たちよりもよっぽど重罪だ』

 その言葉に私は否定できるはずもなかった。
 その日だけで私は四人の人間を殺したのだから。
 どれだけの悪人だろうと、私の言葉一つでここに居る人の命を消せる。
 私の奴隷であればそれだけで、生かすの殺すも自分の意志のまま。

 あの日は屋敷に戻ると、奴隷達が急に怖くなった。
 例えば私が癇癪でも起こし『死ね』といえば奴隷達は死を選ぶ。
 そうしてしまった場合、私は……いつまで自分を保っていられるだろうか。

「私は、皆が楽しく暮らせればそれで良かっただけなのに」

 犯罪を犯した奴隷達は一向に改心という物が見られず、奴隷紋の痛みがあるにも関わらず浴びせるのは罵倒ばかり。
 生きるためには食べ物が必要だった、けれどあんな奴の相手にする使用人たちに苦労をかけたくはなかった。
 それだけ理由で……私は。

「人を殺した、私が……誰かに慕われるなんてありえない」

 始まりは爺さんの気まぐれに過ぎない。
 奴隷紋が消えた私に面白半分で養子にして奴隷商人に駆り立てた。
 爺さんには恨みはなし、知らない世界の私を信じこの世界のことを教えてくれた。
 言いたいことはあるが、今度あったら色々と問い詰めたい。
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