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6.世界の真実
魔王との際会
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長老宅で話をしたその翌朝。
俺は人界へとは戻らず、そのままエノテーカの店の二階で一夜を明かしたんだ。
長老たちとの話が終わり外に出ると、周囲は夕暮れに包まれていた。
そしてそこには、俺が出てくるのを待っていたメニーナとパルネがいたんだ。
俺は、事の経過を簡潔に2人に話して聞かせた。
メニーナは終始「ううぅ……」と唸り声を上げていたが、俺の話を何とか受け入れていた様だった。
まぁ彼女の気持ちも分からなくはない。長老より村から出る許可が下りるのを、今か今かと待っていたんだろうからな。
でも、急いては事を仕損じる。急がば回れ。果報は寝て待てって言うくらいだからな。
俺としては長老に決断を急かすつもりは無いし、それはメニーナも分かってくれたようだ。
もっとも、強く閉じられ開ける事も出来なかった外の世界への扉が、目に見えて弛んできているんだ。
気が急くのもまた、仕方ない事だけどな。
そんなメニーナ達と少し話し、俺は定宿に泊まる事としたんだった。
そして今日は……いや、今日こそは魔王城へと向かい魔王リリアに会わなければならない。
別に、彼女には会いに行くと約束していた訳じゃあないんだから、もっと遅らせた処で一向にかまわないんだが、俺の方が焦っちまって仕方ない。
なんせここまで予定を狂わされては、何だか全てが上手くいかないような気分になって来る……。
もう1つ言えば、何だかどうでもよくなってくるんだよなぁ……。
そういう意味で、善は急げ。時は金なり……だ!
うん、何だかさっきとは逆の事を言っている様だがそれはきっと気のせいだな。
「ゆうしゃさま、早く戻って来てね!」
朝一番に俺のところへとやって来たメニーナは、その言葉に幾つもの想いや願望を込めて、強い眼差しに力を籠めた声でそう言った。
恐らく昨晩も長老と話したんだろうなぁ……。
もっとも、長老とメニーナじゃあ役者が違う……か。
俺にだって、長老の相手は荷が重いんだからな。
「ああ……分かったよ」
ただしそんな事は、今のメニーナには口が裂けても言えない。
俺は短くそう答えると、メニーナの頭をワシャワシャと撫でてやった。彼女が気持ち良さそうにそれを受け入れていると。
「パ……パルネも……か……?」
スッと彼女の隣にまで進み出たパルネが、まるで順番待ちのように目を瞑ってその時を待っていたんだ。
俺の問い掛けにパルネは、ゆっくりと頷いて目を開こうとしない。
半ば苦笑しながらパルネの頭を撫でてやり、暫くそんな光景が続いたんだ……。
ただ今日は、そんな事で時間を取られる訳にもいかない。
彼女達が満足したかどうかは兎も角として、俺はスッと手を離し僅かに彼女達から離れた。
「じゃあ、行って来る。言っとくけど、間違っても勝手に行動を起こすなよ」
俺の注意に2人は揃って頷き返し、それを見届けた俺はそのまま「聖霊の羽根」を使って魔王城へと向かったんだった。
闇の聖霊ヴィスから以前いただいた「聖霊の羽根」のお蔭で、俺は一瞬で魔王城門前にまでやって来ていた。
普通に歩けば10日は掛かる行程を瞬く間に行き来出来るんだから、この羽根は本当に有難いアイテムだ。
そして俺は、勝手知ったる魔王城門を開いた。
やはり……と言おうか、魔王城内部からは侵入者を拒むかのように濃密な魔素が吹き付けて来る。
並の冒険者だったなら、この風を受けただけで肝が震えちまうってもんだ。
俺でさえ、何度来てもこの空気には慣れないからなぁ……。
ただし、此処からは以前とは違うんだなぁ。
前回までならば俺は、正攻法でこの城を昇っていた。
徘徊する魔物たちを倒し、魔神将の部屋を守るゴーレムに手を焼き、魔神将を倒して進んだ訳だ。
しかし今回俺には……魔王から貰った「魔王城のネックレス」があるからな。
これを使えば、わざわざ魔王城を上ったり下りたりして進まなくとも、一瞬でリリアの元まで行けるんだ。
こんな素晴らしいアイテムをポンっと俺にくれるリリアも大したもんだ。
そして俺は、そんな彼女の期待に答えなければならないと考えていた。
誠意には誠意で。これ、人としての常識だよな?
俺は早速、魔王リリアの元へと飛ぶためにネックレスの能力を解放した。
そして、俺の身体が消えてしまうその刹那!
俺は……ある事に気付いた!
―――あれ……? 魔王の私室じゃあなくて、魔王の間に飛ぶべきだった……のか?
俺の懸念……いや、疑問……いやいや、予感……予知……ドッコイドッコイ、フラグ……?
兎に角、そう言った様々な事柄ってやつは、悪いものほどよく当たると言うのが世の常だ。
そして今回もまた、その説に真実味を持たせる結果になった事は……言うまでもない。
「ゆ……っ!?」
「リリ……ア……?」
俺の目の前では、絶句して動きを止めてしまっている魔王リリア。
そして俺もまた、彼女の姿を見て言葉を続けられずにいたんだ。
場所はそう……魔王の私室。
何も考えずに「魔王城のネックレス」を発動させた俺は、前回訪れた場所と言う理由だけで魔王リリアの私室に飛んでしまったんだ。
良く考えれば……いやいや、良く考えなくとも、女性の部屋にいきなり訪れるのは礼を失する行為だ。
そう……俺は非常に恥知らずな事をしてしまっていた。
そしてその結果が……この状況だ。
リリアは俺の顔を見たまま動きを止めて、声すら出せずにいた。
そして俺もまた、彼女の姿を見て同じ様にフリーズしてしまっている。
その理由は……。
何もお決まりのように、リリアが着替え中であられもない姿だったから……なんてつまらない答えじゃあない。
それならば俺もまだ動けただろうし、リリアにしても大声を上げるなりクッションを投げるなり斬りかかって来るなり……最後のは嫌だけど、兎に角何かしらのアクションを取れたはずなんだ。
言うまでもなく、魔王リリアは衣服を羽織っている。
―――ただ、その身に纏っている衣装が……問題だったんだ。
「ゆ……ゆうしゃっ!? い……いきなり来るとは思わなかったからその……」
「あ……ああ、すまない。連絡手段がな……無かったから……」
「い……いや、いいのだ。それでその……この格好なのだが……」
「あ……ああ……。いや、魔王といえどもそう言った格好もするだろうからな……」
「ち……違うのだ! これはその……そ……そう、息抜き! たまの息抜きで……。ふ……普段はその……」
「そ……そうなのか……」
俺とリリアの間では、動揺を全く隠せないその様な無意味な会話が成されていた。
今、俺の目の前で、魔王リリアは……薄いピンクのワンピースに身を包んでいた。
それだけを考えれば、女性がその様な恰好をする事になんの問題もない。おかしいところなど微塵もないんだ。
しかしそれを、魔王リリアがしているとなれば全く話も変わって来る。
魔界全土を長きに亘り治め、屈強な部下達をその力で抑え込み、その強さで絶大な信頼を勝ち取っており、魔界へと侵攻して来る人界の勇者を迎え撃つ魔族の切り札。
それが魔王と言う存在だ。
そんな魔王が、町娘の様な普通の恰好をしていれば、そのギャップで絶句してしまうのは仕方がない事なんだ。
俺にしても、先日見た彼女の姿は屈強な鎧姿であり、その風情からも尋常ではない強さを感じていた。
そんな彼女が、俺の想像をはるかに裏切る格好をしていればその破壊力たるやこの世のものじゃあない。
そして……そして何よりも……。
「で……でも、随分と似合っているじゃないか……」
そう……そうなんだ!
その恰好はリリアに、非常に似合っているんだ!
俺が絶句を余儀なくされたのも、それが一因なのは言うまでもない!
「……え……!?」
し……しまった!
俺としたことが、誉め言葉など言ってしまった!
いや、褒める事に問題はない……と言うか、俺は一切嘘もお世辞も言っていないんだからしょうがない。
ただし俺が発した言葉で、リリアが頬を赤らめるところまでは予想していなかったんだ!
そんな普通な……いや、可憐な仕草なんてされたら、この空気が更にムズムズとしたものになっちまうじゃあないか!
バカッ! 俺のバカ―――ッ!
「そ……その……ありがとう……」
そして俺の言葉を聞いた彼女は、火照っていた顔を更に赤くしてそう返答して来たんだ!
その破壊力たるや!
超絶広域破壊魔法も斯くや! と言う程だった!
そんなこんなで、俺達が何とか会話が出来るようになるまでにはまだもう少しの時間を要したんだった。
俺は人界へとは戻らず、そのままエノテーカの店の二階で一夜を明かしたんだ。
長老たちとの話が終わり外に出ると、周囲は夕暮れに包まれていた。
そしてそこには、俺が出てくるのを待っていたメニーナとパルネがいたんだ。
俺は、事の経過を簡潔に2人に話して聞かせた。
メニーナは終始「ううぅ……」と唸り声を上げていたが、俺の話を何とか受け入れていた様だった。
まぁ彼女の気持ちも分からなくはない。長老より村から出る許可が下りるのを、今か今かと待っていたんだろうからな。
でも、急いては事を仕損じる。急がば回れ。果報は寝て待てって言うくらいだからな。
俺としては長老に決断を急かすつもりは無いし、それはメニーナも分かってくれたようだ。
もっとも、強く閉じられ開ける事も出来なかった外の世界への扉が、目に見えて弛んできているんだ。
気が急くのもまた、仕方ない事だけどな。
そんなメニーナ達と少し話し、俺は定宿に泊まる事としたんだった。
そして今日は……いや、今日こそは魔王城へと向かい魔王リリアに会わなければならない。
別に、彼女には会いに行くと約束していた訳じゃあないんだから、もっと遅らせた処で一向にかまわないんだが、俺の方が焦っちまって仕方ない。
なんせここまで予定を狂わされては、何だか全てが上手くいかないような気分になって来る……。
もう1つ言えば、何だかどうでもよくなってくるんだよなぁ……。
そういう意味で、善は急げ。時は金なり……だ!
うん、何だかさっきとは逆の事を言っている様だがそれはきっと気のせいだな。
「ゆうしゃさま、早く戻って来てね!」
朝一番に俺のところへとやって来たメニーナは、その言葉に幾つもの想いや願望を込めて、強い眼差しに力を籠めた声でそう言った。
恐らく昨晩も長老と話したんだろうなぁ……。
もっとも、長老とメニーナじゃあ役者が違う……か。
俺にだって、長老の相手は荷が重いんだからな。
「ああ……分かったよ」
ただしそんな事は、今のメニーナには口が裂けても言えない。
俺は短くそう答えると、メニーナの頭をワシャワシャと撫でてやった。彼女が気持ち良さそうにそれを受け入れていると。
「パ……パルネも……か……?」
スッと彼女の隣にまで進み出たパルネが、まるで順番待ちのように目を瞑ってその時を待っていたんだ。
俺の問い掛けにパルネは、ゆっくりと頷いて目を開こうとしない。
半ば苦笑しながらパルネの頭を撫でてやり、暫くそんな光景が続いたんだ……。
ただ今日は、そんな事で時間を取られる訳にもいかない。
彼女達が満足したかどうかは兎も角として、俺はスッと手を離し僅かに彼女達から離れた。
「じゃあ、行って来る。言っとくけど、間違っても勝手に行動を起こすなよ」
俺の注意に2人は揃って頷き返し、それを見届けた俺はそのまま「聖霊の羽根」を使って魔王城へと向かったんだった。
闇の聖霊ヴィスから以前いただいた「聖霊の羽根」のお蔭で、俺は一瞬で魔王城門前にまでやって来ていた。
普通に歩けば10日は掛かる行程を瞬く間に行き来出来るんだから、この羽根は本当に有難いアイテムだ。
そして俺は、勝手知ったる魔王城門を開いた。
やはり……と言おうか、魔王城内部からは侵入者を拒むかのように濃密な魔素が吹き付けて来る。
並の冒険者だったなら、この風を受けただけで肝が震えちまうってもんだ。
俺でさえ、何度来てもこの空気には慣れないからなぁ……。
ただし、此処からは以前とは違うんだなぁ。
前回までならば俺は、正攻法でこの城を昇っていた。
徘徊する魔物たちを倒し、魔神将の部屋を守るゴーレムに手を焼き、魔神将を倒して進んだ訳だ。
しかし今回俺には……魔王から貰った「魔王城のネックレス」があるからな。
これを使えば、わざわざ魔王城を上ったり下りたりして進まなくとも、一瞬でリリアの元まで行けるんだ。
こんな素晴らしいアイテムをポンっと俺にくれるリリアも大したもんだ。
そして俺は、そんな彼女の期待に答えなければならないと考えていた。
誠意には誠意で。これ、人としての常識だよな?
俺は早速、魔王リリアの元へと飛ぶためにネックレスの能力を解放した。
そして、俺の身体が消えてしまうその刹那!
俺は……ある事に気付いた!
―――あれ……? 魔王の私室じゃあなくて、魔王の間に飛ぶべきだった……のか?
俺の懸念……いや、疑問……いやいや、予感……予知……ドッコイドッコイ、フラグ……?
兎に角、そう言った様々な事柄ってやつは、悪いものほどよく当たると言うのが世の常だ。
そして今回もまた、その説に真実味を持たせる結果になった事は……言うまでもない。
「ゆ……っ!?」
「リリ……ア……?」
俺の目の前では、絶句して動きを止めてしまっている魔王リリア。
そして俺もまた、彼女の姿を見て言葉を続けられずにいたんだ。
場所はそう……魔王の私室。
何も考えずに「魔王城のネックレス」を発動させた俺は、前回訪れた場所と言う理由だけで魔王リリアの私室に飛んでしまったんだ。
良く考えれば……いやいや、良く考えなくとも、女性の部屋にいきなり訪れるのは礼を失する行為だ。
そう……俺は非常に恥知らずな事をしてしまっていた。
そしてその結果が……この状況だ。
リリアは俺の顔を見たまま動きを止めて、声すら出せずにいた。
そして俺もまた、彼女の姿を見て同じ様にフリーズしてしまっている。
その理由は……。
何もお決まりのように、リリアが着替え中であられもない姿だったから……なんてつまらない答えじゃあない。
それならば俺もまだ動けただろうし、リリアにしても大声を上げるなりクッションを投げるなり斬りかかって来るなり……最後のは嫌だけど、兎に角何かしらのアクションを取れたはずなんだ。
言うまでもなく、魔王リリアは衣服を羽織っている。
―――ただ、その身に纏っている衣装が……問題だったんだ。
「ゆ……ゆうしゃっ!? い……いきなり来るとは思わなかったからその……」
「あ……ああ、すまない。連絡手段がな……無かったから……」
「い……いや、いいのだ。それでその……この格好なのだが……」
「あ……ああ……。いや、魔王といえどもそう言った格好もするだろうからな……」
「ち……違うのだ! これはその……そ……そう、息抜き! たまの息抜きで……。ふ……普段はその……」
「そ……そうなのか……」
俺とリリアの間では、動揺を全く隠せないその様な無意味な会話が成されていた。
今、俺の目の前で、魔王リリアは……薄いピンクのワンピースに身を包んでいた。
それだけを考えれば、女性がその様な恰好をする事になんの問題もない。おかしいところなど微塵もないんだ。
しかしそれを、魔王リリアがしているとなれば全く話も変わって来る。
魔界全土を長きに亘り治め、屈強な部下達をその力で抑え込み、その強さで絶大な信頼を勝ち取っており、魔界へと侵攻して来る人界の勇者を迎え撃つ魔族の切り札。
それが魔王と言う存在だ。
そんな魔王が、町娘の様な普通の恰好をしていれば、そのギャップで絶句してしまうのは仕方がない事なんだ。
俺にしても、先日見た彼女の姿は屈強な鎧姿であり、その風情からも尋常ではない強さを感じていた。
そんな彼女が、俺の想像をはるかに裏切る格好をしていればその破壊力たるやこの世のものじゃあない。
そして……そして何よりも……。
「で……でも、随分と似合っているじゃないか……」
そう……そうなんだ!
その恰好はリリアに、非常に似合っているんだ!
俺が絶句を余儀なくされたのも、それが一因なのは言うまでもない!
「……え……!?」
し……しまった!
俺としたことが、誉め言葉など言ってしまった!
いや、褒める事に問題はない……と言うか、俺は一切嘘もお世辞も言っていないんだからしょうがない。
ただし俺が発した言葉で、リリアが頬を赤らめるところまでは予想していなかったんだ!
そんな普通な……いや、可憐な仕草なんてされたら、この空気が更にムズムズとしたものになっちまうじゃあないか!
バカッ! 俺のバカ―――ッ!
「そ……その……ありがとう……」
そして俺の言葉を聞いた彼女は、火照っていた顔を更に赤くしてそう返答して来たんだ!
その破壊力たるや!
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