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番外
七夕の夜1
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七月七日、七夕の日。
俺の住んでいるアパートの屋上に、笹が生えていた。
一本だけ。こう、にゅっと。
アパートに着いて、ああ、ぼちぼち星が見え出したなと空を見たら、屋上で笹の葉が揺れていたのだ。思わず二度見した。
「あ、ギコくーん!」
屋上から顔を出して俺を呼ぶのは、アパートのお隣さん、しぃだ。俺のクラスメートでもある。
「ギコくんも上がって上がって~」
まるで自分の部屋のごとき言いようである。いや、まあ確かに屋上は共用スペースって扱いになってるけど。洗濯物を干す以外の用途で屋上を利用する人がいるとは……。
「しぃ、そこで何してんだ?」
「七夕パーティー! 皆もいるよ~」
素直な疑問を放り投げてみると、そんな答えが返ってきた。
うちのアパートは駅から徒歩30分、最寄のコンビニまで15分弱という微妙な位置にあるが、その微妙さゆえか周囲の建物が少なく、なおかつ背が低いので星が良く見える。
星に願いを、というのなら絶好の場所だし、夏の夜空を眺めて風流な気分にも浸れる穴場スポットというわけだ。七夕イベントにももってこいだろう。
だが問題はそこではなく。
「皆ってまさか……」
「おかえりなさい、ギコさん!」
「お、やっと帰ってきたか!」
「遅いぞギコよ」
「罰として駆けつけ一杯だな」
「一昔前の大学かよ! それ以前に俺未成年な!」
お酒は二十歳になってから。未成年の飲酒は法律で禁じられております。と独り言。
「いいから早く上がってこいよ!」
「分かったよ……。今行く」
屋上にいたのはイマリ、フサ、流石兄弟。
「お団子とお茶、用意して待ってるね~」
そしてしぃ。
いつものメンバーが既に揃っていた。
「っていうか、この笹どうやって用意したんだ?」
けっこう立派な飾り付けがあるし、短冊も沢山かかってるけど。
「ふふふ。なかなか苦労したのだぞ」
得意げな顔をする兄者を見るのはちょっと癪だが、立派な出来だ。感心しないわけにいかない。
「自分たちで用意したのか? すごいなこれ」
「いや、商店街に並んでたやつを一本拝借してきたのだ」
「今すぐ返してこい!」
商店街の店の名前が入った飾りが多いなと思ったら、そういうことか!
「大丈夫だ。端っこの目立たないやつを持ってきたからな」
「そういう問題じゃねえよ!」
商店街の方々、うちの馬鹿共がご迷惑をおかけして申し訳ありません。
「今すぐ返して謝ってきなさい」
「まあ待てギコ。その必要はないんだ」
弟者が兄者のフォローに入る。ということは、実行犯はこの二人か。
「念のためにダミーの笹を配置しておいた」
キラーンと弟者の歯が光る。
「いや、普通にその笹もってこいよ」
「何言ってんだ。それじゃ短冊が少なくてつまんないだろ」
さらにフサが弟者をフォローする。そうか、つまりお前が言い出しっぺなんだな?
「まあまあ。いいじゃないですか。いまさら返されても、商店街の人たちが困るでしょうし、それに……」
さらにさらに、イマリがアホ三人を弁護する。誰に対しても優しいイマリであった。
「止められなかった僕にも責任がありますから……」
「イマリ……」
声のトーンを落としてしょんぼりするイマリに、俺は深く同情した。
「大変だったな」
肩に手を置いて言ってやる。イマリはがっくりと項垂れた。
そこへ、しぃがニコニコしながら会話に入ってくる。
「でも、スパイ映画みたいでちょっと楽しかったよ?」
「しぃ……」
一緒にいたんなら止めてくれよ。
俺の住んでいるアパートの屋上に、笹が生えていた。
一本だけ。こう、にゅっと。
アパートに着いて、ああ、ぼちぼち星が見え出したなと空を見たら、屋上で笹の葉が揺れていたのだ。思わず二度見した。
「あ、ギコくーん!」
屋上から顔を出して俺を呼ぶのは、アパートのお隣さん、しぃだ。俺のクラスメートでもある。
「ギコくんも上がって上がって~」
まるで自分の部屋のごとき言いようである。いや、まあ確かに屋上は共用スペースって扱いになってるけど。洗濯物を干す以外の用途で屋上を利用する人がいるとは……。
「しぃ、そこで何してんだ?」
「七夕パーティー! 皆もいるよ~」
素直な疑問を放り投げてみると、そんな答えが返ってきた。
うちのアパートは駅から徒歩30分、最寄のコンビニまで15分弱という微妙な位置にあるが、その微妙さゆえか周囲の建物が少なく、なおかつ背が低いので星が良く見える。
星に願いを、というのなら絶好の場所だし、夏の夜空を眺めて風流な気分にも浸れる穴場スポットというわけだ。七夕イベントにももってこいだろう。
だが問題はそこではなく。
「皆ってまさか……」
「おかえりなさい、ギコさん!」
「お、やっと帰ってきたか!」
「遅いぞギコよ」
「罰として駆けつけ一杯だな」
「一昔前の大学かよ! それ以前に俺未成年な!」
お酒は二十歳になってから。未成年の飲酒は法律で禁じられております。と独り言。
「いいから早く上がってこいよ!」
「分かったよ……。今行く」
屋上にいたのはイマリ、フサ、流石兄弟。
「お団子とお茶、用意して待ってるね~」
そしてしぃ。
いつものメンバーが既に揃っていた。
「っていうか、この笹どうやって用意したんだ?」
けっこう立派な飾り付けがあるし、短冊も沢山かかってるけど。
「ふふふ。なかなか苦労したのだぞ」
得意げな顔をする兄者を見るのはちょっと癪だが、立派な出来だ。感心しないわけにいかない。
「自分たちで用意したのか? すごいなこれ」
「いや、商店街に並んでたやつを一本拝借してきたのだ」
「今すぐ返してこい!」
商店街の店の名前が入った飾りが多いなと思ったら、そういうことか!
「大丈夫だ。端っこの目立たないやつを持ってきたからな」
「そういう問題じゃねえよ!」
商店街の方々、うちの馬鹿共がご迷惑をおかけして申し訳ありません。
「今すぐ返して謝ってきなさい」
「まあ待てギコ。その必要はないんだ」
弟者が兄者のフォローに入る。ということは、実行犯はこの二人か。
「念のためにダミーの笹を配置しておいた」
キラーンと弟者の歯が光る。
「いや、普通にその笹もってこいよ」
「何言ってんだ。それじゃ短冊が少なくてつまんないだろ」
さらにフサが弟者をフォローする。そうか、つまりお前が言い出しっぺなんだな?
「まあまあ。いいじゃないですか。いまさら返されても、商店街の人たちが困るでしょうし、それに……」
さらにさらに、イマリがアホ三人を弁護する。誰に対しても優しいイマリであった。
「止められなかった僕にも責任がありますから……」
「イマリ……」
声のトーンを落としてしょんぼりするイマリに、俺は深く同情した。
「大変だったな」
肩に手を置いて言ってやる。イマリはがっくりと項垂れた。
そこへ、しぃがニコニコしながら会話に入ってくる。
「でも、スパイ映画みたいでちょっと楽しかったよ?」
「しぃ……」
一緒にいたんなら止めてくれよ。
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