お嬢様として異世界で暮らすことに！？

奴隷商人編

08 お嬢様の奴隷魔法

「それじゃ、この中で、火、水、土魔法のいずれかの魔法を使える人は手を上げて」

　奴隷魔法とは別に、この世界には様々なファンタジー特有の魔法は数多く存在している。
　この世界に来て、屋敷に置いてあった本を夜遅くまで読んでいてルビーに何度怒られたことか……いや、それはいいか。

　魔法は、魔力を使用して作り出した場合。使われていた魔力が尽きれば、その魔法の効果は消えてなくなる。
　水をコップに作り出したとしても、しばらくすれば消えて無くなる。しかし、火のように何かに燃え移った場合はそのまま燃え続ける。

　ここに居る奴隷達の多くは、借金による奴隷が多い。
　子供も数人居るが、魔物に襲われ孤児になったり親に売られた子供達だ。
　何らかの事情で生活ができなくなった者ですら奴隷になるほど、この世界では奴隷が当たり前のように存在している。

　また、お金をやり取りがシビアで、ある一定の期間で払えなくなると、奴隷商人に売り出されその代金を自身の借金を払う事が多い。
　ここに集まっているのはそう言った経緯のある奴隷たちだ。

　そして、ここにいる奴隷達の大半が経歴が冒険者。

　一般的な庶民の人でも魔法を使えるものは多い……らしい。侍女二人の話は、基準が違いすぎてよく分からないことも多い。
　メイドにした奴隷からの話だと、使える魔法は生活魔法というものらしく、火を付ける、風を起こす程度の単純なものでしかない。

　冒険者達は、魔物との戦闘、野営、ダンジョンなどの探索と幅広く様々な魔法を使っている。
　そのため、冒険者達は魔法を使用できる種類も多い。魔法を専門としている、魔導師はかなり重宝される……らしい。
　そもそも魔法というものは実際目にしてみないことには何とも言えない。

「まずは土魔法を使える人は、こっちに来て。火と水の人は近くで待機していて」

　屋敷の端へ移動し地面を使い絵を書いていく。地面に書いていたため伝えるのが難しい。
　奴隷達はその様子を見ているのだが何処かおどおどしている。

「普通に話しても大丈夫だよ。貴方達にこういう感じのものに変化されたりできる？　土をえぐって平らにして水を張っても大丈夫に頑丈なやつを」

「はい、時間をいただければ……ですがどのようにお使いになる物なのでしょうか？」

　図面だけではやっぱり伝わらないか。
　俺だけが分かってもしょうがない話だな。

「お風呂だよ。ここの浴槽に水を汲み上げて壁に水路を作る。外にあるこの場所に火魔法で焼いた石を入れて水の温度を上げる。水魔法で温水も出せるらしいけど維持が難しいでしょ？　だから、こうやって温めたほうが効率的だと思うのだけど、どうかな？」

「水魔法は井戸の水を使うのなら、要らないのではないでしょうか？」

　言いたいことは分からなくはない。
　これだけの面積ともなれば必要な水の量はとても多くなる。

「その水を桶で汲むよりも、魔法を使えば早いと思っただけよ」

「それはそうかも知れません、ですが何のために？」

　作るものは理解してくれたようだけど、何に使うかまでは理解されないとは予想外な質問だった。
　俺の答えに周りに居た奴隷たちも目を合わせるが、首を振る者も多い。

「何って、お風呂だって言ったでしょ、皆を綺麗にするためだよ。これから色々は人手も欲しいからね、皆に手伝って欲しいの」

「あの、私達奴隷ですよ？」

「そ、そうだ。こんなことをしてもあんたの利益にはならないぞ」

「今はそんなことはどうでもいいの。作れるの？　作れないの？」

　少し怒り口調になったのはまずかった。
　奴隷達はとたんに萎縮し始める。
　そんな中、震えながらも一人手を挙げる者が居た。

「ささ、先程も申し上げたように、お時間を頂ければなんとかなると思います。ただ、その、本当によろしいのでしょうか？」

「勿論だよ。浴場を作って皆で入浴。あ、でも、男と女は交代だからね。もちろん覗きも厳禁だから」

　構造もなんとか話し合うことができた。やっぱり奴隷という立場なのだろうか、私の意見に対して反論をすると言うだけでもかなり躊躇している。
　想像以上に、この問題の解決には時間がかかりそう。

　意見を求めたとしても、発言することはなく、私が提案するも何もかもは私のためだと勘違いされる。
　悩みのタネが生まれたものの、当初の目的はそれなりに時間はかかるけど作れるということで、奴隷たちは作業に取り掛かった。

「それじゃ、皆で頑張って作ってね。私は他にやることがあるから」

「何なんだあのチビは……」

「チビとはお嬢様のことですか？」

「わ、悪かったよ」

　何処からともなく現れたトパーズが、短剣を首に当てて俺のことを悪く言った奴隷に脅しをかけていた。
　それも今では必要そうだから、とくに何も言わないまま立ち去る。

「ほら、早く謝らないとプスッといきますよ？」

「トパーズ！！」

　トパーズの足にしがみつくと、掴んでいた奴隷を投げ飛ばし抱きしめられるが、宥めることはできたのだけど……頬ずりされるとは思わなかった。
　奴隷には俺が謝ると、奴隷達がまたオロオロしつつも謝罪を受け入れるという、おかしな事になってしまった。

　気を取り直して、残っている奴隷達が集まっている場所に戻った。
　お風呂に入れるのは、これまで奴隷たちが住んでいた衛生環境は悪いために必要なことだと思う。