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第二話
8.一件落着
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二匹目の煙々羅は一回目と同様の手順で見事に捕まえることが出来た。続く三匹目の発見報告を受けて智久は現場に急行。到着と同時に鎌鼬三兄弟につむじをやるよう指示した。
里の妖狐や池永、篠原さんには妖気探知の御札を渡して他に迷い込んだ妖怪がいないか探してもらっている。
つむじが煙々羅の煙を剥がしたところを見計らい、智久は金縛りの術をかける御札を投げ込んだ。
がさがさと音を立てて木から煙々羅が落ちてくる。周りの妖狐たちがおおっと声を上げた。
道の上に寝転がる煙々羅。だが捕獲するため智久が近づこうと思った瞬間、煙々羅は急に起き上がって飛び立とうとした。
これには智久も、つむじによって煙を霧散させていた鎌鼬三兄弟も虚をつかれた。まさか煙々羅が金縛りの術を受けてなお動けるとは思わなかったのだ。力の加減を間違えた覚えもなく、完全に動けないと思い込んでいた。
(間に合うか!?)
もう一枚御札を取り出そうとする智久だが、煙々羅は今にも飛んで逃げようとしている。
そこへ思わぬ加勢が加わった。炎の柱が四本、煙々羅の行く手を阻むように並んだのだ。周りで様子を見ていた妖狐の一人が力を貸してくれたらしい。
進行方向に壁を作られた煙々羅は、慌てて止まろうとして足がもつれて転んでしまった。
ありがたく思いながら智久は二枚目の御札を煙々羅に飛ばす。御札が張り付いた煙々羅は雷に打たれたようにびくりと体を震わせ、道端に倒れ込んだ。今度こそ動かなかった。
煙々羅を捕まえた智久は助力をくれた妖狐のところへ向かう。
「ありがとうございました。助かりました」
「いいってことよ。助けてもらってばかりじゃあれだからな」
礼を述べると耳をぴくぴくさせながら妖狐の男は言った。あれはどういう感情表現なのだろうか。智久にも分からない。
「お~い! 二宮、大丈夫か!?」
里の中を見回っていた池永が走ってくる。また別の方向からは篠原さん、忠重さんがこちらに向かっていた。
「ざっと里の様子を見てまいりましたが、どうやら紛れ込んだのは煙々羅が三羽だけのようですな」
「そうですか。結界の方はどうでした?」
「それが、どこにも解れが見当たらぬそうです。見落としているのか、もう直ってしまったのか……」
忠重さんは思案顔だ。結界が解れていないのならば、煙々羅はどこからやってきたのか謎が残る。
「なにはともあれ、これにて一件落着。二宮殿、尽力に感謝いたします」
「いえいえ、お役に立てて光栄です」
考えを脇に置いたらしい忠重さんが深々と礼をするのを礼で返し、智久は今回の騒動について考える。
煙々羅は群れを作らない妖怪だ。同じところに三羽も現れるのは非常に珍しい。おまけに一羽は金縛りの術を受けながらも動けていた。特別妖力が強い個体というのなら納得がいくが、調べた限りではどうやらそうではないらしい。
そして一番の謎は結界に穴がなかったということだ。煙々羅はいったいどこから来たのか? 誰かが連れ込んだのだろうか? その理由は。方法は。考えても分からないことだらけだった。確かなのはこの騒動に不自然な部分があるということだけ。
「二宮殿、あまりお気になさらずに」
忠重さんは言葉にしなかったが、智久は彼が言わんとした意味は分かった。この問題は里の問題、これからはこちらでなんとかする、ということだ。部外者の自分が出来るのはここまで。
「分かりました」
智久が納得したのを見て、忠重さんはうむと頷いた。
「皆のもの! 事は全て収まった。解散じゃ!」
手を叩き、忠重さんが声を張ると、一人、また一人と野次馬が減っていく。ほとんど人気がなくなったのを見計らい、忠重さんは智久たち三人に言った。
「屋敷に戻りましょう。お礼といってはなんですが、お茶の一杯でもお出しします。ささ、行きましょう」
仕切り直しとばかりに背を押す忠重さんの好意に甘え、智久たちはまたまたお茶をご馳走してもらうことになったのだった。
里の妖狐や池永、篠原さんには妖気探知の御札を渡して他に迷い込んだ妖怪がいないか探してもらっている。
つむじが煙々羅の煙を剥がしたところを見計らい、智久は金縛りの術をかける御札を投げ込んだ。
がさがさと音を立てて木から煙々羅が落ちてくる。周りの妖狐たちがおおっと声を上げた。
道の上に寝転がる煙々羅。だが捕獲するため智久が近づこうと思った瞬間、煙々羅は急に起き上がって飛び立とうとした。
これには智久も、つむじによって煙を霧散させていた鎌鼬三兄弟も虚をつかれた。まさか煙々羅が金縛りの術を受けてなお動けるとは思わなかったのだ。力の加減を間違えた覚えもなく、完全に動けないと思い込んでいた。
(間に合うか!?)
