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奴隷商人編

23 お嬢様の護衛?

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「こんにちはー」

 冒険者ギルドの中へと入り以前会った受付のお姉さんに声をかける。

「あら、いつかのお嬢様。えっと、確かトパーズさんの」

「覚えてくれてて嬉しいよ。今日はね、バナンを登録して欲しいんだ。それにしても前に比べて人が少なくなってない?」

 頻繁に来るようなことはなかったのだけど、冒険者たちが屯していてもおかしくはないのに、数人の冒険者達は浮かない顔をしていた。

「それはさっきも言ったとおり俺たちのせいなんだ。冒険者は本来少人数なんだ。大体は四から八人ぐらいで、多すぎると当然分前が減る。そうなりゃ幾つもの依頼をこなす必要がある」

「それは私に対してのやっかみで、かなりよろしくない状況ってことかしら?」

「そういうわけでもないのだがな。俺たちは本来四人でできることも、その倍以上の人数で行うものだから、以来の完了も早し危険度も低くなる。だから、此処に居た冒険者たちは他の街に移って行ったりしている」

 なるほどね、依頼を毎度毎度早くこなすものだから、掲示板にある紙の量からここがどんな状況なのかよく分かる。
 残っているのは、それなりに危険なものか、遠出が必要になるものだけ?

「なるほどね。トパーズの報告も結構適当だったのね。それにしても採集依頼すら残ってないのね」

「ええ、そうなんですよ。トパーズさんのおかげで薬師の所の在庫が飽和状態らしいです。討伐依頼もバナンさん達に任せているようですが、治癒のポーションは買ってくれないし使っていないものですから。在庫が一向に減らないので今は依頼していないんですよ」

 ポーションは怪我をしたときには必要なもののはず、あのトパーズだからそんな事をさせていなかったのかしら?
 ポーションの在庫が減らないとはいっても、他の街でなら必要なのでは?
 流通はしていないというの?

「ポーションを使っていない? バナン、怪我をした人が居ても放置していたの?」

「いえいえ、違うんです。皆さん怪我すらしていないんですよ。それなのに、採集依頼かと思えば、ついでにゴブリンは倒してくるわ、予定以上の魔物は討伐してくるわ、かと思えばオークの集落があったからとりあえず潰しておいただの、もうむちゃくちゃです」

 ああ、既視感を感じるわね……私にもそんなこと言ってたような気がするよ。
 何度注意してもあの馬鹿みたいな報告を見ていると、もういいかなって感じになっちゃったし。そんな机をバンバン叩いて、手は痛くないのかしら?

「なんかすみません。それだと他の冒険者からの嫌がらせとかあったんじゃないの?」

「まあ、無いとは言わないが……お嬢はルビーの姉御が五人いたとして、あえて相手にしたいですか?」

 なにそれ怖い。ルビーが五人とか、考えるだけで恐怖しか無いよ?
 ルビーから視線を感じるのだけど気にしてはいけない。そして、見てはいけない。

「そっか。ねぇお姉さん、トパーズのランクをバナンに移行とかできない? 今後はバナンが依頼することになるのだけど。もう奴隷じゃないから登録はできるよね?」

「そういった事はできませんので、ご了承ください。というか、トパーズさんはもうここには来なくなるのですか?」

「そうなるのかな?」

 バナンが主体となるのだし、トパーズは今後ギルドに来る必要はなくなるか。
 まあ、もともとトパーズも受注と完了報告しかしていないのだから、今後全部バナンに任せてもいいかな。

「そうですね、今はバナンが部隊長ですし、あの子にはもう少ししっかりと屋敷で働いて貰いましょう。ええ、そうしましょう」

「そうなんですか。せっかくお友達になれて、おしゃべり楽しかったのに」

 友達って……一体どんな会話をしていたのやら。
 そして、あのルビーの様子。トパーズ、貴方は一体何をやらかしていたの?
 奴隷でなくなったということで、バナンの登録に終わったもののランクは振り出しとなってしまう。

