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奴隷商人編

22 お嬢様と冒険部隊

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 私が頷くと、後ろに控えていたルビーは私の隣に立ち、バナンもルビーをじっと見ていた。
 私は考えがまとまらず、一人で困惑していた。

「バナン。貴方はお嬢様のためなら、迷いなくその命を持って守ることができますか? お嬢様から死地に行けと言われたら、それに従えますか?」

「もちろんだ。護衛とあれば体を張って守り通す、ドラゴンを倒してこいと言われれば断る理由もない」

「では最後に、貴方はお嬢様に忠誠を誓えますか?」

「無論だ。最初からそのつもりでいる」

 何を言っているの?
 死地に向かうというのは、生き残る保証がないということ。
 依頼に対しても、私は無理をしないようにと何度も言い聞かせてきた。
 今バナンが言っているのは、私との約束を無視したもの。

「わかりました。このお金ですが、何故貴方がこれほどのお金を? 貴方だけのお金ではありませんね?」

「これは冒険部隊全員の金です。最近この辺りでは、俺達のせいで依頼が少なくなっている。日に日に、一部の部隊を待機させていることもある。だから、日帰りじゃないところでの依頼をこなせれればと思った次第です」

 それでもおかしい……自由の身でありながら私個人に仕える?
 給金もなく今までと何も変わらない状態で満足なの?
 依頼が少なくても、冒険部隊からの金額は少なくはない。
 それに留まらず更に稼ぐにはなにか意味があるのかしら?

「なるほど、そういうことでしたか。お嬢様、バナンを奴隷から開放し、忠誠を受け入れるのがよろしいかと思います」

「何が分かったというの? そもそも忠誠ってなんなの?」

「バナンの話からして、今問題となっているのはトパーズの件です」

「トパーズ?」

「お嬢様も御存知の通り、冒険者ギルドでは依頼の受注、完了の報告は全てギルドに登録をしている彼女を通す必要があります。彼女が街に出る程度であれば問題はなかったのですが、他の街での依頼であれば当然同行が必要になります」

 ギルドカードは、国で管理されているから他国でない限り何処の場所でも通用する。
 現状のままだと依頼そのものがないため、この現状を維持するということが難しいというわけね。
 なるほど、別の町で活動を増やしたいから、バナンなりに考え、皆で考えた結果ということね。

「ねえバナン。他の街での活動を増やしたいというのは、冒険部隊全員の意見なのかしら? それとも貴方個人?」

「我々全員の思いです」

「それは何のために、何故お金を増やすのかしら?」

「お嬢は、俺たち奴隷に良くしてくれている。夜遅くまで色々と思案されているのも知っている。俺にできることは冒険者としての稼ぎしか無い。だから、お嬢の助けになるのならと皆で話し合った結果です」

 何をするにしても、お金が必要になる。
 お金があるのならあるだけ十分な助けになる。
 バナンの様子からしても、ルビーは何も文句はないみたいだし。

 だけど、本当にいいのかしら?
 私だけが得をしているような関係で……落ち着いたら、何かしらの手当てを考えていたほうがいいわね。

「わかったわ、奴隷は冒険者登録はできない。そのためのトパーズだったよね。ごめんうっかりしていたよ、ではそのお金でバナンは奴隷を開放することを認める。でも、一つだけいいかしら」

「何でしょう?」

「私の元から去りたいのなら何時でも言うこと。いい?」

「わかりましたが、もとより去るつもりはありません」

 私は、これ以上の話は意味がないと思い、バナンの手にある紋様に手を翳し魔力を込めていく。
 奴隷紋の使用とは違い、開放に必要な魔力は膨大で少し目眩のようなものを感じる。

「奴隷紋解放!」

 バナンの手にある紋様は中に浮かび上がると砕け散った。
 私はソファに深く座り、少しだけ大きく息を吸い込んでいた。

「バナン、命令よ。そこに跪きなさい」

「はっ」

 バナンはソファから立ち、床の上に何の迷いもなく膝をついた。

「ん? あれ? 奴隷契約消えてないの?」

「お嬢様……奴隷は解消されても、まだ正式ではありませんが主従関係になります。バナン、そのまま立ってください」

 バナンはルビーの言う通り立ち上がり、奴隷紋の力が働いていないことを示すには十分な行動だった。
 そんな私の様子を見て、バナンはがははと豪快に笑っていた。

「お嬢ってどこか抜けているところがあるよな」

「う、うるさいわね。トパーズの冒険者管理をバナンが引き継ぐ、これからもよろしく頼むわね」

「お任せください、お嬢」

「それと、バナンが信頼できるという人がいれば、今度はこんな事をしないでその忠誠っていうの受けるから」

「受けるのではなくて受け入れるです」

 そういえば、トパーズって普段は何をしているのかな?
 屋敷ではあまり見かけないし、夕食にも顔を出すことは少ないよね。
 今度ルビーにでも聞いてみようかな。

「とりあえず、このお金どうしよう……返す?」

「それを返されると皆にどう言えばいいか……」

 金貨一枚分とは言え、平民からすれば大金に違いない。
 袋の中にぎっしりと入ったこれだけの銀貨や銅貨があるのに、たった一枚の金貨と同等とはね。皆が頑張ってくれたありがたいお金ではあるけど、使い道に少し困るわね。
 
「ルビー、バナン。これから街に行くわよ」

 二人を引き連れて武具屋の行きバナンの装備を新調させるには十分な金額だった。
 バナンからは勿体ないと何度も言われたが、十分な働きを期待すると言って言い聞かせることで、強引になんとか買わせることが出来たのだった。

 冒険者ギルドへと行きバナンを登録するために、ドアを開けたのだが……
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