もう一枚御札を取り出そうとする智久だが、煙々羅は今にも飛んで逃げようとしている。
そこへ思わぬ加勢が加わった。炎の柱が四本、煙々羅の行く手を阻むように並んだのだ。周りで様子を見ていた妖狐の一人が力を貸してくれたらしい。
進行方向に壁を作られた煙々羅は、慌てて止まろうとして足がもつれて転んでしまった。
ありがたく思いながら智久は二枚目の御札を煙々羅に飛ばす。御札が張り付いた煙々羅は雷に打たれたようにびくりと体を震わせ、道端に倒れ込んだ。今度こそ動かなかった。
煙々羅を捕まえた智久は助力をくれた妖狐のところへ向かう。
「ありがとうございました。助かりました」
「いいってことよ。助けてもらってばかりじゃあれだからな」
礼を述べると耳をぴくぴくさせながら妖狐の男は言った。あれはどういう感情表現なのだろうか。智久にも分からない。
「お~い! 二宮、大丈夫か!?」
里の中を見回っていた池永が走ってくる。また別の方向からは篠原さん、忠重さんがこちらに向かっていた。
「ざっと里の様子を見てまいりましたが、どうやら紛れ込んだのは煙々羅が三羽だけのようですな」
「そうですか。結界の方はどうでした?」
「それが、どこにも解れが見当たらぬそうです。見落としているのか、もう直ってしまったのか……」
忠重さんは思案顔だ。結界が解れていないのならば、煙々羅はどこからやってきたのか謎が残る。
「なにはともあれ、これにて一件落着。二宮殿、尽力に感謝いたします」
「いえいえ、お役に立てて光栄です」
考えを脇に置いたらしい忠重さんが深々と礼をするのを礼で返し、智久は今回の騒動について考える。
煙々羅は群れを作らない妖怪だ。同じところに三羽も現れるのは非常に珍しい。おまけに一羽は金縛りの術を受けながらも動けていた。特別妖力が強い個体というのなら納得がいくが、調べた限りではどうやらそうではないらしい。
そして一番の謎は結界に穴がなかったということだ。煙々羅はいったいどこから来たのか? 誰かが連れ込んだのだろうか? その理由は。方法は。考えても分からないことだらけだった。確かなのはこの騒動に不自然な部分があるということだけ。
「二宮殿、あまりお気になさらずに」
忠重さんは言葉にしなかったが、智久は彼が言わんとした意味は分かった。この問題は里の問題、これからはこちらでなんとかする、ということだ。部外者の自分が出来るのはここまで。
「分かりました」
智久が納得したのを見て、忠重さんはうむと頷いた。
「皆のもの! 事は全て収まった。解散じゃ!」
手を叩き、忠重さんが声を張ると、一人、また一人と野次馬が減っていく。ほとんど人気がなくなったのを見計らい、忠重さんは智久たち三人に言った。
「屋敷に戻りましょう。お礼といってはなんですが、お茶の一杯でもお出しします。ささ、行きましょう」
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