「また最初のランクからみたいだけど頑張ってね」

「大丈夫ですよ、お嬢。俺らはしっかり暴れてきますから」

 そう言って力こぶを見せている。
 最初の頃から比べてかなり逞しくなっているわね。そりゃまあ、皆あれだけ食べていたらそうなるわよね。

「うん、でも無理はしちゃ駄目だよ」

「ええ、無理だと思えばちゃんと引き返します。お嬢の大切な奴隷を扱うんだからな」

「分かってるね。今まで通り頑張ってね」

「あ、あ、駄目ですよ! バナンさん無茶なことはしないでくださいよ」

 そう、無理をしないのであれば私から言うことはない。
 受付のお姉さんがなんと言おうとも、私が止めない限りこの脳筋部隊は、際限なく食い散らかすだろう。

 ここを離れて、他の街に出かけるということは、私の意見なんてきっと無視するに決まっている。
 しかし、無理でなければいいのである。それぐらいバナンは分かっていると思う。
 だから、お手々痛くないですか?

「そうそう、無理はだめだからね。無理は」

「は、心得ております。絶対に、無理はしません」

「絶対に分かってないですよ。もうやだよ、素材の整理だってまだ終わっていないのに、私ここ最近ずっっっっっっっつつつと、ギルドに篭もり放しなんですよ? お家に帰りたい」

 さあて、何のことやら……バナンの方を見ると愉快に笑っている。
 魔物の一部は素材として価値があるものが運ばれてくる。冒険部隊によって討伐した魔物の数はかなり多い、その素材を毎度毎度持ち込んでいるみたいね。
 肉はある程度食べたりしているんだろうけど、素材ってどんな物があるのか一度見てみたいかな。

 屋敷に戻ると、休みになっているにも関わらず冒険部隊は鍛錬を欠かさずやっていた。
 一部の子供も、冒険者たちに混ざり剣術などの訓練をしている。
 将来が有望そうでなりよりと言ったところね。

「それはそうと、クロのことなんだが」

「クロ? 獣人のお姉さんだっけ?」

「はい。あいつをお嬢の護衛にどうですか? 腕は立つし戦力も相当なものです」

 クロを探すと、懸命に素振りをしていた。
 その眼差しは真剣そのもので、隣に妹も一緒になって剣を振っている。

「そうは言うけどさ、私に敵意しか無いようにも思うけどな」

「そんな事はないはずだ。一度腹割って話してみたらどうだ?」

 執務室に戻り、バナンにはクロを呼んでもらっている。
 ルビーからも、今後外に行くときにも役に立つのではと推薦された。
 近々、領主様のパーティーも控えていることから、護衛はいたほうがいいのは分からなくもない。
 冒険部隊のその中でも、群を抜いて強いのがクロらしい。
 獣人特有の素早さが活かされているのかしら?

 ノックの後に、バナンとクロが部屋に入ってきた。
 私を見るなり一礼をしている様子からして、敵対をしていないようにも見える。
 しかし、それが本心なのかはまだわからないよね。

「私に何か御用ですか?」

「うん、バナンがね。私の護衛に貴方はどうかって言われたものだから。貴方の意見を聞きたいのよ」

 クロはバナンは違い、片膝を付き私に視線をずらすことなく見ていた。
 あの時とはまるで違う状況のようだけど……

「護衛を命じるのであれば、私に断る理由はありません。仰せのとおりご命令に従うのが奴隷です」

「命令よ。貴方の本心はどうなの? 答えなさい」

「はっ、お嬢様の護衛をしろというので、あればこの身を持って御身を守ります。ですが、命令でなくとも私は御身を守りたく思います」

 奴隷紋の効果はちゃんと働いているのだけど。
 私には彼女の本心が理解できないでいた。
 一人だけ見せしめにされ、何日もあの場所に捨てられていたはずなのに。
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