あすきぃ!

海月大和

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番外

七夕の夜2

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「笹の葉さ~らさら~♪ のきばにゆれる~♪」

 上機嫌で歌いながら、しぃは笹に短冊をかけている。

「しぃ、なんて書いたんだ?」
「えっとね、『世界中の皆がお腹一杯食べられますように』」
「良い願い事だな」

 実にしぃらしい願い事だ。

「えへへ。ギコくんは何をお願いしたの?」

 照れくさそうに笑ったしぃは、俺が手にした短冊に顔を近づける。

「俺は……まだ書いてない。なかなか決まんなくてさ。いや~、願いことが多くて困るなぁ」

 そう言って、さりげなく俺は短冊を遠ざけた。

「そうなんだ?」
「う、うん。そうなんだよ」

 我ながら苦しい言い訳だが、素直なしぃは疑いもしない。

 仮に聞いたのがフサや流石兄弟ならすかさず意地の悪い鋭さを発揮したことだろう。あいつらが離れたところにいて良かった。

「お~いしぃちゃん、この団子ってもう食っていいの?」
「あ、ちょっと待ってね~。今お皿持ってくるから~」
「うい~」

 フサに呼ばれたしぃは、ぱたぱたと屋上を出て行った。

 それを見送り、俺は手の中の紙を見る。
 
『平穏な一日が欲しいです』
 
 特に深く考えずにこの願い事が出てくる俺って……。

 しぃの願い事を聞いたあとだと、なんとなく見せづらい文面である。

 そういや他の奴らはなんて願い事をしたんだろうか?

 ……ちらっ。

 フサや流石兄弟やイマリの様子を確認する。

「いいかイマリ。あれがデネブ、アルタイル、ベガだぞ」
「夏の大三角というやつだな」
「へぇ~、あれがそうなんですか」

 なんだ珍しい。兄者と弟者が普通に兄貴をやってるじゃないか。

「??? どれがなんだって?」

 フサは相変わらずだけど。

「ベガは織り姫、アルタイルは彦星だぞ」
「ちなみにデネブには俺の親戚がいる」

 違った。ナチュラルに真っ赤な嘘を混ぜてきやがった。あからさまなツッコミ待ちだあれ。

「えっ!? そうなんですか?」

 っておい信じるのかよ! ちっとは人の言葉を疑おうぜイマリ。

「とりあえず今見ても平気そうだな。どれどれ……。お、これはフサのだな」
 
 一枚目。フサの願い事。
 
『彼女が欲しい。億万長者になりたい。不老不死になりたい』
 
 ものの見事に煩悩の塊じゃねぇか。っていうか最後の願い事、半分はもう叶ってるんじゃないか?
 
「兄者の願いは、新しいパソコンが欲しいとか?」
 
 二枚目。兄者の願い事。
 
『タイムマシンを所望する』
 
 七夕に何を望んでんだよ。なんだ、何か過去に嫌なことでもあったのか?
 
「さすがに弟者の願い事は堅実だろうな」
 
 三枚目。弟者の願い事。
 
『タイムリープ能力が(ry』
 
 お前もか!! ……さすが似たもの兄弟。七夕の願い事が被るとは。
 
「ん? これは大家さんのか?」
 
 四枚目。大家さんの願い事。
 
『人類最強になりたい』
 
 勝手になってくれ。
 
「おっ、イマリのは真っ当な願い事だぞ」
 
『父と母が元気で過ごせていますように』
 
 良い子だ……。
 
「イマリはやっぱり優しいな~」


 と思いつつ何気なく裏返してみると。

















 
『背が伸びますように』
 
 と小さな文字で書いてあった。
 
 イマリ……(泣)



 おわり
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