16 / 25
第二話
プロローグ
しおりを挟む
2019年5月下旬。二宮智久は自宅で夕食を食べていた。父と母と祖父と自分。居間でテレビを見ながら雑談する、どこにでもある一家団欒の風景だ。
やがて食事を終えた家族はそれぞれ、いつもと同様の動きをする。母と智久は食器を片付け洗い物をし、父はリビングで新聞を読む。祖父は一服するために縁側へ移動しようとしていた。
そんなとき、ピンポーンと玄関のチャイムがなった。
「あら、誰かしら?」
訪問の心当たりのない母、美智子(みちこ)が首を傾げる。
「わしが出よう。セールスだったら追い返してくる」
ちょうど立ち上がり、手が空いていた祖父、万作(まんさく)が玄関に歩いていく。お願いしますお義父さんと笑いかけて、美智子は洗い物に戻った。智久もそれに習う。
しばらくして、万作が一人の男を連れて戻ってきた。紺色のスーツを着たビジネスマン風の男だった。
「父さん、その方は?」
客が来たと見て新聞をたたみ、立ち上がった父、俊也(としや)が少し不思議そうに尋ねる。ビジネススーツにビジネス用のカバンと、その男がいかにもセールスマンのような風体であったからだ。
「お初にお目にかかります。私は井上拓哉と申します」
井上と名乗った男はすっと俊也の前に進み出ると、胸元のポケットから取り出したケースから名刺を取り出し俊也に渡した。
渡された名刺には『株式会社サムリープ 営業部 遠夜支店 井上拓哉(いのうえたくや)』とあった。遠夜市は自分の住んでいる市の名前であるから、遠夜市担当の営業マンということで間違いないだろう。ますます万作が追い返さなかった理由が分からなかったが、ふと感じるものがあって俊也は名刺を裏返してみた。
すると滲み出るように新しい文字が浮かび上がる。
『妖狐の里 案内人 三房(みつふさ)』
井上拓哉、またの名を三房というその男は、柔らかく笑って言った。
「妖狐の里から使いに参りました。二宮智久様はいらっしゃいますか?」
やがて食事を終えた家族はそれぞれ、いつもと同様の動きをする。母と智久は食器を片付け洗い物をし、父はリビングで新聞を読む。祖父は一服するために縁側へ移動しようとしていた。
そんなとき、ピンポーンと玄関のチャイムがなった。
「あら、誰かしら?」
訪問の心当たりのない母、美智子(みちこ)が首を傾げる。
「わしが出よう。セールスだったら追い返してくる」
ちょうど立ち上がり、手が空いていた祖父、万作(まんさく)が玄関に歩いていく。お願いしますお義父さんと笑いかけて、美智子は洗い物に戻った。智久もそれに習う。
しばらくして、万作が一人の男を連れて戻ってきた。紺色のスーツを着たビジネスマン風の男だった。
「父さん、その方は?」
客が来たと見て新聞をたたみ、立ち上がった父、俊也(としや)が少し不思議そうに尋ねる。ビジネススーツにビジネス用のカバンと、その男がいかにもセールスマンのような風体であったからだ。
「お初にお目にかかります。私は井上拓哉と申します」
井上と名乗った男はすっと俊也の前に進み出ると、胸元のポケットから取り出したケースから名刺を取り出し俊也に渡した。
渡された名刺には『株式会社サムリープ 営業部 遠夜支店 井上拓哉(いのうえたくや)』とあった。遠夜市は自分の住んでいる市の名前であるから、遠夜市担当の営業マンということで間違いないだろう。ますます万作が追い返さなかった理由が分からなかったが、ふと感じるものがあって俊也は名刺を裏返してみた。
すると滲み出るように新しい文字が浮かび上がる。
『妖狐の里 案内人 三房(みつふさ)』
井上拓哉、またの名を三房というその男は、柔らかく笑って言った。
「妖狐の里から使いに参りました。二宮智久様はいらっしゃいますか?」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】マギアアームド・ファンタジア
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
ハイファンタジーの広大な世界を、魔法装具『マギアアームド』で自由自在に駆け巡る、世界的アクションVRゲーム『マギアアームド・ファンタジア』。
高校に入学し、ゲーム解禁を許された織原徹矢は、中学時代からの友人の水城菜々花と共に、マギアアームド・ファンタジアの世界へと冒険する。
待ち受けるは圧倒的な自然、強大なエネミー、予期せぬハーレム、そして――この世界に花咲く、小さな奇跡。
王道を以て王道を征す、近未来風VRMMOファンタジー、ここに開幕!
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)
青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。
ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。
さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。
青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる